step.42「ヒミツを明かす」
「なんだよ? レムル? 話って?」
「あっ――! お酒、おしゃけー! 樽オバちゃん、すきー!」
「おじゃましまーす。あっ。これお菓子がわりにー」
〝準備〟が終わってから、皆を部屋に招いた。
アルテミスが樽オバちゃんにしがみついている。
ノノがさっそく、お菓子――じゃなくて、葉っぱを置いたお皿を床の上に並べている。
ロウガが葉っぱをみて、げそっとした顔をしている。
普段はキリリとしているアルテミスだが、樽オバちゃんを前にすると、こうして残念な感じになってしまう。
樽オバちゃんは、以前は、ダイニング? とかいう、皆がごはんを食べる部屋に置いてあったんだけど。アルテミスがだめな人になっちゃうので、僕の部屋にしまうことになった。
ワインは夕飯のときに一杯まで。たくさん飲んでいいのは、僕の部屋で飲み会? とかいうのをやるときだけ。
今日は飲み会じゃなくて、みんなにきちんと話そうと思ったんだけど……。
はっし、と、樽オバちゃんにしがみついてるアルテミスは、ちょっともう引き剥がせそうにない。
前に一〇〇〇〇Gで買った家に、僕らは住んでいた。
部屋はたくさんあるので、それぞれ自分の部屋を持っている。アルテミスとノノは一緒の部屋だけど、魔法使いの研究室は別にあったりする。
「ほらロウガ。――あんたも飲みなさいよ」
アルテミスがロウガにワインを勧める。
だがロウガはそれを突っぱねた。
「あとだ。――なんかレムルが話あるって言ってたろ」
「ロウガがまともなこと……ゆってる」
アルテミスはびっくりした顔になって、ワインのジョッキを置いた。
服をぽんぽんとはたいて、皺を伸ばして、キリリと澄ました顔で背筋を伸ばす。
「……なに? レムル?」
あー! そうやって改まって聞かれるとー!
無理ーっ!
ますます言葉が出なくなってしまう。
でも大丈夫。剣ちゃんの〝いい考え〟の準備は万端だ。
僕はおもむろに、剣ちゃんを手に取った。
布に磨き粉をつける。
いつものお手入れセットで、いつものようにお手入れをはじめる。
ふきふき。ふきふき。
ふきふきふきふきふき。
「……?」
「………?」
「…………?」
皆が頭の上に「?」を浮かべている。
だけど僕は剣ちゃんのことを、ふきふきと磨きつづけた。
「あのな、レムル?」
「ねえ、レムル?」
「レムルくん?」
ちょっと待って。もうすこし。あとすこしだから。
《キタきた来たぁ――! いくわよー! きたわよー! なんかレベルアップするみたいなカンジー!》
手のなかで剣ちゃんが叫ぶ。
そして剣ちゃんの体――剣の刀身が、ぴかーっと輝きはじめた。
ぽんっ!
音がして、剣ちゃんが現れた。
「わっ!」
「えっ!
「わわっ!」
みんなが声をあげる。
剣ちゃんの姿は、いつもみたいに透けていたりしない。はっきりと姿が見えている。
僕にそう見えているが、みんなが声を上げたということは――。みんなにも、見えているということで――。
「成功ねっ!」
剣ちゃんは腰に手をあて、胸を張って立った。
「これ……、なんなんだ?」
「この娘……、な、なに?」
「しょ、召喚ですかっ!? 召喚なんですかっ!?」
《あるじさま。わたくしも》
みんなが驚いているその脇で、僕は盾ちゃんのほうも――。
ふきふきふきふき。ふきふきふきふき。
ぽんっ!
