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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act6 迷宮第三層 ゴブリンの洗礼

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step.34「ダンジョン三階へ」

「さて。ここが三階に下りる階段だけど……」


 家を買ってから二日後。

 ぼくたちはダンジョンの二階に来ていた。


 ダンジョンに来る前に、冒険者ギルドに顔を出したら、本日分の最新マップをもらえた。

 このあいだリセットされたばかりの二階は、もうけっこう探索済みとなっていて――。これはぼくらの他にも、二階を探索しているグループがいるということだ。


 三階に下りるための階段も、もう地図には記されていた。

 ここまで迷うことなくやってこれた。

 この階段を下りていった先の三階のマップは、ギルドにもまだ来ていないということで、もらえなかった。


 ということは。まだ誰も行っていないということ。

 一階と二階は、もうほとんど探察済みとなっている。

 そして三階は、まったくの手つかず……。


 そろそろ三階に行ってみようか? ――などと話していたぼくたちは、これを機会として、三階に行ってみることにした。


 ……したのだが。


「な、なんか怖いわよね」

「は、はじめてですしね」

「なーに怖がってんだ! これだから女は――」

「ロウガ。あんたはいま世界の全女性を敵に回した。――〝女だから〟とかいうんだったら、じゃあ貴方、先頭でいいわよね?」

「え? あ? 俺は……、うん! しんがりを守らないとなっ! いちばん後ろでいいや!」

「柔らか拳士の柔らかかったのは、装甲だけじゃなかったのね。メンタルも柔らかかったのね」

「ロウガさん……。無理しないでいいんですよ」


 ノノのいたわりが、いちばん効いたみたい。

 ロウガって、よく口が災いになってるよねー。あんまり喋らなければいいのにー。ぼくみたいに。


「じゃ、ぼく……、先、いくよ?」

「おねがいね。レムル」

「おねがいします。レムルさん」


《なにが出るのか、たのしみねー! あるじっ!》

《なにが出てきても、お守りします。あるじさま》


 剣ちゃんと盾ちゃんも、そう言ってくれる。

 ぼくは右手と左手――剣ちゃんと盾ちゃんを握る手に力をこめた。


 ぼくを先頭にして、階段を下りてゆく。ダンジョンの階段というのは、なにか不思議な力が働いていて、階を分ける結界の働きをしているのだとか、なんだとか。

 モンスターは階を越えては移動しないのだとか。


 降りて行く途中の、ちょうど真ん中あたりで、なにか不思議な感覚を覚える。

 頭からなにかの膜に突っこんで、抜けてゆくみたいな……。


 そこを抜けきると、空気の質があきらかに変わった。

 二階まではのんびりした感じがあったのだけど、三階はぴりぴりした感じを肌に覚える。


 階段を下りきって、通路に出た。

 一本道がまっすぐに続いている。


「三階……、到達、だけど」

「三階、ですけど……」

「三階だな……」


 いつものぼくたちなら、わー、きゃー、ひゃー、うおー、とか声をあげているところなんだけど。

 でも三階の空気は、なんだかいつもと違う感じで……。いつものノリでやれずにいた。


「俺。なんかこれ。覚えがあるぞ」


 ロウガがぽつりと言う。


「なに? なんなの? いきなり?」

「この感じ。俺。知ってる。……師匠と組手をやったときのことだ」


 通路の奥に目を凝らしながら、ロウガは話す。

 ダンジョン三階はすごく薄暗い。


 灯りの完備していた一階――。

 灯りはまばらだったけど不自由はしなかった二階――。

 そしてこの三階では、ついにほとんど灯りがなくなった。


 松明っていうのを持ってきてるし、途中、魔法の燭台を一個手に入れたので、


 印のついていない燭台は、戦利品として持ち帰っていいものとなっている。

 高く買い取ってもらえないし、荷物になるから、あまり持ち帰る人はいないそうだけど……。〝消えない灯り〟として使うには、すごく便利。


 アルテミスがごそごそと、荷物の中から燭台を取り出しにかかる。

 それを床に置いて灯りを確保したあとで、こんどは松明を取り出して、火打ち石で、カチ、カチとかやって、火を熾しはじめる。


「魔法でやったほうが早いんじゃないのか? おまえ、火を出せるだろ?」

