step.36「宝箱を開けにいく」
ゴブリン狩りの人たちと別れて――。
ぼくたちは三階に下りてきた。
あの人たちが下りていってから、すこし時間をおいて下りてきたから、三階についたときには、もう姿はない。
耳を澄ますと、どこか遠くのほうで、戦っている感じの音が聞こえてくる。
最初の分かれ道に来た。
右と左に別れている。遠くから聞こえる音は右から聞こえてくる。地図の未踏破領域も右のほう。
左は探索済み。……ではあるのだれど、探索済みになっているのは三部屋目までであって、その先は未踏破だ。
ダンジョンは広い。二パーティが一日回ったくらいでは、一つのフロアは踏破できない。
あっちとこっちで別れても、回るところはお互いにいっぱいある。
一度、一階の全マップを一日で制覇してしまったことはあるけれど、あのときは「大絶滅」のあとで、モンスターにも出会わなかった。
だが今回は、あの人たちが言っていたけど……。三階にはモンスターがいる。
「ゴブリン」というモンスターは、名前はよく聞くけれど、ぼくたちは見たことがなかった。
《ねえ、あるじ? みんな待ってるわよ?》
剣ちゃんに言われる。
分かれ道のところで立ち止まっていると、皆が、ぼくを見ていた。
あっ。そっか。
どっちに行くのかで、ぼくを待ってるんだ。
「左。行こう。」
ぼくはみんなに言った。
◇
左に行った。通路沿いにある、一つ目と二つ目の部屋は、覗いてみたが、空だった。
ゴブリンがいて、戦闘があったという。
だが当然死体もない。ダンジョンで生まれたモンスターは、倒されると黒いモヤになって消えてしまう。
二つの部屋を見終わって、三つ目の部屋に行く。
あの人たちの話では、この部屋には――。
「おー! 宝箱だーっ!」
部屋のドアを開けた途端、ロウガが入っていった。
アルテミスとノノと、二人の女の子は、ぼくが止めて――。
「罠……さんとか。いませんか?」
部屋に罠などがないかどうか、聞いて確かめる。
しばらく待ってみたが、返事はない。……ということは、罠はない。
「だいじょう……ぶ。……いいよ。」
ぼくは女の子たち、二人に言った。
「おいなんだよ。罠があるのかよ。先に言ってくれよなー」
「なに言ってるのよ。あんたが勝手にどすどす入って行ったんじゃないの。――あと、ないって言ったでしょ。いまレムルが」
ロウガに言いたかったことを、アルテミスが全部言ってくれた。
罠があるかもしれないところに、どすどす入ってゆくと、危ないよね。
ぼくたちは、部屋にある宝箱と対面した。
宝箱さんにも、いちおう、聞いてみる。
「罠。ついてる?」
《ないよー、とれたよー。あけてあけてー、とってとってー》
「罠……。ない。……なにか、入って……、いるって。」
ぼくはみんなにそう報告した。
「いつも思うんだけど。レムルって、なんか本当に話しているみたいにするのね」
アルテミスがそう言った。
うん。本当に話しているんだけどね。
ぼくが〝物〟と話せるということを、いつか皆に話そう。
話すこと自体は問題ないんだけど、話す行為のほうが、問題あるっていうか……。
「お。おい。レムル。はやくそれ開けてくれよ」
ロウガが言う。さっきはどすどすと、罠があるかもしれない部屋に入っていったのに、こんどはなにか、びくびくとしている。
「罠。ないよ。」
「な。ないのかっ。じゃ。じゃあ。開けてくれっ」
《あけてあけてー、とってとってー》
ロウガと、あと宝箱さんからも言われた。
宝箱さんの生きがいって、たぶん、宝物を入れたり出したりすること。
誰かに開けてもらうのは、嬉しいことなのかな。
「開ける。よ。」
みんなに言ってから、宝箱を開ける。
ぎいい、と、蓋が開いていって――。そこにあったのは――。
「なんだよ。木の根っこかよ」
「根っこ……ですよね。これ」
「違うわよ。これは……、たぶん……、杖!」
ねじれた木の根っこに見えたが、アルテミスが言うには、それは魔法使いの杖らしい。
「ちぇっ。なんだよ。魔法使い用かよー」
「ロウガさん。そこ。喜ぶところ。アルテミスちゃんが使えるし」
「俺。使えねーし」
「ねえ。私。これ鑑定していい?」
宝箱の中の杖には手を触れず、アルテミスがそう言った。
「できんの? おまえ? このあいだは覚えてないって……?」
「だから覚えてきたの。ギルドで教えてもらったの。賢者のマスターに師事して――って、小さい子なんだけど。コモーリンちゃんっていって、小さくて可愛い子なんだけど。でも知識と腕前はすごいの」
「おまえのお師さんの名前とかどーでもいいけど。――で、鑑定できんの?」
「できるわよ。するわよ」
アルテミスが魔法を唱える。
いま持っているほうの普通の杖をかざして、目を閉じて集中する。手にした杖と、宝箱の中の杖と、二つが、ぼんやりと輝いて――。
「……わかったわ。この杖の銘は〝ウッドフォーク〟。軽い魔法のかかった杖で――。普通の杖より殴ったときのダメージが――って、これはどうでもいいか。殴らないし」
「殴るだろ。俺のこと」
「攻撃の魔法が掛かっているわ。コマンドワードを唱えると、私が魔法で使っているのと同じ、小さな火の玉が飛び出して――って、えっ? うそっ? 何回でも使えるの? MPを使わずに? えっ!! なにそのチートアイテム!」
アルテミスが目をぱちくりとしている。
ぼくはその横顔を見ていた。睫毛長いなぁ、とか。そんなことを思ったりしていた。
杖だから、当然、魔法使い用。つまりアルテミス用。
「うわー。よかったねー。アルテミスちゃん」
「ちぇっ、ちぇーっ……。拳士用アイテム、ぜんぜん、出ねーじゃん」
ノノとロウガが、喜んでいたり悔しがっていたりする。
ぼくは二人に比べると、ぜんぜん平静。
宝箱からなにが出ても、剣ちゃんと盾ちゃんを手放すつもりなんてないので、浮き沈みする理由が、あんまりない。
ぼくたちは三階の宝箱から、魔法の杖を手に入れた。
手に入れた杖は、アルテミスは「チートアイテム」などと言ってますが、ドラクエでいうと戦闘中に使えば「メラ」が撃てる杖あたり。
序盤はMP節約できて便利でも、そのうち、使わなくなりますなー。





