step.22「戦利品を換金する」
夜道を急いで、街へと戻った。
冒険者ギルドはわりと夜までやっている。昼は遅いかわりに、夜は遅くまでやっている。
その窓口受付時間のギリギリのところに、ぼくたちは滑りこむことに成功した。
「あら。お帰りなさいませ~。どうでした? はじめての冒険は?」
いつもニコニコ笑顔のエミリィさんに、こっちは、ぐいっ――と、指でサインを作って返す。
Vサインが2名。親指を立てたサインが1名。なんか親指の位置の間違ったサインが1名。
「怪我もなく帰ってきてくれて、それがなによりですよ。私たち。いつも心配しているんですよ。担当の冒険者の方々が、帰ってくるかって、いつも心配で……」
「モンスター。出ませんでしたから」
「あら、そうでした?」
「いや出たろ? 最後のあれが――」
「どっちなんです?」
「アルマジロンが出たんですよう」
アルテミスが言い、ロウガが反論し、ノノが言う。
ぼくは主に聞いてる係。話すのはみんなに任せる。
「アルマジロン? ……それ単なる動物ですよね? なんでダンジョンに?」
「え? モンスターじゃねえの?」
「だから言ったでしょう。動物だって。もう忘れてんの?
「いや? 強かっただろ? すげえ手こずったろ? 俺たち? だからあれはモンスターだろ?」
「だから動物だって」
モンスターと動物の違いは……。
冒険者のしおりに、書いてある。
まず一般的に、普通の動物よりも、モンスターのほうが強い。
もちろん動物のなかにも、強いものはあって――。最強クラスのモンスターとタイマンを張れるぐらいの強い動物も、いることはいる。
だがあくまでも動物は動物だ。
動物とモンスターの区別は、明確にあるのだ。
モンスターという存在は、世界の歪みが生み出すもので――。通常の生物とはいくつかの違いを持っている。
なにもないところに、突然、発生することがある。
ゴブリンみたいに繁殖して増えるものもあるけど、全滅させて封鎖していたダンジョンでも増えていたこともあるそうで、やはり、どこかから発生してくるのだそうだ。
モンスターは凶暴だ。人や動物を見境なく襲う。
よって冒険者の仕事の多くの部分は、モンスター退治となる。
モンスターを倒したときには、〝ドロップ〟と呼ばれる現象が起きる。
コインやアイテムが落ちるのだ。
Gが、最近、主要通貨になってきているのも、そのせいだ。冒険者が集めてきた「G」と書かれたコインが、旧来のお金――銀貨に取って代わろうとする勢いだ。
また、モンスターを倒すと、ぼくたちは〝経験値〟を得る。
ぼくら自身には実感はないけど、冒険者ギルドの測定器で測ると数字になって出てくる。
すごい上級の職には、経験値やLvやステータスなんかを調べるスキル? とかいうのもあるらしいけど、それはぼくら初心者冒険者には、関係のない話だろう。
経験値が貯まると――Lvアップするらしい。Lvアップなんてしたことがないから、どんなんだかわからないが、しおりによれば、ステータスが上がったり、新しいスキルを覚えたり、自動的に覚えないまでも習得できる条件が整ったり――色々と、いいとこがあるらしい。
ちなみに動物を倒した場合には、そういうのは、一切ない。
肉や毛皮やツノやツメが手に入るだけだ。
だから冒険者は、あまり動物とは戦わない。モンスターのほうが、はるかに〝おいしい〟からだ。
だけど、〝単なる動物〟とされたアルマジロンも、けっこう、手強かったんだけど……。
「モンスターがいないって……。まったくもうっ……。まーたオリオンさんたちが大絶滅させてたのかしら……。まったくもうっ、困るなぁ。いい男だったら、なんでもしていいってわけじゃないのよね……」
エミリィさんは、ぶつぶつと言っている。
ぼくらの視線に気がつくと――。ぱっとスマイルがその顔に戻った。
「ああ! はいはい! モンスターと出会っていないなら、換金アイテムは、なにもないですね――って、ありますか? どれ?」
ぼくたちは、魔法の燭台と、あと、宝箱から見つけた例の謎の防具? ――を、カウンターに載せた。
「あら。めずらしい。ビキニアーマーですね」
「びきに? アーマー?」
「主に女戦士の方が身につける防具ですよ。――ファッションで」
「これって防御力高いんですか?」
アルテミスがちょっと期待した声で聞く。
「ふふふっ。あなたたちも女の子ならわかりますよね? ファッションっていうのは――我慢です!」
「あ。はい。わかりました」
アルテミスとノノは、わかったっぽい。
ロウガとぼくは、よくわかんない。
アルテミスがしょんぼりとなっているので、それでだいたいわかったけど。
「防御力が高いわけではないので、あまり高くは売れないんですよ。初冒険おめでとう! のお祝いを込みで、500Gってところですね」
「500!」
しょんぼりとなっていたアルテミスが、目をまんまるにして驚いている。
Gで言われると、ぼくはよくわからなかったので……。
銀貨のほうで換算することにする。
ええと……。1Gは、だいたい銀貨1枚だから……。
……え?
