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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act6 迷宮第三層 ゴブリンの洗礼
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step.37「ゴブリンと遭遇」

 魔法の杖を手に入れて、ぼくらは未踏破部分の探索に乗り出した。


 杖はアルテミスが持っている。

 使うのにMPはいらないということだけど、魔法使いでないと使えないものらしい。ロウガがすごく欲しがってたけど、使えないんだから、しようがないよね。


 ぼくが先頭でいつもの隊列を組んで、通路をゆっくりと歩いてゆく。


 ゆっくり歩いていれば、罠があるときには、床石さんたちが教えてくれる。《あぶないよー》という声が聞こえてきたら、立ち止まればいいわけだ。


 ほかのパーティでは、盗賊シーフという職業の人が先頭になるんだろうか?

 盗賊シーフの人は、どうやって罠を見分けるんだろう?

 きっと、ぼくのとは違う方法のはず。


 さっき出会った、おへそを出してた女の子が、盗賊シーフだったから、こんどどこかで会ったら、聞いてみようか。

 ……って、どうやって聞けばいいんだろ? ぼく、人とはうまく話せないよね?


《あるじ。止まって。――なんかいるわよ》


 剣ちゃんが言う。

 ぼくは足を止めた。


「あいたっ」


 背中に後ろを歩いていたアルテミスがぶつかってきた。鼻がぶつかって、おっぱいもぶつかる。


「どうしたの? レムル? ……急に立ち止まったりして」

「なにか……、いる、……みたい。」


 ぼくはそう言った。剣ちゃんに聞いたままだから、なにがいるのかは、ぼくにはわからない。


《なんか、通路の奥から殺気を感じる。コロス、コロス、コロス――って、絶対殺すマンが、こっちを見てる》

《1体のようですわね》

《ねえ? あれゴブリンかな? そうなのかな? 斬っちゃう? 斬っちゃっていい? いいよね? 向こうもコロスコロスコロスなんだから、こっちも斬る斬る斬る斬るで、いいわよねっ!?》


 剣ちゃんが喜んでいる。

 ゴブリンというモンスターには、ぼくたちはまだ出会ったことがない。

 剣ちゃんは、一度あったモンスターの殺気? とかいうもの種類を見分けられるという。盾ちゃんは種類はわからないけど、かわりに数がわかる。

 二人を合わせると、種類と数がわかることになる。


 これってけっこう、便利なのでは?


