step.59「磨く」
とあるお休みの日。
昨日、鎧ちゃんが武器屋さんでの修理を終えて、うちにやってきた。
本当をいうと、まだ何日かかかるはずだったんだけど……。あとは錆を落とすだけと聞いたので、自分でやることにした。
いつものぼろ切れと、いつもの磨き粉で、せっせと鎧を磨いてゆく。
錆が落ちて、銀色に光るところができると、ちょっと嬉しい。
「おーい。レムルー。朝飯なんにするー?」
「……」
「……って、うわぁ! おまえ一晩中磨いてたのかよっ!?」
「……」
「……朝飯できたら呼ぶからな? ……こいよな?」
「……」
ぼくはせっせと磨きつづけた。
◇
「ねえレムルー。わたしとノノ、ちょっとお買い物行ってくるけど。お留守番よろしくね」
「……」
「……って、聞いてるの?」
「……」
「なにか欲しいものあったら、買ってくるけど?」
「……」
「聞いてないわね」
「……」
「聞こえてなかったら、返事すること」
「……」
「聞こえてないわね」
「……」
「ぼろ切れと、磨き粉だったっけ? 買ってきてあげるから。――じゃあねー」
ぼくはせっせと磨きつづけた。
◇
「レムルさーん。ただいまですー!」
「……」
「磨き粉たくさんと、ぼろ切れたくさん、もらってきましたよー」
「わう!」
「……」
「ここに置いておきますからねー」
ぼくはせっせと磨きつづけた。
◇
《しかしあんた、飽きないねえ。オバちゃん感心しちゃうよ》
「……」
《けどその子、なかなかしゃべらないねえ。しゃべれない子なのかもねえ》
「……」
《ねえあんた。――前の持ち主に、ひどい目にあわされたのかもしれないけど。人間はひどいやつばかりじゃないよ。この子のことは信用してやってくれないかねえ》
「……」
《……》
ぼくはせっせと磨きつづけた。
◇
「なー、どうするー?」
「そうね。どうしましょう」
「どうしたらいいと思う、シロちゃん」
「わっふ!」
「……」
《あるじ、昨日も倒れるまで磨いていたわよ》
《今朝は気がついたら、またやってましたわ》
《ちょっと妬ける》
《ふふふ。妬かないの剣ちゃん。あるじさまはどんな子にもこうですよ》
《知ってるわよ》
「……」
「レムルがこれじゃ冒険にならねーぞ?」
「昨日はお休みだったから、今日は冒険の日なんだけど……。今日もお休みの日かなぁ」
「でももうすぐ終わりそうですよー。ほら、あと錆が残っているの、あそことここだけですから」
「……」
「じゃあ、今日もお休みの日にしましょう」
「やったー! 二連休ーっ!」
「ロウガ、なんでそんなお休みで喜ぶのよ?」
「あったりまえだろ! 喜ばねーおまえのほうがへんなんだよ!」
「えっ? わたしへんなの? そりゃ週一で疲れを抜くのは効率のためには大事だと思うけど……。なにかやってたほうが、よくない?」
「よくない! だーらおまえは〝委員長〟って言われるんだよ!」
「なによそれ? なんなの? 褒めてるの貶してるの、どっちなの!?」
「やーい! 委員長ーっ! 委員長ーっ!」
「ちょっ! 待ちなさい! コラ! 馬鹿ロウガ!」
《あはははは! ばかロウガー。ばかロウガー。――あっちょっ! 誰か運んでいってってばー!》
「……」
ぼくはせっせと磨きつづけた。
◇
「……よし。おわった」
最後の錆を落としおえて、ぼくはそう言った。
部屋の中は暗い。真っ暗だった。
あれ? へんだなぁ……?
武器屋さんから鎧ちゃんを受け取って部屋に戻ってきて、磨きはじめたのが夜だった覚えがあるけど……。
まだ朝になっていないのかな? けっこう時間が経ったと思ったんだけど。
鎧ちゃんはピカピカになった。新品みたいに見える。
「綺麗になったねー」
《……》
話しかけてみるけど、やっぱり返事は返ってこない。
「ふわぁ~ぁ……」
ぼくは大きなあくびをした。
ちょっと疲れたかなー。
みんなが起きるまで……。朝までちょっと眠るかなー。
ちょっとだけ……。
鎧ちゃんに抱きついた格好で、ぼくは睡魔に襲われた。
《貴方は私が守るわ》
眠りに落ちる直前、そんな声が聞こえてきたような気がしたけど……。
気のせいか、夢だったのかもしれない。





