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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv3編 Act4 レベル3のぼくたちの日常

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step.58「装備を買おう」

「いちま~い……、にま~い……」


 いつものおうち。いつもの朝。

 どこか恨めしくも聞こえてくるアルテミスの声が、家の中に響く。


「おい呪い女。きのう、数えていなかったのかよ?」

「だれよ呪い女って。昨日だってちゃんと数えたわよ」


 アルテミスはロウガに返した。


「それできょうも数えてんのかよ。おま。ほんと数えるの好きだな」

「べつに数えるのが好きなわけじゃないわよ。パーティの会計係として、金貨なくなってないか、毎日チェックする必要があるでしょ」

「ごま~い……、ろくま~い……」


 アルテミスは金貨のカウントを続ける。


「なぁ、やっぱこれって呪いの声だよなー? このあいだなんて、〝いちまいたりなぁ~い〟とか叫びはじめて、オレ、呪い殺されるうぅ! ――って思ったもん」


 ロウガが同意を求めてくる。ぼくとノノは半笑いで返した。

 ちょっとだけ思ったりしないこともないけど、それを言っちゃうと、まじめにやってるアルテミスに悪いし。


「にじゅうさんま~い……、にじゅうよんま~い……」

「じゅうさんま~い」

「ロウガ。その手はもう食わないわよ。邪魔しないの。最初から数え直しになったら、待ってる時間が長くなるだけでしょ」


 アルテミスは、ぴしりと言う。


「ちぇ。チョロ子のくせにナマイキな」

「だれがチョロ子よ」


 ぼくたちはおとなしく待った。


 アルテミスは、毎晩、金貨を数えている。

 ぼくたちは貯金を二つにわけている。冒険者ギルドに預けているお金と、手元に置いておくお金だ。

 その手元にあるお金のほうを、アルテミスは毎日数えているのだけど、それは夜の日課で、こんなふうに、朝、出かける前にやったことはない。


「きゅうじゅうはち~……、きゅうじゅうきゅう~……、ひゃく!」


 アルテミスが数えおわった。


「よし。百枚到達!」

「よしー、おわったかー?」


 待ち構えていたロウガが、そう言った。


「じゃあ、今日もはりきって冒険に――」

「――いかないわよ」


 みんなで、ええっ、という顔を向ける。


「ギルドの預金は別にして、いま手元に金貨で一〇〇枚――一〇〇〇〇Gあるわけよ」

「ケチんぼが貯めこんだからなー」

「ケチんぼは余計。――で、その一〇〇〇〇Gで、今日は装備を買いに行きましょう」

「うえっ?」


 ロウガが驚いた顔をする。ぼくとノノも驚いた顔をする。シロちゃんはへっへっへと舌を出して、剣ちゃんと盾ちゃんと遊んでいる。


「なによその顔は?」

「いやおまえ、前に……、装備とか絶対買わねーって……、言ってたじゃん?」

「絶対なんて言ってないわよ」

「言ってたよ」

「言ってないわよ。ドロップ品で落ちるかもしれない初級装備は店で買わないほうが得だって言ったのよ」

「じゃあそれゆってた! ゆってたじゃーん! ほーらオレの勝ちー! はい論破!」

「なにムキになってんの。なんの勝ち負けよ。――じゃあロウガ、あんたは装備買わなくていいのね?」

「いや! 買う! 買ってください! おねがいしまっす!」


 ロウガが足下にすがりつくと、アルテミスは腰に手をあてて、ふん、と鼻息を洩らした。

 なんだかよくわからないが、ぼくとノノは、ぱちぱちと手を叩いた。シロちゃんも後ろ脚で器用に立ちあがって、前脚の肉球を合わせた。


「まえに報奨金で一〇〇〇〇Gって大金を手に入れたときには、浮かれて無駄遣いしないようにお財布のヒモを引き締めたけれど、いまの私たちは、その一〇〇〇〇Gと同じだけのお金を持っているわけ。しかも預金は別にあるから、この一〇〇〇〇Gは、使ってもいいお金です! よって使います! 今日は武器屋さんに行きます! 以上! 質問は!?」


 一気にまくしたてられて、ぼくたちは、ぽかーんと口を半開きにしていた。


    ◇


「なーこれ買おうぜ! これ! 魔神の小手!」

「ばか値段みなさい。ゼロが一個多いでしょ。仮に一個少なかったとしても一〇〇〇〇G全部あんたの装備にかけられるわけがないでしょ。みんなの装備を均等にアップグレードするんだから、最大の費用対効果を狙いにいかないと損でしょ。……って、こら! まだ話の途中!」

