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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act5 迷宮第二層へ

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step.31「押しちゃいけなさそうなスイッチ」

 今日も朝から、ぼくたちは二階の探索に来ていた。


「よーし! 来たぞ! さあ今日はどうしようか! ――おいっちに! おいっちに!」


 ロウガが準備体操をやっている。体がすごく柔らかいよね。ロウガって。さすが拳士。


「東方面は昨日新しく探索済みが増えているのよね。そっちの冒険者さんたちは、その先に進みそうな感じだから、私たちは昨日の続きで西に行ったほうがいいんじゃないかしら」


 ダンジョンに行く前にギルドに寄って聞いてみたら、他にも二階を探索しているパーティはいるもよう。

 ぼくらと違う方面に進んだ地図が、だいぶ出来上がっていた。それをもらって、自分たちの地図に合体させた。

 攻略済みの地域が急に大きくなった。なんだかちょっと嬉しい。


 本当はマップというものは、無料でもらえるものではないそうだ。

 冒険者同士で交渉して、マップの売り買い(あるいは同面積で等価交換)をするものなのだそうだ。

 なんかすごくプロっぽい。

 しかし三階までの浅い階層に限っては、初心者向け特別サービスということで、ギルドがマップを買い上げてくれる。

 そしてギルドが買い上げたマップは、皆に無料で配られて共有される。


 ぼくらもそれで、昨日冒険していない部分の地図をもらった。

 アルテミスが言う通り、ぼくらの他に一組か二組の冒険者がいるっぽい。


 誰かの探索済みとなった範囲は、隠し部屋でもないかぎり、わざわざ回る必要はない。

 モンスターはリポップしているかもしれないけど、宝箱の中身は、当然空になっているわけで……。


「冒険者の仕事って、基本的に宝箱探しになるのね……。私、冒険者になる前には、もっと派手な仕事だと思ってた」

「マップも大事ですよー。高く売れますよー」

「ああうん。そうね。ノノ。三階を卒業するまではね」

「薬草収集よか、宝箱探しのほうがいいじゃんか。開けるとき、ドキドキするじゃん?」

「そうだけど」


 単に開けてなにが入っているかのほうでドキドキするわけだけど。

 普通は別な意味でドキドキするのかもしれない。宝箱に罠があるのかないのか? 罠の種類を間違えたら? 罠を解除しようとして、誤って作動させてしまったら?


「ああ、そうか。わかった! 熱い戦闘がお望みだな! 俺と同じだな! ――アチョー!」


 ロウガが空中にキックを出す。


《ロウガ、あたしたちと同じねー!》

《ねー》


 剣ちゃんと盾ちゃんが意気投合する。

 まあ二人はそのために存在しているわけだしね。ぼくも戦闘は本当は好きじゃないけど、剣ちゃんと盾ちゃんのために、ぼくは冒険者をやっているわけで、どっちかっていうと、そっち側。


「お望みじゃないし。戦闘はできれば避けたいと思っているし。てゆうか。あんたは戦闘はじまるとすぐ死んでるし」

「死んでないって。死んだふりだって。だがお師匠クラスになると、本当に死ぬんだけどな」

「なによそれ。本当に死んだら意味ないでしょ」

「いやだから、本当に死んでる死んだふりだとか。致命傷の一撃を食らう瞬間だけ死んでおいてノーダメージにするとか。色々応用がきくんだぞ。そしてうちの拳法の奥義は〝無想転生〟っていって、あらゆる攻撃を無効にする――」

「はいはい。進みましょ。進みましょ」


 アルテミスが手をぱんぱんと叩いて、ロウガの拳法談義はおしまい。

 皆で迷宮を進んでゆく。


 いつものフォーメーションで、ぼくが先頭。女の子二人が真ん中。いちばん最後がロウガという順だ。


 いくつかの部屋を開ける。宝箱は部屋に必ずあるとは限らない。モンスターもいなくて、宝箱もない空き部屋は、休憩に使うとよいらしいが、ぼくたちはそもそも休憩時には街に帰っているので、あまり用もない。


 通路を歩いていても、モンスターには出くわさない。

 〝大絶滅〟の影響は続いていて、マップはリセットされても、モンスターはやっぱり少ないみたい。


 特に何事も起きず、マップが埋まってゆく。

 途中、通路に罠が一個二個あっただけ。例によって罠さんたちが教えてくれたので、避けて通った。

 そして「罠」と、マップに書きこんだ。


 ぼくたちの探索していた西方面のマップが、だいたい埋まる。

 いま進んでいる道が、しばらく先で行き止まりになっているだけで――。それを確認したら、西方面は完了。


「この突き当たりで終わりね。……あら? あれはなに?」


 アルテミスの見ているものが、ぼくたちにも、すぐにわかった。


「なんだこれ? ……ボタンか?」

「ボタンみたいですねー」


 まわりの壁と違う、色のついたボタンがあった。

 黄色と黒の縞々で縁取られていて、ボタン本体は真っ赤だった。


「な……、なんか……、押したらイケナイ感じのするボタンよね……?」

「押したらいけない感じがするから、押したくなったりするのかもしんねーけど。でも押したらまずそうだよな……?」

「これ絶対押したらダメなやつですよう」


 ――と、皆は口々に言いつつ、なぜだか、僕を見る。


 あれ? なんでぼくを見てくるの?