《あれたぶんゴブリンでいいんだと思うわよ。これまでの動物みたいなのより、はっきりコロスってきてるから》


 ダンジョンで生まれるモンスターは、人間やその他の自然界の存在に、ものすごく敵意を持っている。絶対殺すマンとか、さっき剣ちゃんが言っていたけど。そんな感じ。

 だからこちらも、やっつけるつもりで向かわないと……。


 ぼくは剣ちゃんと盾ちゃんを、しっかりと握り直した。


「レムル? 敵なの? ……ゴブリン?」

「うん。……たぶん。」

「どうする?」

「どどど、どうしましょう……? ししし、シロちゃん喚んだほうがいいですかっ?」

「もう今日は喚べないでしょ」

「ご、ご、ご、ゴブリンってな……、強いんだろ?」

「しおりによると、弱い、って書いてあるけど……。さっきのあの人たちみたいなパーティにとっての〝弱い〟だろうから、私たちにとっては強敵かも……」


「レムル。敵は……、一匹だけ?」

「うん。」


 ぼくはうなずいた。


「何匹もいるなら、引き返す手もあるけど……。一匹だけなら……」

「た、た、た、戦うのか? やるか? やるのかっ?」

「や、や、や、やります。やりますっ。シロちゃんいないけど……、弓、撃ちますっ」

「一匹のゴブリンで撤退していたら、私たち、いつも逃げ帰るはめになるものね」


 アルテミスはそう言うと、手に入れたばかりの杖を握りしめて、深々とうなずいた。

 ぼくもまったくの同意見。


 冒険に出たのだから、いつかはちゃんと戦闘をするわけで――。

 それが〝いま〟というだけの話。

 もともとぼくは、剣ちゃんと盾ちゃんに充実した人生? 剣生? 盾生? を送ってもらうために冒険者になったわけで……。戦いは望むところ。


 人型のモンスターとの戦いかたは、だいぶ練習してきた。体が動くようになっている。

 さあ。こい。


 ぼくたちが戦闘態勢を整えて、通路の途中で待ち受けていると――。


 ぺったぺったと、裸足で歩いてくる足音が……。闇の奥から近づいてきた。


 最初に見えたのは、二つの目。

 つぎに見えたのは、頭にかぶっている鉄のかぶと。

 防具らしい防具は、そのかぶとぐらいで、あとは上半身裸。手には、ナイフよりは大きく、ショートソードよりは小さな刃物を握っている。


「ご、ゴブリンだぜ!」

「ゴブリンよ……!?」

「ゴブリンですっ!?」


 うん。見えてる。言わなくてもわかるよ?


 まっすぐに歩いてくるゴブリンを待つ。

 ちょうどいい距離に来たところで、ぼくは大きく踏みこんで、剣を振った。


「キキッ――!」


 ゴブリンは、ぱっと後ろに飛び退いた。

 当たらない。素早い。


「炎よ――!」


 アルテミスの声がするのと同時に、ぼくの脇を、炎の塊が抜けていった。

 その炎は、前にアルテミスが撃ったことのある魔法弾と同じぐらいの大きさ。


 ゴブリンはその火の弾を――ひょいと避けた。

 すごい身軽。


「あっ――避けた! もう一回! えい! ――炎よっ! ――えっ、なんで出ないの? あっ――! もうちょっと待たないとだめなのね!?」


 魔法の杖は、連発できないらしい。


「えい! えい! えい!」


 ノノが弓矢を連発している。

 でもゴブリンが避けたのは、何連射かしたうちの一本きり。他の矢は避けるまでもなかったみたい。


「キキキキキキッ!」


 ゴブリンは両手をあげて、舌を突き出しながら、小躍りした。


「ばかにされてる~っ!?」


 あっ。やっぱり。そうなんじゃないかと思った。


「つぎはオレの番だ! あちょーっ!! ひょおおお――っ!!」


 ゴブリンの前にでたロウガが、変な踊りみたいな、妙な構えを取る。


「……キヒッ」


 ゴブリンは、鼻で笑った。


「笑われたあぁ! オレはもうだめだぁ! 誰かオレのかたきを……、俺の敵を討ってくれえぇぇ!」


 ばたり。ロウガは死んだ。


 目の前で死んでしまったロウガのことを、ゴブリンが気にして――、つんつん、と、ナイフの先で突っついている。


「隙あり! ――炎よ!!」


 時間が経って、また杖が撃てるようになったのか――アルテミスが炎を撃った。

 ゴブリンはロウガの死体に興味津々で――、不意をつくことに成功した。


「ギャアア!!」


 体に当たって、ゴブリンが叫ぶ。

 これまでは、たぶん、へらへらと笑っていたんだと思う。


 そこにダメージが入って、本気になった。

 目が爛々と輝きを放つ。赤く禍々しい輝きが、殺意、というものであると――。空気読むのが苦手なぼくにも、よくわかった。


 剣ちゃんのいう「絶対殺すマン」に、ゴブリンは――変わった。


「ギイイイイイッ!!」


 ナイフが振るわれる! 振るわれる! 振るわれる!

