step.35「ゴブリン狩りの人たちと」
「いやー、すまんかった」
二階に戻って――。
体の大きな戦士の人が、つるっとした頭を撫でながら、そう言った。
「すまないじゃないですよおぉぉ!! 轢き殺されてたらどうするんですかあぁぁ!!」
「あんな――ゴブリンがあんなにたくさんでっ! 俺ッ!! 俺びっくりして!! 死んだふりもできなくてっ!!」
「あああああ!! シロちゃんシロちゃんがいないです!! どうしよう!! どうしよう!!」
戦士の人は落ちついているのに、みんなは大騒ぎ。
みんながあまりに慌てているので――ぼくは皆のおでこに〝ちょっぷ〟を入れて回った。
特に大騒ぎしていたノノには――。
「シロ……は。還った。」
シロちゃんはトレイン? とかいうのに轢かれちゃったわけだけど、ダメージ受けたら還るだけだよね。
「はっ。そうでした」
ぼくたちが落ち着いたのをみて、大きな戦士の人が、にかっと笑う。
「いやぁ。すまんすまん」
戦士の人がまた謝ってくれた。最初に走ってきたときと合わせて、もうこれで三回目。
トレイン? ――とかいうのは、ようするに、モンスターを引き連れて逃げてくることを言うみたい。
「ゴブリン狩りに来たんだが。さすがに数が多くてな。一旦、退却をしようと思ったんだ」
「ごめんねー。人が来てるとは思ってなくてー。このところ三階で他の人に会ってなかったもんだからー」
こんどは盗賊なのかな? 髪が短くて、動きやすそうな格好をした、活発そうな女の子が、そう謝ってくれるた。
もうこれで謝ってもらうのは四回目。
盗賊の子だけぼくらと同じぐらいの年齢。他の人たちはもっと年上。すくなくとも二十歳は越えているように見える。
「ま、まあ……。なにもなかったですし。うまく逃げてこられましたから。……大丈夫です。はい」
アルテミスが言っている。
「さっきシロがどうとか言ってたが?」
「あっ。シロちゃんは召喚した子です。だいじょうぶです。また明日になれば呼び出せますし」
「巻き添えで消しちゃったんだな。すまんすまん」
「お詫びというわけでもないんだけど。三階のマップ。――提供するわよ」
盗賊の子がそう言ってくれた。
それはかなり嬉しい申し出だった。
三階のマップはギルドにもなかった。一から知らない階に赴くより、色々知っておいて行くほうが、安全だし安心だし。
もともと未踏の地だから三階に行こうとしたわけだけど、もう先に行っている人がいるなら、教えてもらったほうがいい。
「今回の三階は、こんな感じよ」
マップを見せてもらえた。こっちの人はマップは紙に書いている。
ぼくは端から書き写していった。
「ヘー。盾の内側に書いてんの。便利ねえ。――ガイル。あんたも見習って盾に書いたら?」
「はっはっは。そういう細かいことは、おまえに任せるよ。――盾ないし」
大きな戦士の人の武器は、大きな両刃の斧だった。
大きな戦士の人の体格でも、両手でないと振るえないぐらいの大きさがある。
すごい威力がありそう。
「ゴブリンは、ここと、ここの部屋にいた。最初の二つの部屋にいたのは始末したんだが、宝箱の部屋で警報を鳴らしちまってなぁ」
警報ってなんだろう?
「あたしのせいじゃないわよ。罠の解除中にお尻なんて触ってくるから、手元が狂っちゃって――」
「じいさん。セクハラは、やめ。――な?」
「老い先短いジジイの楽しみを奪うつもりか」
おじいさんの魔法使いが言う。
「もともとゴブリン狩りに来ていたわけですから、わざわざ宝箱を開けなくてもよかったのではないですか?」
長い髪の女僧侶さんが言う。
「いやぁ。盗賊の血が騒ぐっていうかぁ。なぜ宝箱を開けるのか! なぜならそこに宝箱があるからだ! ――って、言わない? ねえ言わない?」
盗賊の子が、ぼくらに話を振ってくる。
宝箱を見つけると、わー、きゃー、ひゃー、と喜んでいるぼくたちは、こくこくこくこくと、4つのうなずきを返した。
「じゃっ! あたし――こっちの子たちと行くからー」
「待て待て待て待て。盗賊に移籍されると困る」
なんか? 移籍? とかいう話にいきなりなって、戦士の人が引き留めている。
「だって盗賊、いらないんでしょー?」
「宝箱はともかく罠は俺たちじゃ手に負えん」
大きな戦士の人が、盗賊の子を、がっしりと掴まえる。
「こいつが変なこと言ってるが、気にせんでくれ」
「あーほら、腕がおっぱい、あたってる」
「いまも変なことを言ってるが、気にせんでくれ」
ぼくたちは曖昧にうなずいた。
他のパーティの〝ノリ〟には、どうもついていけない。
「そろそろゴブリンも階段近辺から引きあげた頃だろう。俺たちは下に戻る。経験値稼ぎに来てたんで、ゴブリンを狩っていく予定だ。――君たちはどうする?」
ぼくらは顔を見合わせる。目線で会話をしたあと、三階のマップを皆で指差した。
三階の探索だ。
「そうか。健闘を祈る。俺たちは未踏破側に行く。探索済みのところの、三つ目の部屋にある宝箱は、もう罠も作動して残ってないし、俺らはあんまり用がないから、よければ、開けていってくれ」
「うおー! 太っ腹ーっ!」
ロウガが歓声をあげる。恥ずかしいから、やめようね?
装備とバックパックを床から持ちあげて、彼らは移動をはじめた。
階段を下りてゆく。
「じゃあね~♡」
盗賊の子が、手を自分の口にあててから、ぼくらに向けて投げてくるみたいな仕草をした。
ロウガは真っ赤になってる。――なんで?
「痛えええ! ――なぜ足を踏む!」
「なんとなく。レムル……、は、踏む必要ないのね」
「さすがです。レムルさん」
アルテミスとノノに言われる。なにが「さすが」なんだろう?
ぼくたちは彼らが下りていってから、しばらく待って――。
それから階段を下りていった。
色々あったけど、仕切り直しで――。
三階の攻略開始!





