step.67「死闘」
「うわあぁぁぁ――っ!!」
大きな大剣を振りあげて、やけくそのように突っこんでゆく男の人がいた。
えっ? ――ちょっ!?
キマイラはくるりと一回転した。蛇の尻尾がぶうんと振り回される。
ばきゃっ、と、音がした。
最前列にいたその人は、後衛のさらに後ろの後ろまで、一気に吹き飛んでいった。
「か、回復……!? 回復魔法っ!? だれか手伝ってくれえぇ!!」
パーティメンバーの僧侶らしき人が駆けよって、回復魔法をかけているが、悲鳴をあげて応援を呼んでいる。
「解毒魔法も――!? 誰か!? 使えるやついないかあぁ!?」
「ちょっと行ってくる!」
アルテミスが駆けだした。
《勝負すんのはこのオトコ!? こいつを落とせばいいのっ!?》
勝負ちゃん。ぶれないね。
あの戦士さん。うかつだったとは思うけど……。
だけど一撃だった。
第六階層の階層主――。攻撃力が高すぎる。
これでは、キマイラが攻撃するたびに一人ずつ倒れてゆくことになる。
いや――。
キマイラには、二つの首と一つの尾があるのだから、一度に三人ずつ倒れてゆくことになる。
「うわぁあああぁ――っ!!」
また一人が犠牲になった。
ライオンのほうの首に肩を噛まれて――。ばきん、ぼきん、なんていう、骨の砕ける音が響いてくる。
キマイラは首を振り回し――。ぺい、って吐き捨てるように、真っ赤になった冒険者さんを放り投げた。
「ぷ、プリーストおぉぉぉ!! 頼むうぅぅ――っ!!」
悲鳴があがる。すぐに、二、三人の僧侶さんたちが駆けつける。
だめだ。これじゃ。
これじゃ倒せない。
ぼくは一歩前に出た。二歩目も前に出した。三歩目も四歩目も前に出して、ついには駆け出した。
《あるじー! 斬るわよー!》
《あるじさま! お守りします!》
《貴方は私が守るから!》
「……!」
うおおー、とか、言わない。叫んだりしない。
ぼくは無口なまま、キマイラに斬りつけた。
キマイラがぼくを敵と捉える。
うん。それでいい。
攻撃がぼくに向かってくる。ぼくだけに向かってくる。
うん。それでいい。
ぼくは巨大なライオンの顔が噛みついてくるのを、盾ちゃんで受け止めた。
もう一つの首が噛みついてくるのは――!
「虚像盾っ!」
《イリュージョンシールドですうぅぅ!!》
空中に出した盾で受け止めた。
そして打ち振るわれる蛇の尻尾は――!
「――風牙っ!」
《きゃあぁーっ! ふうがあぁぁぁ――っ! 呼んでくれたあぁ――っ!!》
投げつけた風の刃で、すっぱりと断ち切った。
これで攻撃は一度に二回に減った。
ライオンの顔が迫る。もう一つの顔も迫る。
「大きくて硬いの――!!」
《大きくて硬いのです――!!》
盾を大きく硬くする。ライオンの顔をしのぎ、同時に虚像の盾でもう一つの攻撃を受け止める。
攻撃なんてしている暇はない。一度に二回の攻撃を、一人で受け止めるので精一杯だった。
攻撃を受け止め続ける。
猛烈な攻撃を止めきれずに、虚像の盾が砕けることもあった。盾の本体に比べると虚像のほうはだいぶ弱い。
《守……るっ!!》
そんなときには鎧ちゃんが止めてくれていた。それでも全身に衝撃が走る。体力を持っていかれる。
「みんな――!! 戦って!!」
アルテミスの声が響く。
「レムルが止める!! レムルが止めてるから!! だからみんなで攻撃して!! おねがい――!! おねがいします!!」
「シロちゃんたち――!! おねがいっ!!」
ノノがシロちゃん召喚を八回続けて行った。八匹のシロちゃんが現れて、一声に飛びかかる。
戦士も魔法使いも、盗賊も弓使いも、みんながキマイラに総攻撃をはじめる。
キマイラの攻撃は、すべてこちらにくる。
耐えた。耐えた。耐え抜いた。
だけど――。盾ちゃんのMPは無限ではなくて――。
《あるじさま――! もう虚像盾が出せな――ああっ!!》
虚像の盾を出せなくなった。
片方の攻撃は防いだけれど、もう片方の攻撃を防げなかった。
巨大な顎に――、がふりと胴体に噛みつかれた。
《貴方は――! 私が守るっ!!》
鎧ちゃんが光る。単なる胴当てでしかなかった鎧が、光とともに形を変えて成長して、胸と肩もカバーする。
キマイラの大きな牙を、がっちりと受け止める。
「――げはっ!!」
だけどぼくは血を吐いた。
牙は刺さらなかったけれど、鎧に守ってもらえたけれど、噛みつかれた衝撃に体のほうが耐えられなかった。
立たなきゃ。動かなきゃ。みんなを守らなきゃ。
ぼくはなんとか立ち上がろうとした。
つぎの攻撃がすぐにやってくる。
ほかの戦士さんじゃ〝タンク〟をやれない。
ぼくしか! ぼくしかできないんだ!
