嫌々告白してきたハズの彼がやたらと積極的な件
初投稿、緊張します。
ジャンル別日間1位、なんだか驚きすぎて・・・。
たくさんの人に読んで貰えたこと本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
「あのさ、俺と付き合ってくれない?」
整った顔立ちに憮然とした表情を浮かべ、愛の告白とは思えないほどぶっきらぼうな調子で声を掛けて来たのは柊恭介。
ちょっと俺様系なところがあるが友人も多く、クラスの男子ではなにかと中心に居ることが多いイケメンだ。
女子からもやっぱり人気があるみたいで私も密かに目の保養にしていたりする。
それに対して私、立花若菜はマンガやアニメが大好きなオタク女子。
友人もあまり・・・というか今は正直なところ全然居ない。
本来まるで接点すら無いはずなのにどうしてこんなことになってしまったのか・・・。
昼休みの喧騒。
私は早々に昼食を終えて、読みかけの小説を取り出す。
ずっと楽しみにしていたシリーズで、昨日ようやく発売された新刊を買いに行ったのだ。
結局半分ぐらい読んだあたりで睡魔に負け、気付いたら朝だったけど。
休み時間にもちょこちょこと読み進めていたが、昼休みでようやく纏まった時間が取れることについ浮かれてしまう。
私のお昼はいつもひとりだ。
クラスメイトとも挨拶ぐらいは交わすのだが話題というものがイマイチ合わない。
アイドルとかドラマとか、流行りのファッションだとか。
正直あまり興味がわかないし、逆に私の大好きな深夜アニメとかラノベなんて彼女たちからしたら別の世界の出来事なのかとすら思えてくる。
はぁ・・・地元のオタク友達が恋しい。
いつものように本を読みながら昼休みの残りを過ごしていると、今日はなにやら教室が騒がしいことに気付きふと顔を上げた。
どうやら男子のグループが何かを賭けてゲームをしていたらしい。
ちょうど私が目を向けたタイミングでひと際大きな声が上がり、それも決着が付いたようだ。
興味を失い私が本に視線を落とそうとした瞬間、まっすぐにこちらを見る柊くんと目が合った。
・・・えっと?
自分には関係無いことだと思っていたのに、何故か彼は私から目を離さない。
それどころか、一緒に騒いでいた友人に囃し立てられながら真っすぐこちらへ向かって来るではないか。
あれ? え、えぇっと?
なんなの、私になにかあるの?
完全に戸惑う私に向かって投下されたのは、愛の告白だった。
騒ぎを最初から見ていたらしいクラスの女子からは罰ゲームという単語が聞こえてくる。
罰ゲーム。
あぁなるほど、ゲームをして負けたから私へ告白しなきゃいけなかったということね!
ナニソレ馬鹿にしてるの??
いやいやいや、さすがにこれは酷すぎでしょう。
いくら友達いないネクラなオタク女子でも罰ゲーム扱いって。
さすがにひとこと言い返してやろうと口を開きかけたが、こちらを期待して見ている男子や今回の経緯を考えて気の毒そうな視線を向ける女子に気付いたらどうでも良くなってしまった。
わざわざこれ以上会話のネタになる必要も無いだろう、と。
「・・・どうぞ」
なんか面倒になってしまった私は適当に答えると、もういいでしょう?とばかりに手元の本を見やった。
所詮は罰ゲーム、放っておけばどうせすぐうやむやになって無かったことになる。
そのときはそう思っていたのだけど・・・。
――――放課後。
ホームルームが終わり、これでようやく家に帰れる。
昼休みの騒動があったおかげでやたらと疲れたし、時間を潰されたせいで昨日買った新刊もまだ読みかけなのだ。
さっさと帰って続きを・・・と、私は手早く荷物をまとめ教室を出ようとする。
「準備出来たか? それじゃ帰ろうぜ」
当然のように掛けられた声にぎょっとし、私は思わず振り返った。
鞄を肩に掛けるように持ち、こちらを待っていた彼に思わず固まってしまう。
「帰るんだろ?」
どうかしたのかとでも言そうな顔で再び声を掛けられ、ようやく我に返った私がそのままコクコクと頷くと彼は満足したのか背を向けて歩き始めた。
えっと、なにこれ?