 みんなが押したらダメって言うなら、ぼくは押したりしないけど?


「ほ、ほらっ、レムル……。いつものアレ、やってみてくれない?」

「……?」

「ほら。いつものアレだよ。アレ」

「……? ……?」

「レムルさん。いつものアレですよう。いつものルーティーン」

「……? ……? ……?」


《聞け、って言ってるんじゃないの? あるじ?》


 あー。あー。あー。なるほど。

 剣ちゃんの説明で、ようやくわかった。


 そだね。聞いたほうが早いね。


「君はなんのスイッチですか?」


 ぼくは聞いてみた。


「あははは。聞いてる聞いてるー!」

「しいっ、静かにロウガさん。レムルさんが集中できないですよ」


《もどるスイッチー》

「もどる? なににもどるの?」

《もどるとー、わすれるからー、おぼえてないのー。でももどるスイッチだよー》


 〝アイテム〟は嘘はつかない。隠し事なんかもしない。そこが人と違うところ。

 だからこの、謎のスイッチさん? の言うことは、その通りの意味で……。


 つまり本人にもよくわかっていないということだ。


「えと……、もどる……、スイッチで……」


 ぼくは聞き出したことの説明を試みた。

 なんで〝アイテム〟と話すときと同じように、みんなと話せないのかな。そのうち話せるようになるのかな。もどかしいな。


 しばらく試行錯誤をして、ようやく伝わる。


「ええと。つまり――〝もどるスイッチ〟ということはわかったけど、なにがもどるのかわからないってことね?」


 アルテミスの言葉に、ぼくはこくこくとうなずいた。


「入口に戻るってことなんじゃねーの? だったら楽でいいなーっ!」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。うかつに押すわけにはいかないわよ」

「ええと……、なら……、食べちゃった薬草が戻ってくるとかっ?」

「おいノノ。おまえまた薬草食っちまったのかよ?」

「おやつにちょっと……。でもすこしだけだよ? 使う分はちゃんと残してあるよっ?」


「とにかく、このスイッチがなんなのか……。押してみないことには……。わからないわけよね」


 アルテミスが言う。皆はうなずく。


「じゃあ……、多数決にする?」

「いや多数決になんてしないで、押してみよーぜ」

「ちょっとね? あんたね。ロウガ? 勝手なことしないでよね」

「だって多数決なんか取ったら、おまえたち女は、ぜってー、押さないほうに投票するだろ? 俺は知ってる。〝多数決〟っていうのは数の暴力なんだ。セクハラはやめましょう、なんて、吊し上げくらうんだ。俺はいつもそっちの側だ」

「いやセクハラはやめなさいよ」

「あ。わたし。押すほうに入れるから、だいじょうぶですよ。ロウガさん」

「おおっ! ノノおまえ! えらい! 心にチンチンついているなっ!」


 ロウガの褒め言葉に、ノノはものすご~く嫌な目を向けて返した。


「ロウガさん。……それセクハラです」


「私。押さない。ぜーったい、押さない。……レムルは?」

「レムル、おまえは、絶対押すよな? チンチンついてるんだから、絶対だよな?」


 それとこれとは関係ないと思うんだけど。


「どうしよう……?


 ぼくは剣ちゃん盾ちゃんを、右手と左手に持って話しかけた。

 ひとりごとっぽく、問いかけてみた。


《うん? なによあるじ? あたしたちに聞いてんの?》

《わたしたちのことは気にせず、あるじさまが決めていいんですよー》


 剣ちゃん盾ちゃんはそう言った。


《あたしたちはどっちでもいいけど。でもあのスイッチ君。せっかくだから使ってあげたほうがいいんじゃないの? 押されるために生まれてきて、押されなかったら、可哀想だしー》