銀貨500枚~~っ!?
「あとマークなしの燭台と、宝箱が出たってことは、新規領域を探索してきたのではないですか? マップがあったら、それも買い取れますよ」
「えっ? マップって売れるんですか?」
アルテミスがまた驚いている。ぼくも驚いている。
「ええ。割と高く買い取らせていただています。下層はそれぞれの冒険者さんたちの自由交渉にお任せてしていますが、上層の三階まではギルドで買い上げますよ。冒険者のしおりにも地図が載っていたでしょう?」
そのしおりのマップが、ぜんぜん違っていて、役に立たなかったんだけど……。
はっ!? ……ということは、ぼくらのマップは、高く売れるのだろうか!?
なんにも戦果がないって思っていたけど。
筆記用具を借りる。
ぼくたちはロビーの片隅で、盾ちゃんの裏に書いたマップを、手分けして書き写した。
掃除のおじさんがモップを持って、ぼくらの足を、ごつんごつん、と襲ってきていたが、ぼくらは気にせずマップを書き写した。
「あらら……。ぜんぶ再構築されちゃったんですね。……やっぱり大絶滅のせいかしら? 淘汰圧がかかって、ダンジョンも進化してる? ……ああいえ。こちらの話で。それでは、一階全域の新規マップということで、1000G。お支払いします」
「1000!?」
アルテミスが目を見開いている。
さっき500と言われたときの、ちょうど二倍ぐらい、目を大きく見開いている。
なにかおかしかったのか。エミリィはくすくすと笑っていた。
1500Gの詰まった革袋を手に、冒険者ギルドを出たぼくたちは、しばらくふらふらと、現実感のないまま――歩いていた。
地に足がついてない感じ。
出かける前には、薬草採集をやって、1日に70Gとか言っていた。
(剣ちゃん盾ちゃん。……1500Gって、70Gの何倍?)
ぼくはこっそり聞いてみた。
《わかるわけないでしょ。そんなの》
《21日分とすこしになりますよ。あるじさま》
盾ちゃんすごい。頭いい。剣ちゃんだめだった。
「これで21日分も暮らせる……」
ぼくが盾ちゃんから答えをもらったあとで、アルテミスもそう言った。Gの入った袋を胸にぎゅっと抱えこんで、そんなことをつぶやいている。
アルテミスも計算できるんだ。あったまいー。
「すごいねー。すごいねー。すごいねー」
「これでもう薬草摘みしなくていいのね……」
「いや薬草摘みはしようよ。あれ楽しいよー?」
「おい。持ち逃げすんなよ」
「するわけないでしょ。あなたが私をどう見ているのか、わかったわ」
「すまん言い間違えた。スラれるなよ。――大金なんだから」
「えっ。うそ。やだ。……ちょっとロウガ。持っててくれない?」
「俺。いまけっこう。じーんときた。……俺。けっこう信頼されてたんだな」
「そりゃ仲間だし。持ち逃げする度胸と甲斐性なんてあるわけないし。ロウガだし」
「褒めてんのか、けなしてんのか、どっちかにしてくれよ」
みんな、笑っている。
お金ってすごいなー。みんな、こんなに笑顔になるんだ。
「今日はお祝い? お祝いするーっ?」
「ああごめんなさい。今日は宿に帰ってぐっすり寝たいわ。……あとお風呂入りたい」
「俺も……、ぐっすり寝たい」
「疲れが取れる葉っぱ、あるよ? 食べる?」
アルテミスとロウガは疲れた顔。さっきまで興奮していたけど、なんだか急に疲れが出た感じ。
ノノは葉っぱを、もっしゃもっしゃ食べている。
ぼくもなんだか急に疲れてきた。いつもならそろそろ寝る時間。
「じゃ……、ぼく……、こっち」
分かれ道がきた。宿に戻るみんなと、部屋に戻るぼくとで、方向が違う。
「レムル。明日。いつもの店でね」
「レムルくーん。よい眠りをー」
「また明日な! レムル!
手を振って別れた。
ロウガはぶんぶん腕を振る。
女の子たちが、指先だけ振ってくるのって、あれ、カワイイな。
ぼくの「はじめての冒険」は、こうして終わった。
Act3 はじめての冒険編、終了~。
街での生活に戻ります。





