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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act2 冒険者……になんて、なれっこない

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step.12「適性検査」

 能力測定とかで測った数値? ――が、カードに記入される。

 それを持って、ぼくはギルドホールの地下にある大きな部屋に連れて行かれた。


 四方をタイマツに照らされた石舞台の上で、こわ~い顔の男の人が、金属鎧に全身を包んで、立っていた。

 大きな戦斧を石の床に立て、その柄の先に両手を載せている。


 なにか魔神像みたいに見えるが、きちんと人間だ。


 その手前で、案内をしてくれた受付嬢の女の子が、紙を見ながらぼくに言う。


「えーと、レムルさんの適性は、戦士、となりました。特に希望がなければ、このまま戦士の試験を受けていただくことになります。……といっても、レムルさんの場合、魔法使いや神官や盗賊の適性はありませんでしたので、戦士でなければ、冒険者を諦めていただくことになりますけど……? 戦士でよろしいですか?」


 ぼくは、こくこく、とうなずいた。

 女の子も慣れてきたのか、イエスかノーで答えられる質問にしてくれるようになっていた。


「それでは、こちらのゴリアテ試験官と戦っていただきます。時間は、試験官が、よし、というまで。レムルさんの力を見させていただきます。試験官はもちろん手加減をしますが、怪我したりすることもあります。打ちどころが悪ければ死ぬようなこともあるかもしれません。――なので、開始の前に、誓約をしていただきます。私のあとに、同じ文句を口に出して言ってもらえますか? ……だいじょうぶですか?」


 女の子は、そこまで一気にしゃべってから、ぼくの返事を待った。

 ぼくは、苦労して、言葉を喉から出した。


「……、です」

「です?」

「だ……、だいじょ……、です」

「はい。それでは、私のあとに続いてくださいね」


 女の子は、にっこりと微笑むと、口を開いた。


「我、レムルは――」

「わ、わわっ……、わ、われ……、れ、れ、れ、レルムは――」

「本試験にあたり――」

「ほ、ほん……、ほん、ちけん……」


 噛んだあぁぁぁぁ! 噛んじゃったあぁぁぁ! どうしよう! どうしよう!


「噛んでも平気ですよー。途中から続けてください」


「ほ、ほん、しけんに……、あたり……」

「どんな怪我、障害、あるいは死亡するようなことがあったとしても、不服申し立てを致しません」


 うええええーっ! し、死亡っ!?


「ああ。いちおう念のためです。念のため。ギルド員でしたらなにも問題はないですし、宣誓なんかもいらないんですけど。試験中の方は、まだギルド員ではないですので。念のため、こうして宣誓をしてもらっているんです」


 にこっ。


 受付嬢の女の子は笑っている。その笑顔を信用していいのか……。


《信用して、いいんじゃない? 悪い人じゃなさそうだし。だって笑ってるもん》


 盾ちゃんだめ。すぐに騙されちゃうほう。


《こちらの契約書? とか書いてあるものを読みますと――》


 盾ちゃんは受付嬢の後ろに回っている。後ろ手に持っている契約書を、腰をかがめて下から覗きこんでいる。そこに持っているのは、たぶん、試験を合格して冒険者となったときの書類だろう。

 まだ合格するかわからないから、見せてもらってないわけだ。


《――私が見る分には、まっとうな約束事のように思えます》


 盾ちゃんナイス。

 ぼくは冒険者ギルドを――というより、この女の子を、信用することにした。


「ど、どんな……、け、けが……しても、あるいは……、しぼう、しても、ふふく……は、ないです」


「はい。オッケーです。――まあ実際、いきなり死んじゃうようなことさえなければ、治療できますし。仮にいきなり死んじゃったとしても、いま上に、賢……げふんげふん。すごい魔法を使える人が来ていらっしゃいますから、蘇生させてもらえますよ」