《それもそうかもしれませんわね》


 なるほど。

 二人の意見はとても参考になった。


 ぼくは皆に顔を向けると――。


「……押そう」


「はいはい。じゃあ三対一の多数決で、押すことに決まりね」

「なんだよ? もっとキーキー言うのかと思った」


 ロウガがアルテミスを見て、意外そうに言う。


「そっちこそ私のこと誤解していない? 決まったことに文句を言ったりはしないわよ」


 全員で集まる。

 罠とかでないことはわかっているが、なにが起きるかわからないから、皆で固まっておいた。


「じゃ……、押す……、よ?」

「いいわよ」

「いいぜ!」

「いいですよー」


 ……押した。

 ぽちっとな。


 その途端、なにか周囲の光景に変化が――。

 起きたような気が、たしかにしたんだけど――。

 それは目の錯覚か、単なる目眩だったのか――。


 押すまえと、押すあととで、まわりはなにも変わっていなかった。


「なに……も、起きない……ね?」

「起きなかったわね」

「なにが戻ったってゆーんだ?」

「なんでしょうね?」


《ばいばーい、ボタンくーん!》

《さようなら》

《ばいばーい》


 剣ちゃんと盾ちゃんが、ボタン君にバイバイしている。


 ぼくたちは皆で連れだって、行き止まりの通路から引き返した。

 最初のT字路まで戻ってきたところで――。


「あれ? ここT字路だったはずよね?」

「T字路……、だったよな?」

「T字路でしたよね?」


 皆で立ち止まる。

 十字路になっていた。


 慌てて盾ちゃんの裏に書きこんだマップを見る。たしかにT字路で書かれている。


 だが目の前にあるのは十字路で――。

 その先には、扉とたぶん部屋が見えていて――。

 マップには、そんなもの、ぜんぜん書かれていなかった。


「えっ? えっえっ? ……どういうこと?」

「頭のいいおまえにわからないことが、俺にわかるわけがないだろう」

「あんたなんかに聞いてないわよ」

「どういうとこなんでしょう?」


 皆の顔がぼくに向くけど、ぼくにだってわかるはずがない。


 ひとつわかることは、これまでに書いてきたマップと、いまのダンジョンの形とが、ぜんぜん違うものになっているということで……。


「とにかく……、脱出しましょう。外に出てから考えればいいわよね」


 アルテミスの言葉に皆でうなずく。

 ぼくたちはダンジョンの外に向かった。


    ◇


「やっと出られた……」


 ダンジョンから外に出れたときには、皆で、大きく息をついた。

 結局、結構な新規マップを書くはめになった。

 階段の位置も変わっていた。ようやく階段を見つけて一階に戻れても、その一階の配置も新規になっていたので、またマップを作りながら出口に向かった。


    ◇


「それは大変でしたねぇ……」


 ギルドについて、エミリィさんに報告をすると、まず同情してもらえた。


「だけど……、変ですねえ。ダンジョンはこのあいだリセットしたばかりですし。そんなすぐにリセットするはずはないんですが……」


「でもリセットしましたよ」

「したよな」

「しましたよー」


「そうすると、やはり皆さんが押したというボタンのせいでしょうか? ……同様の〝謎のボタン〟の報告は、これまでにも何度か受けてはいるんですけど。押したらどうなるのか、ということについては、これまで誰も試したことがなくって……」


「え? なんで押さないんですか?」

「いえ。普通押さないでしょう。意味のわからないボタンとか」


 アルテミスが聞く。エミリィさんが答える。


「あ……、あははははー……。そ、そうですよねー。うちも止めたんですよ? 私は止めたんですけど。でもみんなで多数決を取ってみたら、押すことになっちゃって……」


「ともかく、皆さんのおかげで、これまで謎だったボタンの効果が判明しました。ありがとうございます。ところで、どなたか絵心ある人はいらっしゃいますか? ボタンの詳細な絵を描いていただけると……。全ギルドに通達しますので」

「ええっ!? 全ギルド!?」


 皆がびっくりした声をあげている。

 ぼくはメモ用紙にペンで、ボタンの絵を描いていた。

 書き書き……。


「ええ。もちろん。世紀の大発見ですから。あの押しちゃイケナイ感じのボタンは、ななな!? なんと!? ダンジョンのリセットスイッチだった!? ――って大ニュースになりますよ」

「えええええーっ!? わた――私たちそんなニュースだとか有名人だとか!」


 ここのところの模様。どうだったっけ?

 ねえ? アルテミス。覚えてないかな?


「そんな無理です無理です! 見つけたことは内緒でお願いします!」


 アルテミスは忙しいらしい。ロウガに聞こう。

 ねえねえロウガ?


「馬鹿いえよ! 俺たちが見つけたんだぞ! そうだ俺たちがあのボタンに名前をつけよう!」


 ロウガも忙しいらしい。ノノに聞こう。


「ああそうですそうです。発見者で名前が通達されるなら、二つ名とか、考えないとぉ……。〝千の草のノノ〟――って、これどうですか? どうですか? どう思いますか?」


 ノノも二つ名? とかいうのを考えるので忙しいらしい。

 でも二つ名? とかいうのって、自分で付けるんじゃなかったような……? よく知らないけど。


 ぼくはボタンの絵を描いた。


 黄色と黒の警戒色の縁取りのなかにある、真っ赤なボタン――。

 いかにも押しちゃイケナイ感じの、そのボタンを描いた。


 φ(._.)カキカキ

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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