まだ律儀に罰ゲーム継続中なの?
半ば混乱したまま彼の後ろをついて歩くうちに気付いたら下駄箱までたどり着いていた。
「あーマジかよ。ついてねーな」
いつの間にか降り出していた雨を見上げて彼がため息を漏らす。
あぁなるほど、結局天気予報通りに雨が降り始めたのね。
「傘、無いの?」
「今日晴れてたからそのまま出てきちゃったんだよな。そっちは傘持って来てるのか?」
「一応は・・・。折り畳み傘だけど」
朝の天気を見る限り雨が降りそうな気配は無かったが、一応雨の予報が出ていたので予備として折り畳み傘だけ持って来ていたのだ。
鞄から取り出し、軽く振って見せる。
「まぁさすがに無いよりはマシか」
そう言った彼は私の手にあった折り畳み傘をさっと抜き取ってしまう。
傘を広げながらやっぱり小さいな、などと言う彼を思わず私は茫然と見つめてしまった。
まさか私にはこの雨の中濡れて帰れとでも?
そのまま外に出ようとした彼はふと気付いたようにこちらを振り返った。
「どうしたんだ?」
え、あれっ?
軽く傘を揺らし、傘を傾けて隣に私の入れるスペースを作った彼を驚いて見つめる。
「たぶんこれ待っても止まないぜ? ほら、さっさと行くぞ」
まさかこれは噂に聞く相々傘というやつですかー!?
事態を把握し、恥ずかしさで顔が熱くなる。
そんな私を彼は目で早くしろと促してくる。
どうやら引き下がるつもりは無いらしい。
私はなけなしの勇気をふり絞ってそこへ滑り込んだ。
くぅ・・・これは想像以上に恥ずかしい、てか照れる。
めっちゃ照れる。
そもそも折り畳み傘だから普通の傘より更に小さいわけで、その密着具合たるや凄まじい。
なんか殆どぶつかるような状況になってる腕とか肩からは身体の温かさまで伝わって来るような気がするし・・・、てか顔近いよっ!?
右手と右足が同時に出るロボットみたいな歩き方になってないか、なんて場違いなことをふと思ってしまったぐらい緊張と恥ずかしさでいっぱいいっぱいだった。
そんな私の思考は、隣を通り過ぎた車が跳ね上げた水たまりの音に切り裂かれる。
「うっわひでーなこれ」
そう文句を言った彼は腰くらいまで泥水で汚れていた。
と、私はそこで初めて気付く。
彼の髪や上着までもが半ば雨に晒されていたことに。
考えてみたら当然だった。
ただでさえ一本の傘を二人で使っているのに、それが折り畳みの小さい傘となれば例え一人で使っても手狭に感じるほどで。
いくら二人がくっついているとはいえ全身を雨から隠せるわけがない。
それでも私がさほど濡れていないということはもう一人がその分濡れているという結論になる。
今の水跳ねでも彼が庇ってくれたのか、私の被害は鞄が若干濡れたくらいだ。
そう改めて見てみると彼が歩いていたのは車道側で、つまりはそういうことなのだろう。
せっかく収まりかけていた顔の熱さがぶり返してきた。
男性に対する免疫なんてカケラも持ち合わせていない私に、そうやって彼が自然と見せる気遣いは刺激が強すぎる。
思わず、なんで今日の今日でいきなりこんなイベントが都合よくやって来るのだと見当違いな八つ当たりが頭をよぎった。
これじゃなんか、まるで本当に恋人同士みたいじゃないか。
・・・私はふと湧き上がった考えに恥ずかしくなって悶絶した。
「わり、やっぱさっき跳ねたの結構掛かっちゃった?」
私の様子に勘違いしたのか、彼は気遣うような言葉を掛けてくる。
違うんです、単にめっちゃ恥ずかしいだけです・・・。
私は真っ赤になってるであろう顔を伏せたまま左右に振った。
「私は、大丈夫。でも柊くんが濡れちゃってるみたいだから。さっきの水たまりだけじゃなくて、肩とかも」
「あー・・・、まぁそれは良いんだけどね。こうやって役得もあるし?」
そういって笑うと、彼は触れ合っている肩を揺するように軽くすくませた。
それを聞いた私は反射的にびくっとして思わず距離をとってしまう。
「冗談だって。大げさに反応しすぎ」
からかうように笑うと、傘から出て雨に濡れ始めた私を庇うように腕を伸ばした。
今度は逆に、傘の中から完全にはみ出ることになった彼が頭から雨に打たれる。
ぐぅ卑怯な・・・!
