寝間着を抱いた少女は初めてのソレを知る。
「…」
木之下くらげは悩んでいた
目の前に転がる真っ白い「それ」を見ながら
そしておずおずと口を開く
「…ねぇ…」
海月姫は眠っていた
いや 実際は眠っていないのだ くらげが来た事には気づいている
だが脳は眠っているのだ 寝ているような物だろう…そう考え頭から布団にくるまり再び眠ろうとすると聞きたくない言葉が聞こえてきた。
「学校 いかない?」
「嫌だ!」海月姫は布団の中で珍しく叫んでいた
「行こうよぉ…」友人のくらげは悲哀を秘めた声で懇願する
が これだけはねじ曲げる訳にはいかない 行くものか
「ポイントは払ってるから行く必要はない!故に行かない!」
何度目だろうかこの問答は 入学してからかれこれ二週間 毎日このやり取りをしている
「故にって…はぁ…でもさ姫ちゃんそろそろ足りないんじゃないの?菓子パン代。授業出ればポイント貰えるし帰りにパンも買える!おっとくだよー」
「…」
呆れ口調の友人に言われた事は図星ではある
最近はアンティ勝負を仕掛けても何故か受けてくれない事が多いのだ
毎日毎月菓子パンを買っている事で入学式の日に手に入れたポイントもすっかり底をつきかけていた
「アンティ勝負。受けてもらえないんでしょ」
「…」
「隣のクラスの子に教えてもらったの。入学式の日のアレ、纏められてるらしいの これ、原因じゃない?」
「個人情報の流出じゃないか!」
「勝負の纏め自体は合法だよ姫ちゃん…私達も今同じ学校で対戦してる人の試合は自由に見れるんだからさ」
ほとほと疲れたのか言葉には諦めが見える
「じゃあ私そろそろ学校行くからね 来たかったらおいでよここにスケジュール置いとくからね」
遠くからの籠った声と扉の閉まる音が聞こえ私は勝利を確信し布団をはね除け両手を上げ叫ぶ
「私の勝利だぁぁぁぁぁあ!!!!」
そして時間を確認しようとチラリと時計のある方向を見ると、
冷たい目をしたくらげがこちらを見ていた。
「…携帯…忘れたから取りに来たの…」
少しの間からそう呟き、携帯を鞄に入れ扉の閉まる音が響く
気まずさに海月の心は砕けそうになるのだった。
「んー…来てくれないかなぁ…学校…」
くらげは中庭で弁当を食べながらポツリと独り言を呟いていた
「アレあってからクラスの子からは避けられてるし…んー…」
仮に自分がクラスの子ならば…と考えるが
「まぁ怖いか…」
体格の良さに加えて入学早々の騒ぎを起こした問題児なのだかかわり合いにはそうそうなりたくは無いだろうと結論を出す。
「月末のコレ…興味あるかなと思ったんだけどな」
手にしていた紙パックの野菜ジュースを飲み干しストローを齧りながら一人で思案するが
「まぁいいや…日向ぼっこでもしよ…」
すぐに思考を放棄して ベンチで微睡んだ
「うぅ…」
海月は携帯で自分のポイント残高を見て唸る
もう後二日程度あれば尽きてしまうであろうそれは夢であればと思い残高ページのリロードを繰り返す
「何度見ても変わんないよな…」
そりゃそうだと冷静な自分が答えている
ふとくらげが置いていったスケジュール表を見るとそこにあった一つのイベントに目が吸い込まれた
「月末対抗戦…?」
ヨレヨレになった学生服に着替え 海月はマンションを飛び出した
「くらげ!!!!」
「うわぁ!」耳元で叫ばれ大声をあげてしまう
「ひ…姫ちゃんか…姫ちゃん…?姫ちゃん!?学校来たの?すごい!すごい!えらいね!」
「いいや!すぐに帰る!聞きたいことを聞いたら!」
「は?」
待望の時が来たと歓喜したのも束の間その感情はすぐ落胆に変わってしまった
「…何を聞きたいの?」
「この対抗戦っての!これ!!これポイント出るよな!な!」
「出るけど…あぁ…なるほど…」
