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ACT.0 Prologue

さて、この小説はなんですかという話なんですが、この小説『A.U.R.A. 〜The other side of BlackRose〜』は小説家になろう内にて好評連載中の貴志真 夕先生が執筆中の巨大ロボットSF小説、『A.U.R.A. アウラ』の外伝です。


何でそんなもんを書く事になったのかはもしかしたら追々語るかもしれませんが、貴志真先生との緻密な打ち合わせの上に執筆されたある意味公式のサイドストーリーとなっております。


アウラ本編を既読の読者様も、アウラってなんぞ? という新規様にも楽しんでいただけるような小説を書けたらいいなと考えておりますので、どうぞもう一つのアウラにお付き合い下さい。


そして興味を持った人は『小説を読む』ボタンの下の本編にアクセスだ!(笑)



まあどういう事かと言うと、コラボ企画小説、みたいな感じに考えてもらえれば。

もういいですよね。じゃあ本編行きましょう。何が起きてもここから先は保障できませんよ! それでは!


 名は、体を現す。同時に体は名を――それは、魂を表現すると言う事。では、その名を持たぬ物は? 肉体は存在しないのか?

 当然、名が無ければ肉体が存在しないという理屈には通じない。名が無くとも存在は続いて行く。では、それを何と表現するべきか?

 その少年には名が無かった。心も無く、記憶も無い。故に少年は生まれた瞬間から何者でも無く、何者にさえも成れ、しかしそれを選ぶ権利は与えられなかった。

 泡沫――。まるで重苦しい海中に投げ出されたかの様な自意識の中、浮かんでは弾けて行く泡の中に想い出を投影する。

 走馬灯……恐らくそんな言葉が似合う景色。時の流れは無限であり同時に刹那とも同義。故にそれは泡沫の夢。消えてしまう直前、一瞬だけ眩く輝いた自意識の欠片。

 赤く、赤く燃える世界がそこにはあった。夥しい量の血と空を焦がすような炎が世界を赤だけに染め上げている。故にその景色の中、感じ取れる物はただ“赤”のみ。

 少年はその赤に見惚れつつ引き金を引いていた。何も考える必要は無かった。銃口を向けられた人々は次々に死んで行く。命が赤に飲み込まれて行く……。否、その命から溢れ出した物もまた“赤”。

 もしかすると、世界の裏側は真っ赤なのではないか? そんな事をふと考える。街を焼く炎の景色の中、けたたましい銃撃戦の音が心地良く胸の中に響き続ける。

 物陰から物陰へ、少年は姿を隠しながら移動する。息はとっくに上がっている。死を目前とする緊張感に心臓の鼓動は鳴り止むはずも無い。

 しかしその緊張感にどこか酔いしれるような気持ちで少年は熱に浮かされ赤の景色を作り続ける。そこに正義や悪と、或いは感情と呼べるものが介入する余地は無かったのかもしれない。

 何故ならば少年は名を持たず全てを持たず、それ故に何者でも無く、それはまるで広大な世界を彷徨う幽鬼のよう。

 ふと、少年は空を見上げた。巨大なビルから今正に飛び立とうとするヘリコプターの姿がある。夜の闇を切り裂く風の音、しかしその姿は空を照り上げる炎によってくっきりと夜のキャンバスに写し取られていた。