距離を取ると私を庇う為に彼の方がずぶ濡れになってしまう。
仕方ない、私は彼を睨みつけながらじりじりとさきほどの定位置に戻った。
気恥ずかしさで真っ赤に染まった私の顔では、睨んだところで迫力もなにもあったものでは無いだろうけど。
――――昼休み。
「隣良い?」
彼は私の目の前の席からイスを拝借してこちらに向ける。
「隣というか、前?」
「あははっ、言われてみればそうだ。昼メシ一緒に食おうぜ」
私が了承する前から既に準備万端だ。
というか、いきなり一緒にお昼ごはんとかハードル高すぎない?
クラスの女子ともそんな機会無かったし、何を話せば良いとか分からないんですけど・・・。
「別に、良いけど・・・。でも私まだ飲み物買って無いから。先に食べてて」
よし、我ながらナイスなアイデアだ。
これで時間を稼げる!
後はゆっくりと購買へ買いに行って、ゆっくり戻ってくれば男子なら殆ど食べ終わってるでしょ。
ふたりでおしゃべり、なんて危険な時間は短ければ短い方が良い、うん。
「ほい。飲み物はこれで良かったか?」
そういって彼が渡してきたのはミルクティーだった。
私がよく飲んでるやつだ。
「え、そんないいよ! 自分で買ってくるって!」
「あれ? これじゃなかったっけ。んじゃこっちにするか?」
彼はもうひとつ取り出した。
・・・レモン牛乳だ。
なんでそんなものを買ってきたのだろう。
私もたまに買うけど、あまりにも独特な味わいなのであまり他人に勧めるようなものでは無い気がする。
「どちらかと言えば今日はミルクティーの気分かな・・・。というかなんでそのチョイスなの?」
「なんかたまにこの黄色いの飲んでなかったっけ? 俺は飲んだことないけど」
どうやら完全に私の為に買ってきたものらしい。
これはさすがに断る方が失礼か。
「じゃあせめてお金だけ払うよ」
「いいよ別に大したモンじゃないし」
「それはさすがに悪いよ。タダで貰う理由もないし・・・」
しばらく考えるそぶりを見せた彼はそんな私に悪戯っぽく笑う。
「じゃあさ、代わりに明日も一緒にお昼を食べること。それがコレのお礼ってことで」
彼は臆面も無く言い放つ。
だから私にはそういうことへの免疫とか無いんだってば!
冗談だと分かってても気恥ずかしいわ!
顔を赤くしながらなにか言い返そうとして、でも結局なにも浮かばない私を彼は愉快そうに笑う。
「さて。これで席を外す理由も無くなったな?」
どうやら私の行動はすべてお見通しだったらしい。
観念して自分のお弁当を広げる。
「その弁当って自分で作ってんの?」
「一応そう。でもほとんど晩ごはんの残りだから実際に朝作ったのは卵焼きくらいかな」
「へぇ。結構料理とか得意なんだ」
彼が食べているのはサンドイッチとおにぎりだ。
たぶん飲み物と一緒に購買で買ってきたのだろう。
うちの購買は3限の休み時間から開いてるので昼休みに学生が殺到して・・・みたいな学園モノにありがちな光景とは無縁だったりする。
「別に得意ってほどじゃないよ。普段はおかあさんに任せっぱなしだし。お弁当の他は休日たまにお昼作ったりするぐらい」
「おー! イイじゃんなんか女の子っぽい!」
む。
女の子っぽいってなんなの。
私はふつーにオンナノコ、・・・いや、でもどうだろう。
確かに正直微妙? かも??