「MPがもったいないでしょ。――あ。ほら、ついた」


 松明が配られる。

 はじめて使った。松明はずっと持ち歩いていたけど、今日、はじめて使った。


「しかもそのときの師匠がな……」


 ロウガは中断していた話を再開させた。


「まだ続くの? その話?」

「そのときの師匠は、本気モードで……、俺を殺しにくるつもりで……」


 松明の揺れる炎に下から照らされるロウガの顔は、なんだか死体みたいで……すごい怖い。


「俺はそのとき、〝死んだふり〟に開眼したんだ。そうでなかったら、本当に死んでたかもしれないな……」

「はいはい。柔らか拳士列伝は、もう、いいから。怖い話大会なんて、こんなところではじめなくたっていいでしょ?」

「ばか。俺が行ってんのは、ここの空気が、それっていうことだよ」

「どれよ?」

「だから、本気で殺しにかかってきているときの……」


 と、ロウガは通路の先に目をやった。

 暗い通路はずっと先まで続いている。灯りをつけはしたが、見える範囲は何十歩程度。その先は闇。

 その闇の中に、なにかが潜んでいる気がしてならない。


「あの闇の中に、冒険者絶対殺すマンが潜んでいる。俺たちに殺気を向けてきている」

「ば、ばかね。そんなこと、あるわけないでしょう」

「あるわけないわけないだろ。だってモンスターって、そういうもんだろ?」

「そ、そうだけど……」


 ぼくたちはまだモンスターらしいモンスターと戦ったことがない。

 アルマジロン……はあれ動物だし。

 サーベルバニーは……、一応はモンスターなんだけど、なんか動物っぽかったし。


「こ、このへんだと……、な、なにが出るのかしら……?」

「しおり読め。カス」

「カスは余計。……読むけど」


 アルテミスは冒険者のしおりを取り出し、燭台を引き寄せて、ページを照らした。


「……えっと。ゴブリン、オーク、など。あと巨大イモムシのワームだとか……」

「イモムシ、おいしいですよねー」

「えっ?」


 皆の目が、一瞬、ノノに集まった。

 だがすぐに、皆は、「なかった」ように目を離して、話に戻った。


「あとは、歩くキノコとか? キラー・スパイダーだとか……」


《腕が鳴るわねー。モンスターなら斬っちゃっていーんでしょ?》

《ああ……。あるじさま。おまもりします。おまもりします》


 戦いの予感に、剣ちゃんと盾ちゃんは喜んでいる。

 ぼくは正直、緊張していた。

 ワームとかキノコとか巨大スパイダーとか、そういう相手を想定して、いろいろ練習してきたけども、うまく戦えるだろうか……?


 そしていま出てきたなかでも、いちばん強いのが、ゴブリンなどの人型モンスターだろう。

 人型モンスターは、人間と同じように武器を使ってくる。防具も着けていたりする。そして人間ほどではないけれど、言葉を話すぐらいの知恵を持っていたりする。

 ダンジョンの中に生まれてしばらく経つと、群れができあがってしまって、手の付けられなくなってしまうこともあると聞く。ゴブリンは一匹ずつではそれほど強くないが、大勢で群れを作って、統制が取られると小さな軍隊みたいになるそうだ。

 そうしたときには、一パーティで相手をするのはもはや不可能になるので……。

 ギルドが招集をかけて、〝強襲レイド〟をかけることもあるという。

 またゴブリンだけを専門に狩る、高レベル冒険者を呼ぶこともあるそうだ。

 ゴブリンのいるところなら、どこへでも現れ、たった一人でゴブリン軍団を壊滅させてゆくその人のことを、人は〝ゴブリン・スレイヤー〟と呼ぶ。


「ゴブリンって……、一匹倒すと、(ゴールド)がけっこうドロップするそうよね」


 これまでの雑魚(といってもぼくらには手強かったけど)と違って、ゴブリンあたりからは、一匹倒すと、数十Gぐらいのドロップが得られる。


「と、とにかく……、進もうぜ……」

「そ、そうよね……」

「シロちゃん離れちゃだめよ」


 皆、腰が引けている。

 ノノなんて、もうシロちゃんを喚びだしている。


《行こー! 行こー! ゴーゴー!》

《わくわくしますわー。おまもりしますわー》


 それに比べて、剣ちゃんと盾ちゃんは、俄然、乗り気だ。


 ぼく自信はどちらとも違っている感じ。

 みんなのようにビビって固くなってしまっているわけでもないし。剣ちゃん盾ちゃんみたいにイケイケムードで盛り上がってもいないし。


 一人、皆の誰とも違う心境で、立っていた。


 そのぼくだから聞こえたのかもしれない。なんか遠くから、音が聞こえているような……?

 その音は、だんだんと、こちらに近づいているような……?


