step.3「剣ちゃんと盾ちゃんを買う」
「オバちゃん! オバちゃん! お金お金お金お金! どこにあったっけ! どれだけあったっけ!」
《なんだいなんだい、どうしたんだい? オバちゃん、オカネ? とかゆーのは、よく知らないよ。ぼうやが大事にしてる、キラキラしたちっちゃい丸いやつなら、寝床の下にしまってあるんじゃないのかい?》
「そうだった!」
ぼくは寝床をひっぺがした。
「ないよ!」
「床石の下だろ。自分でしまっといて忘れるのかね。この子は」
「あったよ!」
銀貨が出てきた。十数とちょっと。でも二十枚には足りない。
「足りない!」
《ちょっとちょっと。さっきからいったいなにを騒いでいるんだい?》
ぼくはオバちゃんに説明した。
帰る途中、話のできる剣と盾と出会ったこと。二人は銀貨20枚なこと。
《オバちゃん、その〝かう〟? とかゆーのは、ちょっとよくわからないけど。その子たちをうちに迎え入れるためには、その銀色の丸いのが、20枚、いるわけだね?》
「そうなんだ! でもどうしよう! 足りない! あと何枚かないと!」
ぼくは焦っていた。
オバちゃんの葡萄酒は1日に革袋一つ分。それが銀貨1枚で売れる。だからあと数日は待たないと、銀貨20枚は貯まらない。
その数日のあいだに、あの二人が売れてしまったらどうしよう!
《ある銀色の丸いやつ、葡萄酒でもらえるんだったよね?》
「そうだけど」
でもオバちゃんは、1日、革袋一杯分の葡萄酒しか生み出せなくて……。
《どれ。オバちゃん。ちょっと頑張ってみるかね》
「できるの!?」
《ああ。頑張ってみるさね。うちに嫁にくる娘たちのためらしいしね》
「よ、嫁……って! そんなんじゃないから! ただ話ができる子たちっていうだけで――」
《でも女の子たちなんだろ?》
「ええっ? ど、どうなんだろ? ――わかんないよ! そんなこと!」
〝物〟に性別があるなんて、考えたこともなかった。
でもそういや、オバちゃんは〝オバちゃん〟で……、つまり女性だった。
ぼくにとっては、そこはどうでもよかった。〝人〟でなければいい。そこだけがまさに重要なのだった。
◇
オバちゃんは〝頑張って〟くれた。
葡萄酒が樽の中にだいぶ貯まった。
ぼくは革袋を酒場に運んで走った。店のマスターが余っていた器をくれて、途中から運べる料が増えた。
ぼくは銀貨の20枚を握りしめて、古物屋に飛びこんでいった。
「……! こ……! こ……」
「いらっしゃい」
「こ、これ……! ……これ!」
いっぱい、しゃべった。何文字分もしゃべった。
「これください!」までは言えなかったけど、なんとか意思は通じたっぽい。
差し出された手に、銀貨20枚をのせる。
商人は何度も枚数を数えた。そして1枚ずつ、しっかり表裏を確認した。本物の銀貨か確かめるみたいに。――確かめているんだろう。
そして、言った。
「まいど」
《ちょっとちょっと! もうちょっとゆっくり走りなさいって!》
《落とさないでくださいねーっ!》
ぼくは剣と盾を抱きかかえて、部屋へと走った。