たまに料理ぐらいはするけどそれぐらいなら誰でもって気がするし、というかそれ以外はだいたいアニメとかラノベとかゲームとか。
年頃の娘さんらしい趣味なんて皆無だし、というかむしろクラスの女子とは全然会話が続かないまであるし。
・・・うーん、これ以上考えると暗黒面に落ちそうになるから止めておこう。
取り留めのないことを考えていた私は「ごほっ、ごほっ」と急に咳き込む音に思考から引き戻された。
「おいなんだこれ、とんでもない味がするんだが?」
そう言った彼の手元には先ほどのレモン牛乳。
あーアレね、初めてだとびっくりするよね。
すごい味するし。
「結構クセのある味だよねそれ。私も最初はダメだったし」
「え、ていうかわりと飲んでたよねこれ? 好きなんじゃねーの?」
「んー、なんか最初はうえーって思うんだけどたまに飲みたくなるというか。んで何度か飲んでるとそのうちだんだんと好きになってくる感じ?」
「おいおいなんだそりゃ。なんかやべーもんでも入ってるんじゃないか」
あまりの言い様に思わず笑ってしまう。
「いいよ。じゃあ私がそっち貰うから。まだミルクティーの方は口付けてないし」
「まじで? 確かにこれでパンを流し込むのはわりとキツいから助かるが。本当に良いのか?」
「元々どっちも柊くんが買って来てくれたものだし良いよ」
そう言って私はお互いの飲み物を交換したところで気付く。
さっきの「良いのか?」って、もしかして飲み物の種類的な話じゃなく間接キス的な話デスカ??
さすがにこれは、異性への免疫が無い私には高等スキルすぎるんですが!?
でも私から言い出したことだし、今更無かったことにしてって言うのも・・・。
「はははっ! 今凄い面白い顔してる」
ぐぅ。このイケメン、私の考えてることを全部お見通しですね?
今めっちゃ挙動不審になってるのを面白がってますね?
ええい、この程度で臆してたまるものか!
「べつになんでもないけど?」
意を決してひとくち飲んだ私がそう言うと、彼は盛大に笑い声を上げた。
なお飲み物をごちそうになった約束の通り、私たちは次の日もお昼を一緒に食べることになった。
というかそれから彼は毎日、昼休みには私の席までやって来るようになったっていう。
もう、なんなのいったい・・・。
――――日曜日。
「今週末ってヒマ?」
例によってお昼を一緒に食べていると、彼は唐突にそう切り出した。
「とくに予定はないけど。ちょっと本屋に行こうかなってぐらい」
「なら丁度良いな。遊びに行こうぜ」
はい、というわけで今私は駅前で待ち合わせに来ています。
ちょっとちょっと、どういう事なのこれ!?
これはもしかすると、世間でまことしやかに囁かれている『でぇと』というやつなのではないですか?
リア充と呼ばれる選ばれた民だけが可能だという噂の。
たぶんこれ、あの『罰ゲーム』の続きなんだよね?
あれからもう3週間くらい経つし、ほんのお遊びにしてはかなり長い気がする。
ニセモノの恋人ごっこでここまでするものなんだろうか。
私が思索にふけっていると、ようやく彼がやって来たのが見える。
「随分早いな、まだ約束の時間の10分前なのに。結構待たせた?」
「そうでもないよ。たぶん20分くらい?」
実際いろいろと考え事をしていたのでさほど退屈をしていたわけではないのだ。
でも、そんな私を彼は驚いたように見つめる。
「ホントに随分待たせちゃってたんだな。わりぃ、もっと早く来れば良かった」
その言葉でようやく気付いた。
約束の時間の30分も前に来てずっと待っていただなんて、私がまるで凄く楽しみにしていたみたいじゃないか!
