伯爵令嬢とお酒~酔ったら本音が出るよね~
ここは貴族の子息、令嬢が通う学園内にある食堂。
その一角にこの国の第2王子とその側近候補3名が最近この学園に入学を認められた男爵令嬢を取り囲むようにしていた。最近の彼らはこの場所がお気に入りのご様子だ。
そこへ黒髪、ブルーの瞳の気の強そうな女性が近づく。
「スイ様、いい加減になさいませ。私という婚約者がおりながら他の女に色目を使うとは・・・はぁ、次期侯爵としての威厳もあったものではありませんわね。あー、まぁ私は?別にスイ様のことなんてどうでもいいのですけれど、婚約とは家と家との契約ですもの。その辺りきちんと考えて下さいませ。私が恥をかくんですのよ。何度も注意しておりますがいい加減理解していただないかしら?」
スイと呼ばれたのは第2王子側近候補の一人である、ラッシュ侯爵家の長男。
スイの婚約者であるのは伯爵令嬢のアリーナ。食堂で第2王子ご一行の中にスイを見つけると毎度婚約者としてありがたいお言葉を直接言ってくる。
「アリーナ、僕はね君のこと婚約者と認めてなど「では、失礼しますわ」」
アリーナはスイの言葉を遮るように踵を返しさっさと食堂を後にした。
アリーナが去り残されたご一行はというと、男爵令嬢マリーが2つに纏めた桃色の髪を大袈裟に揺らし大きな目を上目遣い(固定)にしスイに迫っていた。
「何あれ?スイ、あんなのが婚約者だなんて可哀想。私だったらスイにあんな酷いこと言わないよ。」
「そうだな。マリーは優しいからな。」
「やだぁ、本当にそう思ってる?スイさえ良かったら私がスイの「俺もマリーの優しいところが好ましいぞ。」
とマリーの言葉を遮ったのは第2王子。
「もちろん私もだマリー」
「俺もだぜ!」
「ありがとう。私も優しい皆が好きよ。」
などと婚約者がいる男達を侍らせる男爵令嬢という茶番劇を披露していた。
他の生徒はなるべく関わり合いたくない為無視だ。
※※※※※
アリーナは学園の寮の自室にいた。
(またやってしまったわ・・・どうして素直になれないのかしら。こんな可愛いげのない私では婚約破棄もありえるのではないかしら・・・やっぱりスイ様は私を婚約者とは認めてない・・・)
「・・グスッ」
一人反省会である。
「こんな気持ちのまま眠れないわ。こんな時は・・お母様、頂きますわ。」
アリーナはベッドの下から琥珀色に輝く液体の入った瓶を一本出すと、コルクを開け用意していたグラスへと注いだ。
「っぷぁ~。美味しいわ。」
この瓶の中身は勿論お酒である。ちなみにアリーナはお酒を飲める年齢である。
アリーナの母親は素直になれないアリーナをことのほか心配していた。婚約者のスイを心から愛していることも、好きすぎて本音が言えず突っかかった物言いしか出来ない事も。
だってアリーナは母親の性格をがっつり受け継いだのだから。
アリーナの母が父と出会ったとき一目惚れしたのにも関わらず素直になれず落ち込みしばらく寝れなかった娘に「お薬よ」と母親(アリーナの祖母)から渡された度数の低いお酒に助けられたのだ。
だから母親は「心配事があって眠れない時に眠れるようになるし、素直になれるお薬よ」と言って渡したのだ。
注意を添えて。
『只し、一回に飲むのはグラスの半分ですからね。必ず守りなさい。』
「今日は全然寝れませんわ。気分も落ちたままですし。あと半分ならいいかしら?いいわよね?だってお酒・・・お薬ですもの。」
と自分に言い聞かせるようにお酒をグラスへと注ぎ続けた。
「・・・スイに会いたい」
アリーナは完全に酔いが回っていた。
時間は夜の8時を回ったところ。
生徒達は寮の夕飯も済み各自部屋へ戻ってそれぞれの過ごし方で休んでいる時間だ。
アリーナはどうしてもスイに会いに行きたいという気持ちを押さえられなかった。
タンスからお気に入りのコートを持ち出すとさっさと寮を後にした。
※※※※※
(スイはどこ?アリーを一人にしないで。スイィ、)
アリーナは男子寮の潜入に成功していた。
(スイの部屋はどこかにゃ?もぉ泣きそぉ)
「おい、ここで何をしてる?」
男に背後から肩を掴まれ声をかけられたアリーナは勢いよく振り向くと酔っていたため足をもたつかせ倒れそうになった。男はアリーナを正面から抱き締めるように支える。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あの、ありがとうございましゅ」
アリーナは白い肌が頬だけピンクに染まり、上目遣いのブルーの瞳は涙に濡れていた。
「うっ、お前はスイの。いや、なぜここに。」
「あなた誰でしゅか?スイはいましゅか?ねぇ、ねぇってば。スイに会いにきたのにぃ、グスッ」
アリーナは第2王子ラツィオの胸ぐらを掴み(女性の力なのでかわいいもの)スイは何処だと泣いて迫る。
(本当にこれがあのアリーナ嬢か?可愛すぎるだろ)
「なぁ、アリーナ嬢。スイなど止めて俺にしないか?」ラツィオは思わず言ってしまった。
「?なにゆってるんでしゅか?スイはアリーの婚約者ですのょ。アリーの婚約者はスイなのでしゅわ。でもスイがアリーのこと嫌いになったら・・誰でしたっけ?」
「ラツィオだ。」
「んー、ラツィオのものになっても・・・ぐぅー」
急にアリーナの体の力が抜けた。
「おい?大丈夫か?寝たのか・・とりあえずどうするかな。はぁ」
※※※※※
「いったぁーい!」
翌朝アリーナはあまりの頭痛に大声をあげた。
「ほら、水だ。」
差し出されたグラスを素直に受けとり一気に飲み干した。
「んー美味しい。ありが・・・・と」
「どういたしまして。アリーナ。」
目の前にいたのはアリーナへ満面の笑みを見せる金髪碧眼のこの国の第2王子ラツィオだった。
「えっ、え、えーーーーーー!!!」
アリーナはまた絶叫した。
※※※※※
~アリーナが寝落ちしてから~
とりあえずアリーナが男子寮にいることがばれても不味いと考えたラツィオはアリーナを女子寮へ送ることはもちろん、婚約者のスイへ連絡もしなかった。そして自室へとアリーナを運んだ。
「ふぅ、サディ」
ラツィオは誰もいないはずの部屋で名を呼ぶとすぐに返事がある。
「はい、ラツィオ様」
「アリーナ嬢に不都合のないように」
「かしこましました」
ラツィオは自分の服をギュッと握ったまま離さないアリーナを抱き締めたままベッドへ座った。
「これでアリーナに不都合はないな。なぁ、アリーナ、俺のものにならないか?」
アリーナは「・・スイ」と一言。
「俺は側近候補の皆には幸せになって欲しい。バカな女に本気にならないようね。婚約者のいる皆がおかしなことを言い出さないよう注意していたんだけど。でもね、君が手に入るなら・・・。」