step.48「救難活動」
いつもの迷宮。いつもの第四層。……からの帰り。
地上に向けて、ぼくたちは第三層を歩いていた。
最近、迷宮のリセットは起きていないし、第三層のマップは自分たちで作らないでもギルドで無料配布されているし。
――なので。
ぼくたちは第二層に向かうための最短距離を歩いていた。
第四層に通って、オークとか、強いモンスターと戦うようになると、第一から三層までは、単なる通過点というか、通路でしかない感じ。
ゴブリンが湧出したり、宝箱が出たりする部屋はあるんだけど。宝箱の再湧出する部屋の場所も知ってるけど……。わざわざ回り道をして回収していこうとかは思わない。
第三層までは情報共有されているので、地図に書いてあるその場所は、みんなも知っている。行っても、宝箱はだいたい空になってるのだ。
「しっかし、この階にもよく通ったよなー」
ロウガがしみじみと、そうつぶやいた。そのつぶやきに、ぼくらはうんうんとうなずいた。
〝ゴブリン・スレイヤー〟なんてからかわれるぐらい、ぼくらはこの階に入り浸っていた。
レベル1のときには、第一層と第二層のマップを、ひーひー言いながら埋めていた。マップの買い取りが、ほとんど唯一の収入源といえる感じ。
はじめてのゴブリンを倒したときも、ひーひー言いながら、全員で総掛かりでなんとか倒して……。
ゴブリンメダルが一枚五〇Gにもなって、びっくりしていた。
それから、けっこう長いこと、第三層にこもりつづけた。
毎日のようにゴブリンを狩って、多い日には、一日に一〇〇〇Gものお金を手に入れていた。
「そういえば、ガイルさんたちと会ったのって、ここだったわね」
アルテミスが言う。
「あのときすごかったですよねー。みんなで走って……」
ノノも言う。
ぼくらがはじめて第三層にやってきた、その日――。ダンジョン名物〝トレイン〟というやつに巻きこまれて、轢かれかけた。
ガイルさんたちは、そのときにはもうゴブリン狩りをやっていたけど、戦っている最中にゴブリンが増えてしまって、逃げることにしたのだ。そこにたまたま、第三層にはじめて下りてきたぼくたちがいたというわけだ。
「あんときゃ、何匹もいたもんなー。いや何十匹か? オレたちだって逃げ出しちまうよなー」
ロウガが言う。そしてふと思いついたように、隣のアルテミスに話しかける。
「なあ?」
「なによ?」
「何匹ぐらいまでだったら、オレら、やれると思う?」
「メイジがいるなら、三匹ぐらいにしておきたいわね」
「ぜんぶ普通のやつだったら、何匹かって話だぞ」
「そんな都合よく普通のゴブリンだけなんてことは……。五匹?」
「いや。七匹くらい、いけるんじゃね?」
「ちょ――。それじゃわたしらのところまで、ゴブリン押しかけてくるでしょうに」
「一匹二匹、おまえらも分担しろよ」
「張りつかれたら、魔法唱えられなくなるでしょ!?」
「おまえの杖。呪文詠唱しないでも連発できるじゃん」
「あ、そっか。ゴブリンぐらいだったら、炎弾の二、三発で倒せちゃうわね……」
「わたしもー、一匹くらいだったら、なんとか相手できるかもー」
「シロだって、でっかくなったから、ゴブリン一匹二匹、いけるんじゃねーの?」
「えっと、なに? それじゃいまわたしたちって……。レムルが最大三匹。ロウガが三匹。シロちゃん二匹。わたしとノノで一匹ずつで……。え? 十匹もやれちゃうってこと?」
「まー、実際、十匹もいたら、戦うよりも逃げるけどなー」
「ロウガ。あんた、最後尾やんなさいよ。しんがり努めなさいよね?」
「あったりまえだろ? なんのために〝死んだふり〟があると思ってんだよ?」
「あっやだ。いまちょっとキュンときた。ロウガのくせにカッコいい」
「はっはっは! オレに惚れるとヤケド――」
「――ウソだから」
「……!? な、なんだってー……!?」
《ねーねー、アルテミスー、きゅんとくるって、どんなかんじー?》
「だからウソだって。どうして男って、〝女の子はみんなオレに惚れてる〟って思うのかしら。一〇〇パーセント引っかかるのは、なんで?」
「なんでだろうねー。アルテミスちゃん」
「ちなみに〝きゅん〟っていうのは、剣ちゃんと盾ちゃんが、レムルみて思う感じじゃないかしら」
みんなの話を楽しく聞いていたら、なんか、話題が急にぼくのところにきちゃった。
《あっ! それならわかるー! ねー、あるじー!》
《この気持ちがきゅんなんですか? あるじさま。盾はいつもきゅんきゅんしております》
「おいレムル。なんでおまえだけモテるんだ」
《ロウガもカッコいいわよ》
「オレの良さをわかってくれるのは剣ちゃんだけだ! ケッコンしてくれ!」
《拳士、剣つかえないじゃない》
「フラれたーっ!!」
「みんな。だまって」
ぼくはみんなにそう言った。
みんながあわてて口を閉ざす。ロウガなんて口を押さえている。
耳を澄ますと――、どこか遠くのほうで、金属と金属がぶつかるような音がしている。
「どこかで……、戦ってるな」
ロウガが言う。
「これ、けっこう多いんじゃない? ゴブリンだとしたら」
「苦戦……、してる感じじゃないですか……? これ?」
アルテミスとノノもそう言った。
ぼくもそう思う。金属の打ち合う音にまじって、人の声とかゴブリンの声とかも聞こえてくるが、余裕で戦ってる感じの音とは違っていた。
ゴブリンは優勢のときと劣勢のときとで、ぜんぜん違う声をあげるのだ。
これは調子に乗ってるときのゴブリンの声。
「どうする? 避けていくか?」
ロウガが言う。
「ちょ――!? 助けにいくんじゃないの?」
「知らないやつを助けるより、仲間の命を優先するって考えもあるよな」
「それはわかるけど……」
アルテミスが、ぼくを見た。
ぼくはリーダーっていうことになっている。「行く」か「引く」を決めるのはぼくの仕事。
でも結論だったら、さっき出ている。
いまのぼくたちは一〇匹までだったら、ぎりぎり相手をすることができる。
トレインでも起きていて、いくつもの部屋のゴブリンたちが全て合流したのでなかったら、そんな数にはならない。
ゴブリンがたくさんいる部屋に当たっちゃったのだとしても、せいぜい五匹くらいで、メイジかシャーマン付きくらい。
「行こう」
ぼくはみんなにそう言った。
次回、新人さんパーティの救難活動の回となります。
そこまで書くと長くなりそうなので、分割しました。