「え、いや、ちがうの。ほら、わたし本とか好きだし。そういうの読んでれば時間とかあんまりきにならないっていうか!」
咄嗟に出た言い訳は、しかし何も持っていない私の手を見れば一目瞭然だった。
肝心の本は足元に置いてあるカバンの中だ。
そんな風に慌て始めた私の様子に、彼は耐え切れ無かったのか思わず噴き出した。
「ははっ、ごめんって! さて。折角早く集まったんだしそろそろ出掛けるとしますか、お嬢さん?」
エスコートをするかのように差し出された手に、さりとて自分の手を重ねることなんて出来るわけがなく。
顔を赤くして固まる私があまりに予想通りだったのか、彼はまた笑い声を漏らす。
もうなんなの!?
今日の私はからかわれてばかりじゃない!
恥ずかしさに憤慨する私。
でもその顔に浮かぶのはどうしようもないぐらいの笑顔だった。
その後は学生らしく、色々とお店をまわって冷やかしてみたり軽く小腹を満たしてみたり。
見ようによっては本当の恋人同士にも見えたかもしれない。
欲しかった本を買った私に、興味があるのかないのかどんな内容か聞いてきたり。
逆に、彼が部活で使っているスパイクの調子が悪いとかでスポーツ用品店について行ったりもした。
そういえば初めて知ったのだけど、彼はサッカー部のレギュラーらしくて結構忙しいとか。
思い出してみると確かに一緒に帰ったのはあの雨が降った日だけだった。
帰宅部な私と違って放課後は部活を頑張っているのだろう。
・・・結局なんだかんだで普通に楽しんでしまった。
待ち合わせのときの葛藤はなんだったのかというくらい、そのあとは順調だった気がする。
「今日は結構歩いたな。疲れなかったか?」
「ちょっとだけ。でも私の荷物は柊くんが代わりに持ってくれたし・・・。なんかゴメンね」
実は欲しかった本が予想外の続き物で、思ったよりも量が増えてしまったのだ。
一応事前に調べてはいたのだがコミックとノベルの巻数を勘違いしていたらしい。
さすがにかさばるから今度にしようかとも思ったのだが、彼が元々買うつもりだったんだし自分が誘った手前遠慮しないで欲しいと言うのでその言葉に甘えてしまったのだ。
正直オタク的欲求として、目の前にあるものを我慢するというのは中々ツライところではあるのでつい買ってしまった。
その後に彼に買ったものを奪われ、荷物持ちをさせてしまったことは本気で申し訳ないと思ったのだが。
じゃあ今度その本を自分にも貸してくれないか、なんて言われたら頷くしかなかった。
「あのさ、名前」
彼はぶっきらぼうに言った。
「苗字じゃなくて、どうせなら下の名前で呼んでくれる方がいい」
隣を歩く彼は、珍しくこちらに目線を寄越さずに憮然とした表情で前を見ながら続けた。
ん、あれ?
もしかしてこれ、照れてるんじゃ?
そのことに気付いた私は分不相応にもちょっと調子に乗ってしまう。
普段はからかわれてばかりだが、今回ばかりはこちらの番だと。
「荷物持ってくれてありがとね、恭介くん」
そう言った私を振り向いた彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、そして今度はひと際輝くようなイケメンスマイルでこう言うのだ。
「どういたしまして、若菜」
その一言で一瞬にして私の余裕は奪い去られた。
お互いに名前で呼び合う、たったそれだけの事なのになんという破壊力!
あっという間に今度は私の顔が赤く染まっていくのを感じる。
イケメンまじこわい。
――――部屋でひとり想うこと。
今までひとりだった私は、ここしばらくで寂しさを感じることがなくなった。
最近私の隣には彼がいることが当たり前になった。
でも彼にとって所詮は遊びのひとつなのだろう。
はた迷惑なことを仕出かしてくれたものだと思う。
一緒にご飯を食べたり、遊びに行ったり。
でもこれ以上は意識しちゃいけない。
私は彼と友人くらいにはなれただろうか?
それなら関係が元に戻っても、少なくとも話しかけることくらいは許されるだろうか?
