step.29「さっそく宝箱」
「さあ。ここから先が未踏破領域よ」
ぼくたちは迷宮第二層にいた。
ここまで通ってきた道が、マップのあるところ。ここから先はマップのないところ。
マップにもある通り、下に下りる階段が、通路の脇に見えている。
「ここに階段があったせいで、誰もこの先に行かなかったわけね」
多くの冒険者は、三階に直行してゆくみたい。
冒険者のしおりにマップが載っているのがその階まで。宝箱の中身は階が増えてゆくしたがって良くなってゆく。だから初級冒険者は三階を目指す。
でもぼくらは初級者でない初心者だから、この先に広がる二階の未踏破領域に用がある。
「二階の地図は、一階よりも高く売れるらしいわよ」
アルテミスが言う。
ぼくはマッパー。ていうか、盾ちゃんがマッパー。
このあいだマップを転写したときに気づいたんだけど。それができるなら、べつにぼくが書かなくてもいいんだよね。盾ちゃんに書いてもらえばよかったわけだ。
ぼくたちは初級者でさえない初心者なので、地図だって、大事な収入源。
「マップおねがいね。レムル」
「おねがいしまーす」
「たのんだぞー」
《頼まれましたわ》
盾ちゃんが答える。でもみんなには聞こえていない。ちょっとおかしい。
盾ちゃんとみんなが話せたらいいのに。
「笑ってる? レムル」
「ここから先って。入るの。わたしたちがはじめてなんですよね……」
「おまえ。肝っ玉、太てえなぁ。俺なんか怖いぞー」
「死んだふりしていてもいいわよ。置いてくから」
「うちのパーティの女がいちばん怖ええー」
みんなも笑った。
ぼくが笑っていたのは違う理由だったけど。
みんなも緊張が解けてくれてよかった。
《なんか斬っていいやつ出てくるかしら? 楽しみねっ! あるじ!》
剣ちゃんは楽しみにしている。
このあいだ盗賊の人の腕を斬っちゃったときも上機嫌だったけど。今日も上機嫌。
剣ちゃんはたぶん、斬れればなんでもいい感じ。
たとえばぼくが人殺しの殺人鬼とかでも、ニコニコしているんじゃないかと思う。
そうならないように、剣ちゃんが斬っちゃいけないものを斬らないように、ぼくがしっかりしていないとならないと思う。
《さあ行きましょう。あるじさま。お守りします》
「……行く、よ」
「行きましょう!」
「はーい!」
「おー!」
ぼくたちは、二階の未踏破領域に踏みこんだ。
◇
「うおーっ! 宝箱ーっ! はっけーん!」
「あっばか! ロウガ! いきなり入ったら!」
最初に見つけた部屋には、開けられていない宝箱があった。
ロウガが飛びこんじゃって、そしたら床から、じゃきーん! と、何本もの槍が飛び出してきて――。
「ぐああああぁ!」
ロウガがばたりと倒れた。
「ロウガ!」
「ロウガさん!」
アルテミスとノノが駆け寄る。
ぼくはドアを閉じてから、近づいた。部屋の中に注意を向けて、皆の後ろを守っている。
「ロウガ! しっかりして! ちょっと! どこやられたの!? ケガはどこ!?」「ロウガさん! 死んじゃだめです! 死んじゃやだ! うわあぁ――ん!」
アルテミスとノノは、ロウガを助け起こしている。
《あたった? あたった?》《くしざしー?》《ぷすってなったー?》《なった? なったー?》
《だめよー。ロウガを突き刺しちゃー》
床の仕掛け罠さんたちを、剣ちゃんがたしなめている。罠さんたちは、とても楽しそう。
このあいだも思ったけど、罠さんたちって、すごく楽しそうだよねー。
「ロウガ! ロウガ! ケガはどこ!? ナナ! ポーション! ポーション!」
「はっ――はいっ!」
「あ。ポーションいらないから」
アルテミスの膝の上で揺すられていたロウガは、ぱっちりと目を開いた。