毎月末に行われる対抗戦は戦とは名ばかりの物で教師達がユニークな武器の扱い方や単純に技能の高い者などにポイントを進呈するという物である
ようは普段実力で敵わないから…と戦わない生徒をこれで少しでもモチベーションを上げよう!という催しなのだが…
「私!出る!」
目をキラキラと輝かせる友人に少し引きつつ
「今回は見送りみたいな話らしいよでも」
「何でだ!ポイント…ポイント貰えるんだぞ!勿体ない!」
授業で貰えるポイントを捨てておいて何を言っているんだという言葉を飲み込み
「参加者居ないんだって 来週テストあるしそれが大きいかな」
「んな……」
「少し良いですか?」
呆然とする海月は声を掛けられ振り向くとそこに立っていたのは夜の様に黒い髪をショートカットにした青い眼鏡の少女だった
「私は今…元気無いんだ…後に…し…て…くれ…」
「海月 姫 貴方の制服の乱れは風紀を乱しています 直しなさい」
「…私を名前で呼ぶな」
地雷を踏まれついでに苛ついているのか威圧的に返す海月にくらげはこれ以上の騒ぎは不味いと慌てて口を開く
「あはは…栗栖さん姫ちゃん学校慣れてないの…許して貰えないかな?」
「木之下さんの御学友でしたか…この人」
「うへへ…まぁそんな来ないんだけど…一応そうだよ」
「一応…なるほど…不登校ですか」
少し和らいだ表情になった眼鏡の少女の名前は栗栖芽梨李学年では有名な風紀委員である
くらげは入学して少しした頃、毛色について聞かれた事でちょっとした知り合いになっていた
姫の事が纏められている事も栗栖に聞いた事だった
「不登校…気分が悪いが…くらげ、帰るぞ私」
「待ちなさい!その前にちゃんと制服くらい直して…」
「帰るんだから関係無いだろ!」
「あります!その制服を着ている以上は風紀を守って貰うのがルールです!」
「面倒なやつだな芽梨李!」
「私の名前を呼ぶな!!!だらしない人!何で学生服の下が寝間着なんですか!」
「う…うるさい!慌ててたんだから仕方ないだろ!」
「慌ててても着て来ないですよ普通は!」
そして今 目の前で再びヒートアップし始めた言い争いをくらげは冷や汗をかきながら見守る事しかできなかったできなかった。
「そ…そうだ!良いこと思い付いたから!ね!喧嘩止めよう!」
「あ゛ぁ゛…!?」「なんですかそれ!」
「「私は間違ってない!!」」
ダメだ…止まる気配が無い…もうチャイム鳴るまで待とうかな…と覚悟を決めたその時に渡り廊下から声が落ちる
「おーい!メリー!」
「…ッ…姉さん…」
「なーに揉めてんだヨお前」
その声の主である寝癖でぼさぼさな黒髪を腰まで伸ばした栗栖 鈴音
栗栖 芽梨李の双子の姉であり 芽梨李の名前を呼ぶ数少ない生徒でもある
鈴音はつまようじをがじがじと齧りながら気だるげに揉めている理由を聞き鼻で笑うとこう提案した
「んじゃさ戦ってよ、強いやつが正解で良いじゃんよ」
「…ほう」
「姉さん…本気で言ってるの…?対等じゃないのは…私は…」
満更でも無さそうな顔をする海月に対して芽梨李は不満げという対照的な反応を見せた
「勝つ自信ねぇワケでもないんだろソイツは…なら良いじゃんさボコって残る試合の動画は非公開にして、海月だっけ?の謝罪でも聞けばよ」
「…」
「負ける気は無いがな」
「だとさ」
芽梨李は顎に手を当てて少し考えているのか黙るが海月は鈴音を睨み付けて勝利宣言をしている やる気満々だ
「ちょっ…本気でやるの!?姫ちゃん…」
「当たり前だろ…売られた喧嘩だ買わねば男が廃るって言うだろ」
「女の子でしょそもそも!廃らせなよそんなの!これ以上騒ぎ起こすのは良くないって…」
蚊帳の外で呆然と見ていたくらげは慌てて止めようとするが…
「…分かった…姉さん」