「おまえの話、なげーんだよ!」

「あっ――ちょっ! 待ちなさい!」

「ねーシロちゃん。この弓どうかな? どう思うーっ?」

「わっふ!」


 みんな、はしゃいで武器屋さんの中を駆け回っている。ぼくは店のおじさんに、ごめんなさい、と頭を下げた。おじさんは苦笑いをして、手を振って返してくれた。


「ロウガは攻撃力が上がる装備優先ね。あんた防御力とかいらないでしょ。ノノは弓と、軽めで機動性の落ちないような防具を――わたしとノノとシロちゃんがコンビで、一体、引き受けるときを想定してね」

「おまえはなに買うんだよ?」

「わたし? わたしはべつにいらないかなぁ。この杖はまだまだぜんぜん使えるし」


 アルテミスは杖をかかげてロウガに示した。まえにドロップした「ウッドフォーク」という魔法の杖だ。MPを使わずに初歩の炎の魔法を何発でも撃てるという魔法の杖だが……。

 そっちの追加能力のほうは、最近、あまり出番がない。

 ぼくらの通う第五層あたりだと、初歩の炎魔法とか、撃っても撃たなくてもほとんど変わらないからだ。

 でも杖としての性能はけっこう高い。それより性能のいい杖となると、予算一〇〇〇〇Gだと候補に入ってこない。


「じゃ勝負パンツでも買うかー?」

「それはもう言わないって約束したよね! したよね!」


 ロウガがあんまりからかって、アルテミスが泣いちゃって、ロウガは二度とやりませんごめんなさい、と、言ったはずなんだけど。


《なに? あたいとだれが勝負するって?》


 アルテミスの腰のあたりから声がした。


「うおっ!? ――おま!? 穿いてんの? きょうは勝負する日なのっ!?」

「そんなわけないでしょ!? こ、これは……。鑑定してみたら、防御力プラスの効果がついてる下着だったから……、いざというときのための保険的な意味合いで……」

《そこのチャラ夫? 純朴なボク? それともマッチョなおじさん? だれがあたいと勝負すんの?》


「こら。しゃべらないっていうから、穿いてるんでしょ。――しゃべるな」


 アルテミスが腰のあたりをばしばしと叩くと、勝負パンツちゃんは、沈黙した。


「お――おほん! わ、わたしは――! こ、これがあるから――、装備はいいわっ! もともと魔法系の職業に防御力なんてあっても保険の役にしか立たないしねっ」


 アルテミスは咳払いをしつつ、慌てて話題を変えた。


 ロウガは目を血走らせて棚の間を駆け回っている。ノノもシロちゃんと相談しながら弓とか、胸当てとかを探している。


 ぼくは特にやることもなくて、棚をぼんやりと眺めながら店の中を歩いた。


《ねえあるじー。この子、お話、できるかも》


 剣ちゃんが言う。腰から話しかけてきたが、すうっと半実体を現して、棚に置かれた防具の一つを指さした。

 なにかの甲羅で作った防具……かな?


甲羅の拳(タートル・フィスト)だな」


 僕がその防具を見ていると、店のおじさんがやってきて、そう言った。


「そいつは戦士のぼうずにゃ使えないな。防具に見えるが、じつは武器なのさ」


 と、おじさんは、落ち着きなく走り回っているロウガを見る。


《ねー、ロウガー! こっちにあんたのがあるわよー!》

「おっ? なになに? どれどれ?」


 やってきたロウガは、するっとその小手を手にはめてしまう。


「おー! カッケーじゃん!」


 手を握って、空中に向けてパンチを放つ。最近のロウガがそれをやると、ビシュッビシュッって音がする。


「そいつは見た目がイマイチなんで人気がないんだが……。性能はいいぞ」

「おっちゃん。オレ、これ気に入ったよ。カッケーよ」

「そうか。なら特別にまけてやろう。そうだな……、四五〇〇ってところでどうだ?」

「四五〇〇かー……」


 ロウガは、ちら、とアルテミスに流し目をやった。


「な、なによ、その目は……? ほかのみんなの装備も買わなきゃいけないんだから、ちょっとそれは予算オーバーよ?」

「おっちゃん! もう一声!」

「わかった。じゃあ四〇〇〇……」


 言いかけたおじさんだが、アルテミスのじとっとした視線を受けて、すぐに言い直した。


「……三五〇〇でいいぞ」


 おじさんは、はぁ、とため息をついた。


 やったー! と、ロウガとアルテミスはハイタッチしている。


 値切り? ――とかいうのは、ぼくはやったことがないんだけど。

 値切り過ぎちゃったんじゃないかな?

 ぼくが心配になっていると――。


《気にする必要はない。不良在庫の俺がさばけて店主も助かっている》


 うん? なにか〝声〟が聞こえてきた。

 そういえばさっき、この防具――じゃなかった、武器さんは、お話のできるアイテムだって、剣ちゃんが言ってた。


《俺を格好良いと言ったこの者に力を貸す》


 そう言ったきり、小手さんは黙りこんでしまった。

 しゃべれるけど、無口系? なのかな?


