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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act2 冒険者……になんて、なれっこない
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step.8「深夜のナイショ話」

《なあ。あんた。起きてるかい?》

「……う? うん? ……オバちゃん。……なに?」


 ぼくは目を擦って起きた。この部屋に窓なんてものはないから、時間はわからないけど。たぶん深夜。


《起こしてごめんね。でもちょっとオバちゃんとお話しをしないかい?》

「うん。……いいけど」


 剣ちゃんと盾ちゃんを起こしてしまうんじゃないかと思った。


《だいじょうぶさ。寝てるよ》


 二人ともぜんぜん反応がない。耳……で聞くのとは違うんだけど。〝アイテム〟の声というものは。

 でも耳を澄ましてみても、なにも聞こえてこない。

 うん。よく寝てるね。


(なに? オバちゃん)


 それでもいちおう、小声で話す。


《さっきの話なんだけど》


 さっき? さっきってどれだろ?


《あまり気にしないでおいてあげなよ》

(あー、うん。……だいじょうぶ。気にしてないよ)


 なんの話か、じつはよくわかっていなかったけど、ぼくはそう答えた。


《あの二人。……欲求不満なのさね》


 はい? ヨッキューフマン?

 なんか生々しい言葉がでてきて、ぼくはギョッとなった。

 〝アイテム〟って、そういうの……無縁だと思ってた。


《ほら。オバちゃんは、毎日、役に立ててるだろ? 葡萄酒を出していて……。まー、飲んでるヨッパライどもの顔を見れないのが、残念っていえば残念だけどね。それなりに満足してるのさ》


 ん? なんの話? なんでいきなりヨッパライの話?

 あとオバちゃんも……、その……、ヨッキューフマン……なの? すこしくらいは?


《でもあの子たちは、ほら、剣と盾じゃないかい。手入れしてもらって、磨いてもらって、ぴかぴかにしてもらえるのはいいんだけど。でも……、ほら。ね?》


 ほら、ね? とか言われても、よくわからない。

 自慢じゃないけど、空気読むのは――すごく苦手。

 前世でも今世でも、〝人〟と話していないから、そういうスキルはまったく育っていない。


(あの……、オバちゃん……? よくわかんないんだけど?)

《ああもう。じゃあはっきり言うよ。あの子たちは、つまり……、使ってもらいたいんだよ》

「えっ? つ、使う……って?」


 ぼくはドキドキして、そう聞いた。

 剣ちゃん盾ちゃん、起きてないかな。起きてないよね。だいじょうぶだよね。

 こんな話、しているのを聞かれちゃったら……恥ずかしい。


《使うっていったら、一つに決まってるじゃないか》

「ひ、ひとつ……?」


 一つなんだ。決まってるんだ。そ、そうなんだ……。


《あの子たちだって、それを望んでいるんだよ。でもあんたのことを気遣って、言い出せないでいるんだよ。わかっておやりよ》

「だけど……、さわれないから……」


 ぼくは言った。剣ちゃんも盾ちゃんも、女の子の姿を出せるけど、手で触れようとしても素通りしちゃうし。見るだけだし。


《さわれない? あんた、いつもさわってるじゃないかい? さわりまくりだろ?》

「えっ?」


 そう言われて、ぼくは、きょとんとなった。

 さわって……ないよ? いつ?


《ほら。いつも手入れしてるじゃないの。研いで磨いて、はー、って息をかけてごしごしやって》

「あー……」


 ぼくは理解した。そっちのことね……。


「あー……、うん、してる……。ぼく、さわってる」

《さわってあげるのもいいんだけど。使っておあげよ》

「えと……、使う、っていうと?」


 へんな意味のほうじゃないなら、どういう意味だろう?


《だから剣と盾を使うっていったら、一つしかないじゃないか》

「え……?」

《あんたが、剣を振って、盾を構えるんだよ》

「え? ……ええーっ!?」

《これ。静かにおし。二人が起きちゃうわよ》

(う……、うんっ)


 オバちゃんに言われて、ぼくは慌てて、声を潜めた。これまでけっこう大きな声で話してしまっていたかもしれない。

 でも剣ちゃん盾ちゃんは、ぜんぜん無反応。ただの物みたい。ぐっすり眠っているっぽい。よかった。


「ぼく。剣とか盾とか……、使えないよ。戦士とか剣士とかじゃないんだし」

《でも持って振るくらいなら、できるだろ? 練習するだけとか》

「う、うん……。まあ……。たぶん……」


 ぼくはそう答えた。

 なるほど……と思った。

 オバちゃんの言うことも、もっともだった。


 剣ちゃんと盾ちゃんを振ることくらいは、ぼくにだってできる。

 ぼくは剣ちゃんと盾ちゃんのためなら、なんだってできる。

 その日から、ぼくの〝練習〟がはじまった。

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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