 盾ちゃんに、ガシンガシンとぶつかってくる。


《はうわぅわああぁぁ――っ! お守りします! おまもりしてます! おまもりしてりゅうううぅぅ――!!》


 盾ちゃんが、なんか、おかしい。

 まあ気持ちはわかるけど。ぼくはいま盾ちゃんに、すっごく守られている。


 ガシンガシンと、ゴブリンは力まかせに打ちつけてくる。すごい力だ。

 盾を支える腕ごと持っていかれそう。

 小さな子供ぐらいの体格でしかないのに、大人ぐらいの力がある。


 また強い攻撃がきた。

 盾で受ける。攻撃を受けきったところで、すかさず剣を振る。

 だがゴブリンはそのときにはもう素早く体勢を立て直していて、ぼくが振った剣は当たらない。

 そしてゴブリンの攻撃が来て――。


《あるじ様!!》


 盾ちゃんが間に合った。ぼくが動かしたというよりも、盾ちゃんがぼくの手を動かして、防御がぎりぎり間に合ってくれた。


「ギャッ! ギャーッ! ゲッ! ゲーッ!!」


 ゴブリンは立てつづけに攻撃をしてくる。

 下手に攻撃をすると、さっきみたいに隙を生んでしまう。ぼくは防戦一方になった。


「アルテミスちゃん! レムルくん援護してぇ! 撃って! 撃ってーっ!」

「だめ! レムルに当たっちゃう!」


 ノノとアルテミスの声が聞こえる。

 アルテミスは魔法の杖を撃とうとしているが、チャンスがないっぽい。

 ノノも弓は打ていない。ノノの腕前は、お世辞でも上手とはいえないから……。打ったら、ぼくの背中に当たっちゃう。


「レムル! レムル! がんばって! レムル!」


 うん。がんばってる。がんばってるんだけど……。

 これは、ちょっと……勝てそうにないカンジ?


 撤退したほうが良さそうな感じなんだけど、アルテミスもノノも、ぼくの後ろで応援するばかり。

 声を出して指示をしようにも、防戦一方のぼくは、それこそ本当に息をつく暇もなくって……。

 一声でも発したら、隙ができて、やられちゃいそうな気がする。


「ああ! もう! 隙があれば! 援護できるのに! 魔法、撃ちこんでやれるのに!」


 柄を構えてアルテミスが言う。ノノも弓を構えている。

 でも隙がない。隙が作れない。

 ゴブリンは強い。すごく強い。

 Lv1のパーティには、1匹でも強敵だった。


 その時――。


 跳ね回るゴブリンが、床で死んでるロウガを踏んづけた。

 ゴブリンがバランスを崩す。


「……いまだ! キエエエーーイ! 隙アリィィィーッ!」


 すかさず起き上がったロウガが、ゴブリンの背中にキックを決めた。

 完全に不意打ちが決まった。

 ゴブリンはロウガのことを死んでいると思っていたっぽい。ぼくたちだって、ロウガのことをすっかり忘れていたくらいだ。


「いまだ! 撃てええ!」

「炎よ――!!」

「あたってー!」


 ロウガが叫ぶ。

 アルテミスが杖をかかげて、炎を撃つ。

 ノノが矢を放つ。


 炎はゴブリンの体のど真ん中に命中し――。

 矢はゴブリンの片目を射貫き――。


 それでもまだ、ゴブリンは生きていた。


「グガ……ガガッ!」


 剣をぼくに向けて振ってくる。絶対殺すマンの気迫で、ぼくを殺そうとしてくる。

 だから――。ぼくは――。


 ゴブリンを斬った。

 思いっきり振りかぶった剣に、渾身の力をこめて――。

 ゴブリンの左肩の上から、右脇腹の下まで、一気に剣ちゃんが抜けていった。


《タアァァリィホウ――ツッ!》


 剣ちゃんが、なんだかよくわからない叫びをあげている。

 一本の剣として――。敵を打ち倒した、その叫びだった。


 ゴブリンは、倒れた。

 ぼくたちは――。

 強敵ゴブリンを、ようやく倒したのだった。

ゴブリン1匹、ひーひー言って倒しましたー。

次回エピローグで、Lv1編、終了でーす。

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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