 銃声に意識を自分自身へと戻す。弾丸が二の腕の肉を抉り取って行く。痛みに表情を歪め、そして少年は自らの敵へと銃口を向けた。

 マシンガンから吐き出される弾丸の音色。それを掻き消すように背後で火の手が上がった。爆風に吹き飛ばされた少年は壁に強く背中を撃ち付ける。

 炎に包まれたヘリコプター。それがつい先ほどまで闇に浮かんでいた物である事を知る。そしてそれが大地に落ちた衝撃で自分は吹き飛ばされたのだと理解する。

 状況を把握しながら立ち上がる。そう、そこは戦場――。大都市の真っ只中、在ってはならない“戦場”であった。

 戦いは続く。少年は銃を撃ち続けた。やがて背後で誰かの声が夜空に響き渡った。魂の底から想いを吐き出すような、強く暗い慟哭――。

 悲痛な嘆きさえも夜の闇と街を包む赤は飲み込んで掻き消してしまう。引き金を引けば引くだけ飛び出す弾丸は、誰かの思いさえも撃ち抜いてしまうだろう。

 それが、それこそが最も深く少年の心の中に刻まれた戦場。始まりの場所。そして恐らくは、彼の魂が帰結する場所――。



 ――その場所は、息苦しさを感じるような白い霧に覆われて居た。

 霧が晴れる事は無く。それ故に誰にも知られる事も無く。ただ、“何事も無く”、彼の人生は終わりを迎えようとしていた。

 夢から覚めたような清清しい気持ちで瞼を開く。“重い”――。その心の中の呟きは言葉になる事は無かった。

 遠くから、故郷の音が聞こえる。人と人とが撃ち合い身を滅ぼし続ける、戦場の音だ。青年はゆっくりと息を付く。まだ、どこかで誰かが戦っている。命がどこかで燃え尽きようとしている。

 焼け付く魂の叫びが聞こえる。“公開回線オープンチャンネル”に合わせられたままの通信機がひっきりなしに断末魔を送り届けてくる。

 だというのに、その場所はとても静かだった。何の物音も無い。鳥の羽ばたきも、風のうねりさえも無く。ただ彼と、彼を包み込む巨大な“がらくた”だけ。

 深い深い、幻想的な霧に包まれた森の中。そこに二つの“がらくた”が打ち捨てられていた。それは巨大な人の形を模った“兵器”。

 機械仕掛けの巨人が二つ、お互いを抱き合うようにして停止している。何の音も無く、何の感傷も無く、そこで二つの“がらくた”は終わろうとしていた。


『……死んだのか?』


 公開通信の騒がしい声に混じり、小さく響く声。彼の横たわる巨人の正面、それと正面から衝突するような姿勢で停止している巨人からの声だった。

 兵器から兵器へ、声を鮮明に送り届ける糸が張られていた。有線通信――。青年が答えずとも、声の主は言葉を続ける。


『誰にも知られる事も無く、誰からも疎まれたまま消えてしまう。どんな思い出の中にも残る事は無い……。その一生に、意味はあったのか?』


 “生きる意味”――。そんな大層な物を考えた事は無かった。人は生まれれば生きる事を義務付けられ、同時に死さえも宿命付けられる。

 一生を生き抜いた意味と言う物が残せるのならば、それは満足の行く一生なのか? 青年はそんな事を考え、口元に微笑を浮かべる。


「意味を問う事は、それこそ無意味じゃあないか……? それとも君は……自分の一生に意味があったとでも思うのかい?」


 返答は無かった。それは恐らく会話の終了であり、青年が最後に発する言葉でもあった。

 身体が上手く動かない。しかしそれでも心は何故か酷く穏やかだった。血に濡れた指先を上着の内ポケットへと伸ばし、そこから一枚の写真を引っ張り出す。

 それは年季が入り皺だらけになっていた。何度も何度も、何度も捨てようと考えた。しかしその度に屑篭から拾い上げてしまった物。

 ふと、先程自らに向けられた問いに対する答えをそこに見た様な気がして笑ってしまう。“生きる意味”……。否、今こうしてその命が尽きようとしているのならば、正しいのは“生きた証”。

 青年はそっと目を閉じた。その指先から写真が零れ落ち、ひらりひらりと揺れながら落ちて行く。

 くしゃくしゃになった写真の中、青年は微笑んで居た。魂の矛盾と生きた意味、その両方を孕むその小さな枠の中、蒼い秩序に身を包んだ青年は確かに笑っていた。

 

『…………死んだのか?』


 もう一度、誰かの声が聞こえた。しかし青年は最早答える事は出来なかった。一人小さな箱の中、目を瞑り眠り続ける。

 白い霧も、深く黒い森も、全てが彼を癒す様に世界を包み込んでいる。その姿を懸命に世界の全てから遠ざけようとするその“不確かさ”こそ、青年が羨望した全てだった――。



A.U.R.A. 〜The other side of BlackRose〜


Prologue



 それは、白い天使が少年に出会う前の物語――。



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