「俺。感激だぜ。俺って人気者だったんだな。おまえらそんなに俺が好きなら、俺のカノジョにしてやってもいい――痛っ! 痛てええええっ!! なにすんだーっ!」
最後の悲鳴は、ロウガの頭をアルテミスが叩いたからだ。
「ケガしてないなら倒れんなーっ!!」
「ロウガさん! ロウガさん生きてた!! よかった! うわ~あぁぁん!」
「奥義・死んだふり回避だ!」
「そこ! 死んだふり必要!? いらないよね!? 普通に避ければいいだけだよね!?」
「ばか。必要だ。うちの師匠ぐらいになるとな、本当に当たったのを〝なかったこと〟にできるんだぞ? すげえんだぞ?」
へー。そんなことできるんだー。すごいなー。
「すごくもないロウガは、いまのべつに当たってもいなかったわよね?」
「おまえさ。心配したなら心配したって言っていいんだぞ? そしたら俺、おまえの胸で、その巨乳で泣いてやるから」
「なに言ってるのかまるで意味わかんない」
《ざんねーん》《ざんねんだねー》《つぎをまとうー》《まとうねー》
床の槍が、出てきたときと同じ速度で、しゃきん、と引っこんだ。
槍が引っこんだ床は、他の床とあまり違いがあるように見えない。小さな穴が並んでいるが、遠くて薄暗かったら、見分けられるかどうか……。
でも串刺し床は、どんなものかわかったから、次からは気をつけよう。
ちなみにぼくは、槍がロウガに刺さっていないことに、最初から気がついていた。
だからアルテミスやノノみたいに慌てたりしなかった。
彼女たちに言えばよかったんだけど……。言うの、苦手だから……。
部屋にあるのは、宝箱とテーブルと燭台。
壁に額縁はかかっているけど、絵は入っていなくて、キャンバス? とかいう布地が張られているだけ。
この部屋はおそらくここ一週間かそこらで新しく生まれたもので、部屋に置かれているものは、誰かが置いたわけではなく、発生したときからこの形であったんだ――とか思うと、なんだか不思議な感じがする。
「さーて♪ 宝箱っ♪ 宝箱っ♪」
ロウガが歌ってる。スキップしてる。
「そうやって宝箱に駆け寄って串刺しになっちゃえばいいのよ」
「ばーか。この俺様が二度同じ手に引っかかるかよ。――レムル。他に罠はないのか?」
一回引っかかれば充分だと思うんだけど。
「ほかに罠のひとー、いますかー?」
ぼくは聞いてみた。
そして待つ。待ってみる……。待ってみた……。
《どくばりー》
宝箱のところから、返事が返ってきた。
「罠……、宝箱の、ところまで……、ない。宝箱の罠……、は、どくばり……」
ぼくはみんなにそう報告した。
「すげえ!? 手も触れずに調べやがった!?」
「なんか……、いつ見てもすごいわよね。レムルのそれ……。どうやっているのか、わからないけど……」
「レムルさんすごーい! すごいすごーい!」
みんなから褒められる。
「レムルは手を触れずに宝箱を調べる技を覚えた! レムルはレベルがあがった!」
いや。あがってないから。
遠くの宝箱さんから、たまたま返事が返ってきただけだから。
宝箱の罠は毒針だったので、例によって、あの方法で開ける。
皆で宝箱の後ろ側に回って、箱を開ける。
《びよ~ん!》
飛び出していった毒針は、空中をぴょーんと飛んでいって……。
串刺し床の上に、ぽとりと落ちた。
じゃっきん! と、また槍が飛び出してくる。
《なったー?》《くしざしー?》《なったなったー?》
《はずれだよー。ぼく。どくばりー》
《どくばりをー》《くしざしー》
《くしざしにー、されたー》
罠さんたちは、楽しそう。
さて。宝箱の中身は……。
「あっ――!? これってもしかして!?」