願わくば、もうしばらくこの関係が続くことを。
だって、私は・・・。
――――それから。
「あのさ、ふたりって本当に付き合ってるの?」
クラスの女子にいきなり声を掛けられ、思わずイスからずり落ちそうになる。
「1ヶ月くらい前にさ、柊君が立花さんに告白みたいのしたじゃん。なんか罰ゲームみたいな感じでちょっとヒドくない?って思ってたんだよね」
「そうそう、柊君ってそういうことする人じゃないって思ってたから意外だったんだよねー」
「内容的にちょっと話題にしづらい感じだから今までは黙ってたんだけどね。でもあれからふたりともすごい仲良いからもしかして、って」
興味津々といった様子のふたりに詰め寄られる。
「えーっと、どうなんだろう・・・?」
その勢いに私は曖昧な答えしか返せなかった。
というか実際のところ自分でもよく分からないのだ。
最近はわりと仲良くしているような気もするし、というか友達ゼロでいつもぼっちな私からしたらダントツで一緒に居る確率は高いと思う。
恋人はともかく、友達?と呼べる関係のような気はしないでもない。
「柊君ってさ、カッコイイけど彼女とかずっといなかったんだよね。部活一筋って感じで」
「先々月くらいかな? 隣のクラスの子が告白して玉砕したーって話を友達から聞いてね。理由が、好きな子が他にいるからっていう」
恭介くん、好きな子いたんだ・・・。
まぁそれはそうよね、ってかなんでそんな人がいるのにこんな罰ゲームなんて。
「でも私、最近のふたりを見てて分かっちゃった! 柊君が好きだったのって立花さんのことだったんだね」
・・・なんですと?
「だよねー。柊君が女子とあんなに仲良くしてるところなんて今まで見たこと無かったし、ていうか最近いつも一緒にお昼食べてるじゃん」
「リア充バクハツしろっ!って感じだよね、あははっ」
独り身のうらみはこわいぞー、なんて彼女たちに冷やかされてしまう。
いや、ちょっと待って欲しい。
私たちって周りからはそんな風に思われていたの?
「そんな、私なんかが恭介くんの彼女なんて」
そう否定しかけた私を、目をキラキラとさせた彼女たちがさえぎる。
「そうそれ! ていうかいつの間にふたりとも名前で呼び合うようになったの!」
「これもう確定だよねー!」
むしろ火に油を注いでしまったようだ。
私は顔が熱くなるのを感じながら、恥ずかしさで何も言えなくなってしまった。
「・・・とまぁこんな事があったんだけど」
例によって一緒に昼食を食べている彼に前の休み時間にあったやり取りを伝えた。
それを聞いた彼は驚いた顔をして、脱力したように机に突っ伏す。
「あー、そうだよな。分かってた、どうせそんなことだろうと思ってたよ・・・」
「ちょっと、そんなにへこまないでよ。まぁ私とそんな風に思われてるなんて心外だろうけど元々全部そっちのせいだし。てかそこまで嫌がられたら私でもちょっとキズつく」
「いや、別にそういう意味じゃないっていうかさぁ・・・」
ガリガリと頭を掻きながらあ゛~、なんて変な声を上げている。
と、突然真面目な顔になった彼がこちらを見た。
「あのさ、今俺らって付き合ってるわけじゃん?」
「罰ゲームだったんだっけ? そもそもこれっていつまで続くの?」
「うん、まぁとりあえずさ。実はアレって俺がダチに頼んだんだよね」
・・・えっと?
「最初は、いっつも一人でずっと本読んでる変わったやつだなーとか思ってただけで。何読んでるんだか知らないけどやたら悲しそうな顔してるかと思ったら次の瞬間にはニコニコしてたり。ころころ表情変わるのが面白くてさ。そういや今にも笑い出しそうな顔するのを必死に我慢してたときなんかはすげー笑えたっけ」
え、どういうこと?
ずっと見られてた?