盾ちゃんも現れた。剣ちゃんの隣に並ぶ。
腰に手をあてている剣ちゃんと、二の腕を柔らかく押さえている盾ちゃんと、二人、ポーズは違うが、その顔は同じ。
ずっと一緒に戦ってきた仲間に向ける顔を――二人はしている。
でもロウガやアルテミスやノノのほうは、ちょっと困惑した顔でいる。
みんなにとっては、いまはじめて出会ったわけで――。
僕と一緒に、ずっとみんなと一緒にいた二人とは、温度差があって当然で――。
「ええと? あの……? レムル、ちょっと紹介っていうか……、つまり、説明してくれない?」
アルテミスにそう言われた。僕は固まってしまった。
「あるじには無理よ。だからあたしたちが出てきたの」
「はい。わたしたちが説明いたします」
よかった。剣ちゃんと盾ちゃんが説明してくれる。
剣ちゃんの言っていた〝いい考え〟というのは、つまりこれだった。
僕が説明するのは無理だから、かわりに二人が説明してくれるという作戦だ。
前に、二人の手入れを念入りにやっていたら、二人が、レベルアップ? したような感じになった。その後、二人は女の子の姿になれるようになった。僕だけにしか見えていなかったけど……。
最近になって、二人はまた、レベルアップ? しそうな感じになってきていたのだという。
だから頑張って、せっせと磨いたのだ。
こんどのレベルアップ? では、予想の通りに、その姿がみんなにも見えるようになっていた。
「なー? このカワイコちゃん、だれ?」
ロウガが言う。
アルテミスの肘が、どすっとロウガのお腹にはいって、ロウガは前のめりになって呻いている。
「あの? さっきの、召喚? ですか? ……シロちゃんみたいに?」
シロちゃんが、ぽんっと、呼びだされて出てくる。シロちゃんは、すぐに剣ちゃん盾ちゃんの足にまとわりつきにいった。
シロちゃんには前から見えてたっぽいしね。初対面じゃない。
「あの。ええと。私。アルテミスです。こっちはノノで、この馬鹿は――」
「知ってる」
剣ちゃんは言う。
「ずっと一緒にいたもの」
「え? ずっと一緒って?」
きょとんとしているアルテミスに、剣ちゃんは言う。
「あたし、剣!」
「わたし、盾です」
「は? ……剣? 盾?」
「いつもあるじがお世話になってます!」
二人揃って、四十五度の角度で深々とお辞儀をする。
「えっ? えっえっ? えっ? レムルの……剣? 盾? えっ? ええーっ!」
アルテミスが大きな声をあげて、二人を指差す。
「えっ? どうしたんですか? アルテミスちゃん?」
「なんだよ? わかったんなら、説明してくれよ?」
「だから剣なの! 盾なの! レムルの使ってた剣と盾が! この女の子たちで! うわあぁぁ! インテリジェンス・ソードだったなんて! 盾のほうはなに! インテリジェンス・シールドとかいうべきいぃ!」
「おま。うるさいぞ。耳の奥がかゆくなるから、大声やめ。――って? ええっ!? なんだって――っ!! 剣と盾がこのカワイコちゃん!」
「そこ関係ある!? ねえそこ関係ある!?」
「いんてりじぇんす、なんとかっていうのは……、よく知らないけど。アイテムはけっこう喋っているわよ? そこの樽オバちゃんも、女の子にはなれないけどしゃべれるし」
「ええっ!? 樽オバちゃんも、インテリジェンス!? ……樽っ!?」
アルテミスが驚いている。
「ロウガのひっさつくんも、いっぱい喋ってるわよ。あるじにしか聞こえてないけど」
「ええっ!? インテリジェンス……札っ!?」
「うおお!? これもカワイコちゃんになるのかっ!?」
《ボクにはべつに性別とかないし。姿はべつに取らなくてもいいかなぁ。あとそうだ。名前を付けてくれた礼を伝えてくれないかな》
ロウガの握りしめている札さんが、そう言った。
「名前つけてくれて、ありがとー、って、そう言ってるわよ」
「うおおー!! ほんとなのかー!! ――で!? いつカワイコちゃんになるんだ!!」
「あんたさっきからそればっかり」
アルテミスの杖制裁が、ロウガの脳天に落ちる。樫の木だから、鉄と同じぐらい硬い。
《期待されているのかな?》
ひっさつくんが、すこし笑いながらそう言った。
「ちょっと待ってちょっと待って! ――いい? 整理するわよ?」
アルテミスがみんなに言う。
「ええと、レムルの剣と盾が――前から不思議な武器防具だと思っていたけど、じつは意思を持っていて、それで人化したって……そういう理解でいいのかしら?」
「うん。まえは、なんか――幽霊? みたいな感じだったんだけどねっ。みんなからもちゃんと見えてるってことは、触れたりすることもできるのかな?」
「おっ? 触れるのか?」
――と、ロウガが手を伸ばす。
いちどは剣ちゃんに伸ばした手を――盾ちゃんのほうに、ふいっと目標変更して、おっぱいに手を触れた。
「おおおおお――っ! さ、さわれたっ!」
「さわれた――じゃないでしょうがっ!!」
樫の杖制裁が、ロウガの後頭部にヒットする。一発だけでなくて、二発、三発、ぼっこんぼっこん叩いてる。
ノノもシロちゃんをけしかけて、がるがると噛みつかせている。
「なんでロウガ、怒られてるの?」
「さあ? なんで?」
「なんででしょうかー?」
僕たちは首を傾げあった。
「あっ――! レムルさんがしゃべってます! ほら普通にしゃべってますよー!」
「ほんとね」
アルテミスが、ようやく殴る手を止めて、僕たちを見て笑った。
ノノも笑う。
ロウガは死んでいた。――死んだふりだろうけど。
剣ちゃんと盾ちゃんも笑った。
その日は、みんなでいっぱい、話をした。剣ちゃんと盾ちゃんが姿を現していられる限界時間まで、楽しく話した。
アルテミスもノノも、すぐに打ち解けて、ずっと一緒に冒険をしてきた仲間のように、剣ちゃんと盾ちゃんと話していた。
実際、僕たちは最初からずっと一緒に冒険をしていたのだ。