「ね……、レムル? 早く進みましょう? 貴方が先頭なんだから……」

「しっ。」


 アルテミスを黙らせて、ぼくは音に耳を澄ます。


 うん……。聞き間違いじゃない。たしかに聞こえる。

 この音は……。


「ね? なにか聞こえない?」

「聞こえるな。なんだろ?」

「なんでしょうか?」


 みんなにも聞こえてきたようだ。


「……足音? ずいぶん急いでいる感じ? 大人数ね?」

「鎧がガチャガチャ鳴ってる音も聞こえてこないか?」

「なんかモンスターの声も聞こえてきませんか?」


「ねえこれ? ぜんぶあわせると、つまり、どういうことになるわけ?」

「なんだおまえ。そんなこともわからないのかよ」


 ロウガが言う。


「大人数の冒険者が、モンスターに追われて、こっちに走ってるってことだろ?」

「と……、いうことは……?」


 シロちゃんが咆えはじめる。一本道の奥に向かって、ワンワンと咆え猛る。


「――こっちに来るうぅぅぅーっ!?」


 ここは一本道なのだった。

 ということは、モンスターに追われた冒険者たちは、必ずこっちに向かってくるということだ。


 一本道の奥に、なにかが見えた。


 ――と思ったら、ほとんど猶予もなく、それは一気に迫ってきた。


「――すまあぁぁぁん! トレインだーっ!」


 先頭を走る戦士がそう叫ぶ。

 とれいん? なんだろ? 引き連れてきたモンスターの名前?


「わっ、わっ、わっ――どどど、どうしたらっ!」

「わっ! わっ! わわっ! モンスター! ゴブリンだろっ! あれがゴブリンなんだろっ!」

「ししし――シロちゃん! あぶないから下がって!」


 みんなは混乱している。ノノなんて召喚狼のシロちゃんを下がらせている。

 そのあいだにも、ゴブリンの群れを引き連れたモンスターの一団は、どんどんとこちらに迫ってきている。


「レレレ――レムルっ! どうしようどうしようどうしたらっ!?」

「おいレムルどうすんだおいっ!?」

「レムルさん! レムルさん! レムルさあぁぁぁん!?」


 どうするもなにも。一本道だし。あんな数だし。

 ゴブリンっていったいどのくらい強いのか、戦ったことがないから、よくわかんないし。

 仮にすっごく弱かったのだとしても、あんな何匹もいたら勝てるはずないし。


 どう考えても、逃げるしかないと思うんだよね。


「逃げて。」


 ぼくは皆にそう言った。

 皆に手を振って階段を指差す。階段を下りてきてすぐだから、見えるところに階段がある。

 皆は階段に向けて走って行った。


 そして自分は、盾ちゃんを構えて、その場に残った。


《あれーっ? あたしの出番はーっ?》


 剣ちゃんの出番は、いまはない。


「すまねえーっ! トレインは数匹くらいだーっ!」

「行って――。」


 ぼくは階段の入口近くまで交代しつつ、駆けてきた戦士の男性にそう言った。


「すまん!」


 戦士が抜けてゆく。

 その後ろには、まだ何人か続いている。


「ごめんねっ!」


 盗賊の女の人が駆け抜けて行って――。


「申し訳ございません!」


 僧侶の女の人が走って行って――。


 魔法使いのおじいさんが、はぁはぁ、ひいひい、言いながら――走っているとはちょっと言えない感じで、こっちに向かってきていた。


 ゴブリンの姿も見えるようになってきている。追いつかれてしまいそう。


 ぼくはすこし前に出た。

 すぐに逃げられるように階段からは離れずに、すこしでも前に出ておく。


「わ――わしを置いてゆくなあぁ……、ひいひい」


 おじいさんがぼくの隣を抜けるのと、ゴブリンがやってくるのは、ほとんど同時だった。


 ぼくは両手で構えた盾で、ゴブリンを押し返した。

 攻撃なんてするつもりはない。本当に単なる時間稼ぎ。


 体当たりをする勢いで、盾をぶつけにいくと、ゴブリンは転んだ。後ろからやってきた数匹が引っかかって転ぶ。


《あるじさま――いまのうちに!》


 うん。わかってる。

 ぼくは階段に逃げこんだ。


 階段を途中まで駆け上がってゆくと――。空気の質が変わった。

 ぴりぴりとした三階の感じがなくなって、のんびりとした二階の感じにとってかわられる。


 ゴブリンたちは途中まで追ってきていたようだが……。階の境界を越えてはやってこなかった。


 やっぱり、あの話は本当だった。

 モンスターは階を越えてはこないのだ。


 階段を上りきって二階に到着すると、皆がいた。

 さっき逃げてきていたパーティの人たちも4人ほどいた。

 みんな床に座りこんで、ひいひい、はぁはぁ、と荒い息をついていた。


 ぼくたちはダンジョンの三階でゴブリンに遭遇して、二階へと逃げ帰ってきた。

 さて。これからどうしようか……?

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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