「気付いたらいつの間にか、若菜のことを目で追いかけてる自分に気付いた。そんな経験初めてだったし、どうすれば良いかなんてわからなかった。俺だけじゃわかんなくてダチにも相談した」
「・・・それが、アレだったの?」
そう尋ねるのが精一杯だった。
「ごめん、でも正直他にどうすれば良いのか浮かばなかった。どうやって話しかければ良いのか分からなかった。俺が声を掛けて良い理由が欲しかったんだ」
最後の方、消え入りそうな声で。
「好きだったんだ」ってつぶやいた。
今まで見たこともないような優しい表情を浮かべて微笑んでいる彼に。
自分でも気づいていなかった姿を見られていたことに。
私が思っていたよりずっと前から彼に見つめられていたという事実に、身体の熱が上がるのを感じる。
あぁ、私は彼を好きになっても良かったんだ。
彼は私とは違うって、別の世界の人間みたいに感じてて。
でも友人のひとりとしてなら少しくらい彼の近くに居てもいいのかなって。
いつの間にか大きくなっていく気持ちを隠すように。
彼と話すたびに自分を納得させてた。
気付いたら私は彼を好きになっていた。
一緒に過ごす時間がとても楽しくなっていた。
「今更かもしれないけどさ、改めてもう一度俺と付き合ってくれないか。若菜に、俺の・・・彼女になって欲しい」
いつもは私をからかってばかりで、自信に満ちている彼の弱気な姿。
所在なさげな瞳を揺らしてこちらを見ているその様子に、愛しい気持ちが溢れてくる。
「・・・はい。私も、すき。私も恭介くんのことが好き」
私の顔は真っ赤だったと思う。
それでも、なんとか彼に伝えることが出来た。
その瞬間。
わーっと上がる歓声に教室が震えた。
「おめでとー!」「やるじゃんお前ら!」「リア充爆発しろっ!」
次々と冷やかしだか激励ともつかない言葉が投げかけられる。
あ、あ、ああああぁーーっ!?
自分たちがどこでなにをやっていたのかを思い出す。
そういえばここは教室で、今は昼休みで。
そんなところでこんな話をし始めたものだから、私たちの様子をクラスメイトたちは固唾を飲んで見守っていたのだ。
教室の状況に彼も目を丸くして驚いたがそれも一瞬のことだった。
なんかもう開き直った様子で急に悪戯っぽい瞳をこちらに向けてきた彼の様子にイヤな予感しかない。
次の瞬間、軽い浮遊感を感じたと思ったら私の肩は彼の胸の中に抱きすくめられていた。
「おう、聞いてた通り若菜は俺の彼女だからな。絶対に手出すんじゃねーぞ!」
な、な、なにを突然言い出すの!!?
そんな私にはお構いなしに、きゃ~!なんて黄色い歓声があちこちで上がった。
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「恭介くん、今日授業で当てられる番じゃない?」
「あーマジか、すっかり忘れてた。昨日は部活で疲れたから帰ってソッコーで寝ちまって何も準備してねぇわ・・・」
「大会近くて大変そうだね。授業で当てられるとこはだいたい分かるし、後でノート見せてあげるからさ」
あれから正式に付き合い始めた私たちは朝も一緒に行くことが多くなった。
彼には部活の朝練があるので家を出る時間は少し早くなったけど、それはまぁ仕方ない。
大会前ということで部活も忙しいらしく、放課後は一緒に過ごせないからなおさらだ。
教室であんなことをやらかした私たちは既にクラス公認なカップルという感じだ。
最初はちょっと恥ずかしかったもののようやく慣れてきた。
今なら私たちを知らない人が見ても結構それっぽく見えると思う。
あと、あの出来事が切っ掛けになって気付いたら友達も出来ていた。
私たちの関係を聞いてきたふたりとは今ではすっかり仲良くなって、たまには放課後とか一緒に遊びに出掛けたりもする。
まぁやたらと私と彼の、ふたりでいるときの様子を聞き出そうとあれこれしてくるのはさすがに恥ずかしかったりするけど・・・。
「また今度遊びに行こうぜ。確かこの間観たい映画あるって言ってなかったっけ」
「さすがに大会終わるまで待ってたら上映期間過ぎちゃうと思うよ?」
「それは困ったな」
そんな事を眉間にしわを寄せて本気で悩み出す彼が愛しい。
「いいよ。そのときになったらどこ行くか、また一緒に考えよ?」
彼の手を取って、その腕を思わず抱きしめる私。
彼は一瞬驚いたような顔をして「それもそうだな」と笑った。