step.7「剣ちゃんの盾ちゃんの、そこはかとない不満」
《あたしのフォルムはね――〝鋭利〟っていうのよ。盾ちゃんみたいな駄肉とはちがうもーん》
《あら駄肉じゃないのよ。こういうのは〝重厚〟っていうの》
二人とも額に青筋浮かべて、ぴきぴきやってる。
今日の二人は、なんでか張りあっていた。なんではじまってしまったのか、いまとなってはよく覚えていない。
二人とも、なにか最近、イライラしているような気がしていたから、そのせいかもしれない。
《あんただって、そうでしょ! こういうのがカッコいいって思うでしょ!》
「え? ぼく?」
剣ちゃんは脚を伸ばして、すっくと立つ。
ぴったりと体に張りつくような服は、胴体だけを覆う感じで、手足は肌が露出している。脚の付け根なんて鋭角にV字。
人間の女の子が、もしこんな格好をして目の前に立っていたら、きっと、ドキドキしていたんじゃないかと思う。人間の女の子でドキドキしたことなんてないけど。別の意味で〝人〟にはどきどきするけど。いや。どきどきっていうか、びくびく、のほうだけど。
《いいえー、あるじさまー。あるじさまは、やっぱり大きいのがお好きなんですよねー?》
こんどは盾ちゃんが競うように目の前にくる。
《オバさまが言うにはー、人間の殿方は大きいのがお好きであるとかー? ほら大きいですよー? どうですかー?》
自分で言うように、盾ちゃんは、たしかに大きい。背が大きいという意味ではなくて……。背については剣ちゃんよりも、すこし大きいだけなんだけど。
それよりも二つの……、その、あれが……。
はっきりと言うのは恥ずかしいんだけど……。盾ちゃんのそこは、とにかく大きい。
《あるじさまもー、これ、お好きですかー?》
自分の手で下側から捧げ持つ。ただでさえ大きいそこが、さらに量感を増す。
《オバちゃん知ってるのよ。人間さんって。特に男って。よくそこ見てるわよねー。なんで見てるのかまでは知らないんだけど》
二人に変なことを吹きこんだのは、オバちゃんらしい。
しかも中途半端で不完全。酒場で長いこと人間を見ているから知識は豊富なんだけど。やっぱりオバちゃんも人間を理解しているとは言いがたい。
外見面の美しさとかの話は、〝物〟たちには、やはりわからない話題であるらしい。
剣ちゃんも盾ちゃんも、自分がどれだけ〝綺麗〟なのかということに、まるで無頓着。
二人がわかる価値観は、機能的な美しさに関するもので……。
そんなわけで今日の論戦は、スレンダーでシャープな剣ちゃんと、ふくよかで豊満な盾ちゃんの〝機能美〟の戦いとなっているのだった。
《なによそんなの。重たいだけじゃない。振り回すとき邪魔になるだけよ》
《受け止めるときには、これが、クッションになるんです》
《だめよ。受け止めたりしたら、刃こぼれしちゃうじゃない》
《もう剣ちゃん。自分のことばっかり。盾には盾の良さがあるんです》
《盾ちゃんだって自分のことばっか。剣には剣の良さがあるのよ》
《盾ならあるじさまをお守りすることができます》
《剣ならあるじの敵をやっつけることができるわよ》
《まあまあ。二人とも。二人でこの子を守ってやればいいさね》
《オバちゃんは黙ってて》
《オバさまは黙っててください》
「あのぼく。戦ったりしないんで……。どっちが役に立つ論争とか。いらないんじゃないかなー……って、あはははは」
《あるじは黙ってて》
《あるじさまは黙っててください》
「はい」
ぼくは黙った。女の子って、たまに怖いところがある。〝人〟はもっと怖いけど。
《あたしはね! なんでもぶった斬れる、すっごい剣なの! ……たぶん》
《あら。わたしも。どんな攻撃だって絶対に防ぐ。すっごい盾よ。……たぶん》
それ、矛盾してるよね。
なんでも斬れる剣と、絶対に防ぐ盾と、両方がぶつかったら、どういうことになるんだろ?
《なによ盾ちゃん! 実戦なんてやったことないくせに!》
《それは剣ちゃんだって同じでしょう? 実戦なんてしたことないのは》
《それは、そう……なんだけど》
剣ちゃんは、口ごもると……。ちら、と、ぼくのほうに目を向けた。
ん?
あれ? あれれっ?
なんだろ? いまの目線って……?
なんか言いたげな……? でも言うのをためらったような……?
なんだろう? なにが言いたかったんだろう?
《………》
《………》
剣ちゃん盾ちゃんは、なんか気まずそうに黙りこくってしまった。
いつもはたくさんしゃべるオバちゃんも、ぜんぜんしゃべらなくなってしまった。
そのうちに姿も消してしまう。
彼女たちはいつでも姿を出しているわけではない。ずっと出ていると疲れるようで、おしゃべりするときだけだ。
ぼくとしては、なにか残念なキモチだった。
二人の口喧嘩を聞いているのも、楽しかったんだけど……。
喧嘩が楽しいっていうのは、変かもしれない。
だけど二人がどれだけ言い争っていても、それは本当にケンカしているわけではなくて、二人なりのコミュニケーションなのだということを……。
ぼくはきちんと知っている。
だから安心して見ていられるのだけど……。
なんだか今日は、いつもと調子が違った。
誰もしゃべらないので、ぼくはしかたなく、寝床に横たわった。
まだ寝る気分じゃなかったんだけど。
目を閉じていると、そのうち眠たくなってきて……。
ぼくは眠りに落ちた。
1話だけだと、いいところまで行きませんので、本日は3話同時更新でーす。





