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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act3 ぼくと仲間のこじんまりとした冒険
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step.20「リムルアース迷宮⑤ ~宝箱があったけど~」

 がちゃり。

 扉を開けて中に入る。

 鍵がかかっていないことも、罠がついていないことも、すでに確認済み。


 部屋の中は――わりと、がらんとしていた。


「なにもないの? ……いや、待って」


 部屋の隅のほうに木箱があった。

 あれってひょっとして〝宝箱〟とかいうもの?


 そしてまるで宝箱を守るかのように、そのまえにうずくまる、ずんぐりとした――。

 なにかの生き物がいた。


 ゴブリンとか? コボルトとか? 大蜘蛛とか?

 しおりに書かれていたモンスターの数々をぼくは思い浮かべた。……のだけど、なんか、どれとも一致しない。

 モンスターっていうより、単なる大きい動物?


「あれ。アルマジロンっていう動物ですよ」


 ノノが言う。

 モンスターじゃなかった。単なる動物だった。


「動物? モンスターじゃないの? なんでダンジョンに? ――それって、どういう生態?」


 ノノは動物が得意らしい。薬草も得意だから、野外生活一般が得意なのかもしれない。

 そのノノが言うには――。


「ええと。アルマジロンは、体は大きいんですけど。気性はわりと穏やかで……。脅かしたりしなければ、襲ってきたりはしません。でもナワバリ意識は強いので、巣を襲われたときには、死に物狂いで戦うこともあります」

「え? じゃあここって、巣、っていうことなんじゃ……?」

「そうなりますね。ちょっとすぐに出てみましょう。それで外で作戦を――」

「なんだモンスターじゃないのかー! おい! こら! こいやー! かかってこいやー! 動物なら怖くないぞ! オラァ!」

「ちょ――バカ! 話聞いてたの!? 刺激するな!」


 アルマジロンは、ロウガの大声で、びくっとなった。

 そしてこっちに気がついたのか、こちらに頭を向け、低いうなり声をあげて威嚇しはじめた。


「ちょ――、ちょ――! ちょ――! ノノっ! あれなだめられない? 手懐けられない? テイマーって、動物と仲良しのジョブよねっ!?」

「テイマーはお友達になった動物さんを喚べるのであって、お友達になるところに関しては自力なんですけどー」

「じゃあ、自力でやって! お友達になって!」

「すっかり怒っちゃってますよう。だめですよう」


「おら! こいやー! かかってこいやー! うちのパーティのタンクが相手だーっ!」


 ロウガが、ぼくをすいっと前に押し出す。


 ぼくは盾を構えた。剣も構えた。

 いつもの構えになると、すうっと心が落ち着いてゆく。


 アルマジロンが体を丸めた。一抱えほどもある、巨大なボールとなって、こちらに向けてゴロゴロと――。


「うわわわわわわ!」

「きゃああぁーっ!」

「きた! きたきた! きたあぁーーっ!」


 後ろで皆が叫んでる。大騒ぎになってる。


 しかしぼくは落ち着いていた。

 これまでの練習の通りに、まったく同じ動作で、剣を――。


 剣を振った。……んだけど、すかっと、空振りをした。


 あれれ?