 受付嬢は、にっこり。

 笑顔で怖いことを言う。だけど蘇生? そんな魔法もあるんだ。死んじゃっても生き返らせることもできるんだ。


 ……なんか冒険者って、すごい。

 まあ、ぼくには関係ないだろうけど。死んじゃったら終わりだろうけど。


「エミリィ」

「……はい?」


 受付嬢が、いきなりそんなことを言うので、ぼくは聞き返した。


「わたしの名前。エミリィっていいます。――レムルくん」

「……はい」


 尖った胸の先に付いた名札を示しながら、彼女は言う。

 だから、字、読めないんですってばー……。


「もし冒険者になったら、ご贔屓にー。エミリィです。エミリィ。エリザ……でなくて、エミリィですからね? エミリィ♡」

「……はい」


 何度も何度も名前を繰り返して、念を押される。ぼくはよくわからないまま、うなずき返す。


「じゃ。あとよろしくお願いしますねー。ゴリアテ試験官」

「……む。」


 全身重装備の大きな男性は、顎を1ミリだけ動かして言った。


 かつかつと、受付嬢――エミリィは、ヒールを鳴らしてホールへの階段を上がってゆく。そして気が緩んだのか、こちらにまだ聞こえていると気づかずに、独り言をはじめる。地声はなんだか別人みたい。


『まったくもー、エリザ先輩だけずるいのよ。たまたまその日の当番だったからっていって、オリオンさんの専属になっちゃうんだから……。あとみんなもエリザちゃんエリザちゃんって、受付、先輩だけかっつーの! 私、いるでしょ! 窓口、空いてるでしょ! ったくもう……。あー! いらっしゃいませー♡ 今日はどんなご用ですかぁ♡」


 階段で反響して、よく聞こえてきていた。最後のほうの、営業用の声に戻ったのは、ホールに出て誰かお得意冒険者さんを見つけたときの声。


《あの女の子! 愉快!》

 剣ちゃんが指でさして、喜んでいる。


 ぼくもお得意の冒険者さんになれるといいな。

 まずは、この試験に合格しないと……。


 試験官が、石舞台の上を、すっと指差す。


「……。」


 試験官の人は、大きくてコワい顔をしていたが、無口だった。

 そしてぼくも無口だった。


「……。」


 無口言語同士、通じ合ったっぽい。

 試験官は構えて、ぼくも構える。


《いくよー! やっちゃえー! やっちゃえー!》

《お守りします。あるじさま》


 構える、といったって、ぼくは実際に戦ったことなんてない。


 でも不思議と心は落ち着いていた。

 剣ちゃんを持って、盾ちゃんを持って、いつもの形に立つと、いつもの練習中の心境に自動的になってしまうみたい。


 いつもはなにも考えず、剣を振るっていた。

 コンパクトに、狭いところでも振れるような振り方。

 そして相手を想定して剣を振っていた。相手はちょうど、このくらいの巨漢だった。


 はじめは自分より小さな魔物あたりを見ていた気もするんだけど。

 それだと盾ちゃんが喜んでくれないので、仮想敵はどんどんと大きくなっていって……。

 しまいには、ちょうどこの試験官くらいの大きさで……。


「……む?」


 ぼくは本当になにも考えず、剣を振っていた。

 一回、二回、三回、そうすると、相手から反撃がくる。――それを盾で受けとめる。


 がっ、と、戦斧が打ち下ろされてくる。

 ――重い。

 でも練習で想定していたのと同じ重さ。だから体勢は崩れない。

 そしたら剣を突き出す。コンパクトに振って最速で。


 ――がしん。


 鎧にあたった。弾かれてしまった。

 練習とは違ってしまった。

 なぜなら練習のときの敵は、鎧を着ていなかったからだ。


 あっ、と思ったら、体が止まってしまった。

 練習のときにやっていない動きになると、体はなにも動かなかった。


 動かなきゃ。剣を振らなきゃ。……と思っても、いちど止まった体は動かない。

 まずい。このままだと、試験に落ちちゃう。

 動かなきゃ。とりあえず剣を振らなきゃ。


 動かなきゃ!

 ……と、ぼくは焦っていたのだが。


 でも試験官のほうも動きを止めていた。


「……む。よし」


 試験官が、ぽつりと、そう言った。


 そういえば……?

 たしか……?

 試験官が「よし」と言えば、おわりだったんだっけ。


 こんなに早く終わってしまったということは……。

 つまり……、不合格ってこと……?


「……え、あ、の……。ぼ、ぼく……、ふ、ごうかく……です?」


 ぼくは、つっかえつっかえ、聞いてみた。


「……む。」


 試験官はぼくの書類を持ってくると、そこにサラサラと文字を書きこんだ。そして、ばん、と、大きなハンコを押す。


「……む。エミ……、持て、いく。」

「……はい」


 ハンコに「不合格」とあるのか、それとももしかして「合格」とあるのか、ぼくはわからないまま、一階ロビーへの階段に向かった。

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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