宝箱に入っていたのは、紙をくるくると丸めたもの。
蝋で封印してあった巻物を、アルテミスは広げて――。
「やっぱり! 魔法のスクロールだったーっ!?」
「スクロール? それ魔法のなにかか?」
「ねー、なにー? なにー?」
「………」
アルテミスの返事はない。ただの夢中の魔法使いのようだ。
魔法少女は、ぺたんと床の上に座りこんで、巻物を読みふけっている。
「毒の霧……? 取得Lv1。必要職:元素系魔法または生成系魔法。必要ステータス、知性:17。……ふむふむ」
皆で横から覗きこんでいるが、ぼくらにはなんて書いてあるのかわからない。
そもそもぼくは文字が読めないわけだけど。普通の街で見かける文字とは、違う文字で書かれていることだけはわかる。
きっと魔法使いだけが読める特別な文字なんだろう。
「私……、これ、覚えられるかも……?」
「え? そうなん?」
「よかったねー! アルテミスちゃん!」
「ありがとう! ……はぁ。〝賢者〟って、覚えられる呪文は多いんだけど。でもかわりに自動で覚えられる呪文は少なくて……。助かったわー」
「おまえのそれ、ほんと、〝賢者〟でなくて〝プチ賢者〟だなー」
「……やめてくれない? ……やわらか拳士」
「おまえその〝やわらか拳士〟っていうのやめろよなー。俺だってすこしは傷つくんだぜ?」
「〝プチ賢者〟って言って私が傷つくことをあんたが理解したなら、やめてあげてもいい。――やわらか拳士」
「ところでよ? そのスクロール? とかゆーの? 使っちまうのもったいなくね? ――それって、売ったらすげえ高いんじゃねえの?」
ロウガの言葉に、アルテミスが、ぎろり、と目を向ける。
「じゃあロウガ。拳士用の武器とか防具とか出たら、あなた、売るわけね?」
「ばかを言えー。俺が使うに決まってんだろ」
「じゃあ、決まりよね」
「あー、そっかー……。そうなるのか」
わかってなかったんだね。ロウガ。
自分の言ってることが、自分の身に返ってきたら、どうなるのかって、ロウガはいつも考えてないっぽい。
そのへんがすごくロウガっぽい。
「ずっりー、ずっりー。おまえだけ、ずるいなぁ」
「ロウガさん。おめでとー、って言ってあげなきゃだめですよぅ」
これがロウガとノノの違うところ。
ノノは人の幸運を素直に「よかったですぅ」と喜べる娘。
ロウガは「ずっりー」と言うほう。ただし心の中で思うだけでなくて、口に出して言ってしまえる漢のほう。
「ぜんぜんずるくなんてないわよ。運よ。運よ」
「じゃあ、おまえだけ運がよくて、ずっりー」
「なら日頃の行いで」
「??? 日頃の行いだったら、俺が当たってるはずだろ?」
「忘れてたわ……。あんたはそういうやつだったわよね」
「はっはっは。ようやくわかったか」
「ちがう。あんたの日頃の行いが良いっていう都市伝説じゃなくて……。まあいいわ」
アルテミスは眉間を揉んでいる。眉間に寄ったしわしわを伸ばしている。
ロウガは「勝ぁーちぃー」っていう顔をしている。ロウガは幸せそうでいいなぁ。
「レムルはどう思う?」
「レムルさんはどう思います?」
アルテミスとノノの二人に聞かれた。
ぼくはいきなり巻きこまれてしまった。
「えと……、その……、ぼくは……」
しろどもどろになっていても、みんなは僕の答えを待ってくれている。トモダチっていいなぁ。
「アルテミス……、おめでと」
「ありがとう」
アルテミスは、にっこりと笑った。
◇
たらりらったー♪ らったー♪
ぼくたちは宝箱から「魔法のスクロール」を手に入れた!
アルテミスがあたらしい呪文を覚えた!
次の更新は5/27。
これから3日ごとの更新となりまーす。





