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策略生徒会  作者: 中川大存
第二章【悪意の球技大会】
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第二章【悪意の球技大会】⑤

 

          [5]

 

 程良い緊張感に心地良さを覚えながら、渡辺修は大きく息を吐いた。

 事態は順調に推移していた。

 テコンドー部は今のところ、すべてにおいて先手を取れている。敵の現在位置と向かう目的地が常に把握できているのだから当然と言えば当然なのだが、それなのに今だ捕獲に至らないのは連上と島崎の運動能力が予想よりも高かったのと、数々の仕掛け──校内の各所に施された細工のせいであった。

 自転車置き場に放置された自転車から伸びる、足を掬うワイヤー。

 植込みの中に隠された、一網打尽のネット。

 渡り廊下の端にくくりつけられた、鏡を組み合わせて設計した陽光反射による対多数目潰し器。

 そして校舎裏、体育館裏、ゴミ捨て場、焼却炉の脇──あらゆる場所に据えられた、周到な隠蔽の施された避難場所。

 それらは敵対する渡辺自身も舌を巻くほどに巧妙に仕上がっており、うまく使えばまさに神出鬼没──どう控えめに見ても相当有利に戦えるはずのものだったが、今のところそれが攻撃に役立ったケースはない。すべて、逃亡のために消費されている。おかげでテコンドー部は、微塵の被害も出さないまま余裕を持って連上達を追えていた。

 盗聴のシステムがなかったらこうはいかなかっただろう。テコンドー部は連上達の所在を掴めないまま、事前の細工を縦横無尽に利用した圧倒的な攻勢の前にかなりの苦戦を強いられたに違いない。梁山の実務的な思考──どんな手を使ってでも相手に対する絶対的な優位性を確保するという信念と、それを可能にするために重ねられた緻密な工作によって連上は後手に回り、事前の準備を効果的に利用できなくなったのだ。

「──渡辺、次の目的地がわかった」

 トランシーバーから、梁山の落ち着き払った声が聞こえてきた。

「はい、どうぞ」

「駐車場の車の後ろだ。道から見ればクラブハウスと重なって死角になる場所がある──奴らはそこに向かっている」

「了解」

 答えてトランシーバーから顔を離し、部員達に次の目的地を告げる。彼らはすぐに走り出し、渡辺もそれに続いた。

 

 渡辺達は、数分で梁山に指定された場所に到着した。

「渡辺さん、あれ──」

 金髪の部員が駐車場の隅を指差した。見ると、島崎が青い車の蔭に走り込むところだった。

「追いついたか。奴らの体力もそろそろ限界ってことだな」

 渡辺は頬を緩ませ、包囲の指示を出す。

 部員達はすぐに横一列に広がり、壁を作った。校舎とクラブハウスによって連上達の背後はすでに閉ざされている──逃走の道を塞ぎ、包囲は完成した。

 連上達はもはや袋の鼠──ようやく憎い敵の喉に手を掛けたことを実感しながらトランシーバーを取る。

「渡辺です。駐車場に到着。逃げる前に取り囲みました」

「よくやった、捕えろ。ただし油断するな」

「了解」

 仲間の顔を見回す。かなり疲れが見えていた。

 もうこれで終わりにする──その決意をもって、渡辺は全員に指示を出した。

「よし、そのまま輪を縮めていけ! いいか、油断は──」

「──!」

 最後まで言い終わる前に、連上が車の陰から飛び出してきた。右手に何かを持っている。

 とっさに身構えようとするが、それよりも一瞬早く視界が真っ白に染まった。

「うわあああああああああっ!」


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