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策略生徒会  作者: 中川大存
第二章【悪意の球技大会】
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第二章【悪意の球技大会】⑦

 

          [7]

 

 ぶつり、と音を立てて通信は途絶えた。

「──気付いた、か」

 梁山は呟いた。

 盗聴器が見つけられること自体はすでに梁山の予想の中に織り込み済みだった。その場合の次の手ももちろん用意してあったのだが、ここまで場が進んでしまってはそれを使う意味もない。むしろ今の今まで気付かれなかったことが多少予想外だった。連上は思っていたよりも愚鈍だったと判断せざるを得ない──いや、と言うよりは自分が必要以上に買いかぶっていたのだ、と梁山は反省した。一度足を掬われているせいで慎重になりすぎたのかもしれない。

 渡辺と繋がっているトランシーバーを取る。ボタンを押すと、淡々と声を吹き込んだ。

「渡辺、校舎裏には着いたか?」

「いえ、今向かっているところです。全員の態勢を立て直すのに少し時間がかかりまして──でも、もうすぐ到着します」

「そうか、ではそのまま聞いてくれ。ちょっとした問題が発生した。連上が盗聴器に気付き、破壊したようだ」

「そう──ですか。もう少しだったのに──追跡はやめますか」

「やめるわけないだろう。問題ない、奴の行き先は予測できる」

 梁山は一呼吸置いてから続けた。

「今日の連上は一貫して逃げ腰だ。最初は策があるようなことを言っていたが、我々の迅速な追跡でどうもうまくいかなかったらしい。盗聴器を壊した今、奴らは一目散に校外に脱出しようとするだろう」

「もう向かってくることはありませんか」

「まずない。さて、奴らの現在位置を考慮すると、逃げるとすれば西門か正門だな」

「どちらに布陣しますか?」

「そうだな……いや、あえてどちらかを選んでしまうと捕獲の可能性は五割に減ってしまう。かと言って分散するのも不安が残るから、ここは西門と正門の中間点──つまり運動場の左隅だな、そこに留まれ。そして両方を見据え、出た方に突撃をかければいい」

「こちらの裏をかいて──門ではなく塀を乗り越えて脱出すると言う線は?」

「もちろんある。だから、その中から十人選出して高校の敷地の外周を見張らせるんだ。教師に見咎められたらウォーミングアップのためのジョギングとでも言えばいい」

 十人ですか──と、渡辺は不服そうな声を上げた。

「我々十七人の中から十人も校外に出したら門の守りが薄くなりますよ」

「わかってるさ。だが最低十人はいないと一周カバーできないからな──門の守りに関してはお前の言う通りだ。だから──」

 梁山は背後を振り返った。

 薄暗い部屋の中には、男たちが待機している。それは予備兵力──今の今まで梁山が温存していた虎の子、テコンドー部部員七名だった。

「こちらからBチームを派遣する。それなら西門・正門共に七人が睨みをきかせる勘定になる。問題ないだろう」

「わかりました。早速動かします」

 得心がいったような声を最後に渡辺は通信を打ち切った。梁山がトランシーバーを置くと同時に、会話を聞いていたBチームの面々がばたばたと部屋を出て行く。

「……くく、くくくく」

 梁山はがらんとした部屋の中で、一人余裕の笑みを浮かべた。

「どうだ連上──この布陣は鉄壁だ。おそらく逃げ回りながら追手の人数を観察し、十七人なら完全な非常線も張れるまいと踏んでいるのだろうが──最後の最後で計算が狂ったな?」

 あらかじめ二十四人の部員を十七人のAチームと七人のBチームに分けておいたのは、梁山にとっては当然の手だった。単純に力で見た時、たった二人を潰すために全軍を投入するのは無駄だということは明白だったし──常にいくつか切り札を持った上で戦うのが梁山のスタイルでもあったからだった。

 そしてその戦略は最後に意味を持った。とどめの一手を打ち、梁山は勝利を確信した。

「やれやれ」

 首を捻ると、ぼきぼきと乾いた音が体内に響いた。身じろぎもせずに盗聴器から送られてくる音声を拾い、緊張状態の中で作戦を指揮し続けたせいで、梁山の体はすっかり固まっていた。

 梁山は体の凝りをほぐしながら唇を歪ませる。

「これで終わり──もう何を画策しても無駄だ。お前達は絶対に校内から出ることはできない。すべての道は塞がれたんだからな。知略策略を超えるのは──圧倒的兵力差だ」

 

 

「それは──違うと思うな」

 

 

 声がした。

 梁山はぎょっとした。今の声は──梁山の独り言に返答したその声は。

 今ここにいるはずがない人間のものだった。

 振り返る。

 声は実像を伴っていた。もちろんそれ自体は至極当然のことだ──実体もなく声だけが聞こえるなど、単なる怪異譚である。しかし梁山にとっては、そこにただ当たり前に人がいても──それは十分に怪異だった。

 戸口に人が立っていた。

 梁山の感覚では絶対にここにいてはならないはずの、連上と島崎が立っていたのである。


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