step.4「剣ちゃんと盾ちゃんと暮らす」
《もう! いつまで寝てんのよ! この寝ぼすけ!》
《まあまあ。剣ちゃん。昨夜も遅くまで、わたしを磨いてくれていたんですからー、お疲れなんですよー、あるじさまはー》
《盾ちゃんだけずるい! あ、あたしだってねっ!》
《ふふふっ……。それは自分も磨いて欲しかったっていうこと?》
《べ――べつに! 手入れしてほしいだなんて、言ってないし!》
《しかしあんたたち、いつもいつも言い合いばかりで……飽きないねえ。まあ賑やかになったのは、オバちゃん、楽しいけどね》
みんなの話し声が聞こえてきて、ぼくはむくりと起き上がった。
石の床に、薄い寝床。
起きたときに体は痛くなるけど、心のほうは、とても幸せだった。
三人が話をしている。
その話し声で目が覚めるなんて……、最高!
さっそく、ぼろ切れを取り出した。
昨日、寝落ちするまでにやっていた作業の続きにとりかかる。
磨き砂と水を、布にちょっと付けて――それで盾ちゃんの表面をごしごしと擦る。
磨いてゆく。
ずっと放置されていた盾ちゃんは、ところどころサビが浮いている。ごしごし磨くとちょっとずつ消えてゆく。
《あーっ! また盾ちゃんのほう! 盾ちゃんばかり! あんた! なんなの! なんで盾ちゃんばっかひいきすんの! 盾ちゃんのこと好きなの!?》
壁に立てかけた剣ちゃんが騒いでいる。
「うん。好きだよ」
《あらあら、まあまあ――どうしましょう》
《えーっ!? ちょ――!? それ本気でっ――》
「剣ちゃんも好きだよ」
《ばっ――ばかっ! そんなこと言えなんて、言ってなーい!》
「オバちゃんも大好きだよ」
《はいはい。オバちゃんもぼうやのこと、大好きだよ》
《あ――あたしだってね? 手入れしてもらいたいんだからね。――いえべつに! あたしがしてもらいたいってわけじゃなくって! あんたがどうしても手入れしたいっていうなら、させてあげてもいいって思ってんの!》
「でも剣ちゃん。磨くのは違うって、この前怒って――」
《当然でしょ。剣を磨いて、どーすんのよ。剣の手入れはね――研ぐの!》
「研ぐには、砥石? とかいうのが、いるんだよね?」
《そうよ》
「あれ、けっこう高いんだ」
《高いって、なんのこと? そんなの、どっかから持ってきなさいよ。あるところには置いてあるでしょ?》
「何日か待ってくれないかな……。そしたら葡萄酒を売って、砥石も手に入るから……」
オバちゃんもそうなんだけど、〝物〟たちは、「お金」というものを一向に理解してくれないのだった。
いくら説明してもダメ。
なんか根本的に考えかたが違っていて、わかんないっぽい。
《うん? なんかオバちゃん、期待されているのかい? でもさすがにオバちゃん疲れちゃったよ。いきなりたくさんは出せないよ》
剣ちゃんのほうの手入れは、砥石が手に入るまではできないので、ぼくは盾ちゃんをせっせと磨いた。
酒場に葡萄酒を届ける日課をやる以外の時間は、ずっと磨き続けた。