 ぼくは自分よりも大きい相手を想定して、練習をしていた。

 アルマジロンは一抱えほどもある大きいボールだけど、その高さはは、ぼくの腰よりも低くて――。


 ぼくが剣を振ったところには、なにもなかった。


 だめだった。

 練習通りに体は動いたけど。……練習通りにしか動けなかった。


 ぼくは転がってくるボールに跳ね飛ばされて、壁に叩け付けられた。


「ぎゃー! ぎゃー!」

「うわこっちくんなーっ!」

「アルテミスちゃん! 魔法! 魔法使って! やっつけてー!」

「そっちこそシロちゃん喚びなさいよ! 魔法は時間がかかるんだからっ!」


 アルマジロンは、壁で反射して、縦横無尽に部屋の中を転がり回る。

 みんなは轢かれないように逃げ回るばかり。

 チームワークはめちゃくちゃだ。


「――シロちゃん! お願い助けてッ!」


 ノノの呼びかけに呼応して、空間に魔方陣が開く。

 わおーん! ――と、勇猛な鳴き声とともに、仔オオカミが出現した。


「わう! わうわうわうっ!」


 仔オオカミは、ノノを守ろうとして――すかさずアルマジロンに飛びかかった。

 ――だが。


「きゃうん! きゃうん!」


 跳ねとばされた。ぜんぜんダメだった。大きさがそもそも違った。仔オオカミは子犬サイズだった。


「ぐわあああ! やられたあぁぁーっ!」


 ロウガが倒れた。アルマジロンに当たってもいないのに、なんでか、死んだ。

 ばったりと倒れる。


 ぼくは起き上がった。背中を壁に押しあてて、なんとか立ち上がろうとしている。


《あるじ! はやく立ってはやく!》

《あるじさま! つぎは受け止めますから!》


 剣ちゃんと盾ちゃんに励まされて、ぼくはなんとか、剣と盾とを持ちあげて構えた。


 ごろごろと壁で跳ね返っていたアルマジロに向けて、アルテミスが樫の木の杖を掲げ、なにか呪文? を唱えている。


 魔法使いが魔法を使うところを、はじめて見た。

 足が完全に止まって動けなくなることも、はじめて知った。目も半眼に閉じちゃっているから周りも見えていないのかも?


 アルマジロンはその無防備のアルテミスに迫ろうとしていた。


「やあっ! やあっ! やあっ! ――お願い当たってーっ!」


 ノノが部屋の隅で弓を構えて、矢を連射している。

 5本のうちの3本は外れて、2本だけ当たるけど、アルマジロンの装甲は固くて、刺さりもしないで矢は跳ね返っただけ。


「ぼくが守る!」


 ぼくは飛び出した。

 剣を命中させることはできないけど――アルテミスがなにかするまで、守るだけなら!


 盾ちゃんを構えて、アルテミスの前に飛び出した。


 回転して迫る巨大なボールを、がっしりと受け止める。

 すごい衝撃がきた。


《あるじさま! 踏ん張って!》


 足腰に力を込める。踏ん張る。

 踏ん張ったその足ごと、ずずずっ! ――と滑って、何メートルも押されてゆく。


 だけどアルマジロンの大回転を、なんとか止めた。


「よし油断したな! くらえ! 俺の必殺キック! そしてキック! もっとキック!」


 死んでたはずのロウガが、アルマジロンに攻撃している。

 キックを連発。


 ちょ! ちょ! ちょ! こっちに押すの、だめだからーっ!


「――炎熱の魔神アーネストよ、灼熱の王姫よ、我の求めに応じ、我が敵を焼き滅ぼさん……」


 ぼくの稼いだ時間で、アルテミスは呪文を完成させる。


「――炎弾ファイアスプレッドっ!!」


 杖の先から炎の塊が撃ち出された。

 アルマジロンに命中する――。

 矢も通さなかった装甲だけど、炎はさすがに効いたようで――。


「ブモオオオオオ――!」


 アルマジロンは大きな声で鳴いた。

 これまで無言で転がり回っていたのに、こんなに大きな鳴き声で鳴くとは思わなかった。


 そして――。


 転がるのをやめて、普通に走って、ダッシュして――。開けたままのドアから、走って逃げていった。


「あ。……逃げた」

「逃げちゃいましたね……」

「はっはっは! 逃げたぜ!」

「……」


 皆がそれぞれ、ぽつりと洩らす。

 ちなみに、アルテミス、ノノ、ロウガ、そしてぼく。


《えっ? あれっ? おわりー? あたしの出番はーっ?》

《あるじさまをお守りできました……。はふう》


 そして剣ちゃんと盾ちゃん。

 盾ちゃんは満足してるけど、剣ちゃんは不満ぎみ。だって剣は一回も当たっていない。


「えっと……? これ? 戦闘……、終了……、ってことで、いいの?」


 アルテミスがぼんやりと言った。

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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