 そのあと、ノノの弓を新調した。

 これまでのショートボウよりも、遠くまで届いて威力も大きなロングボウ。ちょっと扱いが難しくなるけど、最近、ノノの弓はよく当たるようになってきたし、店主のおじさんも、ノノの構えを見て大丈夫だろうと太鼓判を押してくれたし。

 ノノには防具で、革の胸当てと革のマントも追加。店主のおじさんによれば、ゴブリンくらいなら接近戦でタイマン張れるようになったって。


「あと最後は、レムルよねー」

「ぼく?」


 自分の顔を指さして、ぼくは聞いた。


「まだ四〇〇〇G残してあるから、いい装備を買えるわよー?」

「そうだぜ。剣と盾も新調しないとなっ!」


《えええ――っ!?》

《あ――あるじさまっ!? 盾はお役に立ちます! 立ってますから! 下取りに出さないでえぇ!!》


「お? その剣と盾、売ってくれるのか!? 見たことはないが魔法の武具だよな!」


《ひいいぃ――っ!》

《いやあぁ――っ!》


「冗談だって」


 ロウガが真顔で言う。


「冗談でもそういうこと言わないの」

「ロウガさん最低ですよね」

「がるがる」


 アルテミスがロウガの足を踏む。ノノが脇腹をつねってる。シロちゃんが向こう脛をかじってる。


「なんだ。冗談か。さすがにそいつは売らんよなぁ。……だがその気になったら、いつでも持ってきてくれ」

《こないから! 売らないから! ――ねえあるじっ!?》


 剣ちゃんが店主のおじさんに向かって叫んでいる。

 でもおじさんには見えていないし、聞こえてもいない。ちょっと不思議な光景。


「剣と盾は魔法の装備のようだが、鎧は安物だな。四〇〇〇っつーと……、これなんかどうだ?」


 おじさんは、鎖かたびらを、じゃらりと出してきた。


「おー! レムルも金属鎧デビューかよ!」

「それいいんじゃないかしら? プレートメイルとかより動きやすそうだし。もっともそっちは手が届かないけど」

「カッコいいですよー」


 みんながそう言ってくれたので、ぼくもそれでいいかなと思った。

 思ったんだけど……。


《ねーねー、あるじー》

《あるじさまー》


 剣ちゃん盾ちゃんが、棚の下のほうを覗きこみながら、ぼくを呼んでくる。


《こっちのこの子がさー》

《いまはまだ喋れないみたいですけど》

《そのうちしゃべってくれそうよ?》


「どれ?」


 剣ちゃんと盾ちゃんは、売り物が並ぶ棚の下……。ガラクタ置き場みたいになっているところの、さらに奥まったところに放置された、古びた鎧を指差している。


 錆だらけのその鎧を、ぼくは、じーっと見つめた。


《……》


 なにも言わない。でも、なんかしゃべりそうな雰囲気はある。


「お? どうしたぼうず?」

「これ……は?」

「ああ。そいつか。錆びてるし。まあガラクタだな。そのうち鋳溶かして、材料にしちまうつもりだが」


《……》


 おじさんが、〝ガラクタ〟と呼んだときに、その鎧が反応した気がする。


 鎧を引っぱりだしてくると、どんな形なのかわかった。

 プレートメイル? とかいう鎧? それの一部分だけみたい。胴体につける部分だけがここに置かれていたっぽい。

 これなら、いま着ている革のチョッキの下に身につけられるかな?


「いやあ……。こいつはお勧めしないぞ? まあ値段はタダみたいなもんでいいが……。このままじゃ使えんから、直して使えるようにするのに、だいぶ金がかかる。新品とはいわんが、もっと程度のいい中古を買ったほうが……」


 ぼくはみんなを見た。


「レムルがそれでいいっていうなら、いいんじゃない? ――剣ちゃんと盾ちゃんも言ってるし」

「おう。レムルの防具だしな。おまえが決めろよ」

「レムルさん、似合うと思いますよー。カッコいいですよー」

「ワウ!」


 みんながいいって言ってくれたので……。店主のおじさんを見る。


「四〇〇〇……、で、足りますか?」

「買う気かよ……。まあ、依頼してくれりゃ、修理扱いでやってやるけどよ。ああもう商品代のほうはタダでいいぞ。そのかわり修理代は規定分、もらうからな」


 ぼくはうなずいた。


 修理に何日かかかるみたいだけど……。

 ぼくたちのところに「鎧ちゃん」がやってくることになった。

鎧ちゃんきました。でも無口です。人化の予定は……ないです。

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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