「オレが時間を稼ぐ! ――僧侶ども! レムルを治せ!」
ロウガがそう叫ぶと、キマイラの前に飛び出していった。
「やーい! ばかキマイラ! あほキマイラ! こっちみろ! こっちだこっち! おしりぺーんぺん!」
ロウガがキマイラの前に飛び出して挑発をしている。お尻をぺろんと出して、ぺんぺんと叩いている。
キマイラは怒り狂ってロウガに襲いかかってゆく。
ロウガは爪の一撃を食らって――。
「ぐはーっ! やられたーっ!」
びしゅううと、血がしぶいた。
えっ……?
いつもの死んだふりじゃなかった。真っ赤な血の海にロウガが倒れている。
えっ? えっえっ……?
ぼくは前に出ようとていた。
でも足が言うことを聞いてくれない。
だけど、すぐにふっと楽になって――。足が言うことをきいてくれるようになって――。
体も動くようになって――。
ぼくは前に飛び出した。
そして次のキマイラの攻撃を受け止める。
まわりじゅうの僧侶の人たちが、ぼくに向けて回復魔法を唱え続けていた。
「レムル! 戦って! みんなを守って! 貴方は私たちが癒やすから!」
アルテミスも回復呪文を唱えてくれている。
「で――でもロウガが!! ぼくよりもロウガを――!?」
「ふははははーっ! ばかめーっ! 死んだふりだああぁ――っ!?」
で、でも……? いま本当に死んで……? 死んだふりじゃなくって、本当にぐしゃぐしゃになって……?
「オレの流派の奥義はァ――ッ! 〝夢想転生〟はーッ! なかったことにするって言ったろおお――ッ!!」
無茶苦茶だーっ!!
《ロウガーっ!! カッコいーっ!!》
「そうか惚れたかーっ!! じゃああとでおっぱい揉ませろーっ!!」
《それはイヤーっ!!》
「ほらレムル! MPポーションだ!」
ロウガがぼくにMPポーションを見せてくる。
「でもぼく! MPないよ!」
「ちがう! ――盾だ!」
ロウガが投げつけてくるMPポーションを、ぼくは盾で受け止めた。
盾の表面でガラスの小瓶が割れると――。
《ああ――っ! 漲りますわああぁぁ!》
盾ちゃんが雄叫びを上げた。
盾ちゃんにMPが戻った。これで虚像盾が、また使える。
ぼくはキマイラの攻撃を受け止め続けた。
ミスしたりMPを切らしたりすると、攻撃を受けてしまうこともあった。
だけど一撃ならぼくは耐えられる。鎧ちゃんが守ってくれている。
そして僧侶の人たちが、ぼくに回復魔法を集中して連打してくれる。
がくりと減ったHPもすぐに戻る。
そのあいだにも、戦士と盗賊と弓使いと魔法使いとが、攻撃を続けていた。キマイラにダメージを与え続けていた。
だけど――。
どんなに強いモンスターでも――。どんなに恐るべき階層主でも――。
HPは無限じゃない。
ぼくたちの攻撃は、徐々に――、だけど確実に、キマイラのHPを減らし続けていた。
やがて、キマイラが倒れる時がやってきた。
傷だらけで焼け焦げて、何十本もの矢が刺さったキマイラは――、ずずーんと、地響きを立てて、地面に横たわった。
はじめ、みんな、きょとんとした顔をして、突っ立っていた。
誰かが言った。
「……倒したのか?」
誰かが、その問いに答える。
「……倒したんだよな」
「……これ。倒れてるよな」
「……倒れてるわよね? ねえ? これって倒したのよね?」
ロウガが腕組みをして、みなに答える。
「死んだふりの第一人者のオレが断言する! これは死んだふりじゃねえ! 死んでるぞ!」
一瞬のあと――。
「うわあああ――――っ!!」
大歓声が湧き起こった。
みんながみんな、近くの人に抱きついていた。
「すごいよ! あんた凄いやつだよ! 初めて会ったときから凄いやつだって! ずっと思ってたよ!」
ぼくは隣で戦っていたビキニの女戦士さんに、ぎゅーっと抱きしめられていた。
ようやく解放されたかと思うと、こんどは、ガイルさんに、ぎゅーっと抱きしめられる。
「やったなレムル! ――いやレムル|さん! これからはレムルさんって呼ばせてもらうからなっ!」
……なんで? ……さんづけ?
レムルでいいよ。呼び捨てで。……ガイルさん?
長いことあがっていた歓声が、ようやく落ちついてくる。
歓声があがらなくなっても、みんなが笑顔でいた。疲れ果てて、傷だらけでボロボロなのに、みんなで笑いあっていた。