「やりましょう 海月さん」
「望むところだ …栗栖」
芽梨李の言葉で火蓋は切られてしまった
フィールドが展開される
地面が土に変わりサバンナの様な景色に変わる。
装備を展開しどぎついゴスロリに身を包みピンク色のハンドガンを持つ姫と黒い道着と藍色の袴に身を包み腰に美しい椿の紋様が刻まれた鞘に包まれた刀をを差す芽梨李は何とも言えないシュールさを醸し出している。
(大丈夫かなぁ…栗栖姉妹は強いって噂だけど…)
「不安そーねくらげチャンサン」
不安を纏い胃が痛みを発し始めたくらげの横にはいつの間に降りてきたのか鈴音が立っていた
「あっ…宜しくお願いします…その…注意してくれた妹さんに失礼を…」
「んー…いーのいーの…カタブツなもんで…すまんねこっちも…」
めんどくさそうに謝罪を返す鈴音は芽梨李をじっと見つめた後ポツリと呟いた
「…勝ったかな…」
「えっ?」
春一番がその声をかきけすかのように吹くと同時に試合は始った
勝負は直ぐに終わった
(刀…詰められるのも厄介だし開幕ロリポップシュートで終わらせに行くのが吉か…?)
そう考え銃口を顔に定めた瞬間 鞘に刀を納める甲高い音が響き強い衝撃で銃が空に舞い身体が後ろによろめく
「え?」
思わず口から困惑が溢れ次の瞬間に芽梨李と目が合う
「千の刻みは…我が腕より邪を射つ…!」
「千手…必勝!!!」
叫ぶが早いか 刻まれるが早いか 再び甲高い音が響いたその時に姫の身体は三度大きく切り裂かれ敗北を告げる機械音声が流れた
「…負けた…私が…?」
今まで負けた事が無いわけではない だがここまで完膚無きまでに負けた事は初めてであった
「私の勝ちです…が…私は貴方の銃を知っていて…私は今貴方に私の刀を見せました
来月の学期末戦そこでなら対等な勝負が出来ると思いますが…どうでしょう 海月 姫。」
悔しさが胸を貫く 自分の傲りに怒りが沸く
「謝らせては貰うし学期末で対等な勝負もする… 栗栖 芽梨李 …私はその布告を受け入れる」
「えぇ…謝罪はその時にでも…」
「今謝るって言ったろ…!」
「後で良いと言っているんです!勝者命令ですこれは!」
「なんだと!だったらこっちは敗者命令だ!ごめんなさい!悪かった!すまない!ほらどうだ!」
「あー!あー!あー!聞こえません聞こえません!そろそろ授業が始まりますから…じゃっ!」
「嘘をつけ!お前!おい!芽梨李!」
「名前を呼ぶな!!!」
「聞こえてるじゃないか!!!」
「…収まんなかったっすね…」
「…ここまでキレてんの久々に見るわぁ…」
くらげと鈴音は一歩引いてその喧嘩を見守り そして授業開始の五分前を告げるチャイムが鳴るとようやくそれは終わるのだった
夜。海月 姫は空を見て考えていた 栗栖 芽梨李の刀の事を
(…見えない刀か…幽霊みたいだな…)
何度考えてもあの攻撃を防げる自分が思い付かない
未だに見せていない自分の二つ目の武器を使ってもアレと撃ち合いが出来るのかが分からないのだ
(デメリットが大きい…やはり名前を叫ばないと撃てないラグか…どうにか出来ない物かなこれは…)
自身の一番の武器である銃の最大の強味はリロード等の複雑な手順を必要とせず弾がビーム弾という不思議弾である事だ
これは優秀な特性であると理解はしている があのタイプの速度のある相手にはどうしても弱い
(分かっていても捨てていた部分を…拾わなければならない……)
練習用に使っているガスガンを強く握り自分の弱さを見つめ直し海月 姫は思う
(私は…アイツに勝ちたい…!)
満月に向け一つ引き金を引く
これは自分へのスタートの合図だと言う心を込めて
「…通学かぁ…」
夜の風は少し冷たく 熱を持った心には心地よかった。
芽梨李ちゃん書いててたのしい