step.12「適性検査」
能力測定とかで測った数値? ――が、カードに記入される。
それを持って、ぼくはギルドホールの地下にある大きな部屋に連れて行かれた。
四方をタイマツに照らされた石舞台の上で、こわ~い顔の男の人が、金属鎧に全身を包んで、立っていた。
大きな戦斧を石の床に立て、その柄の先に両手を載せている。
なにか魔神像みたいに見えるが、きちんと人間だ。
その手前で、案内をしてくれた受付嬢の女の子が、紙を見ながらぼくに言う。
「えーと、レムルさんの適性は、戦士、となりました。特に希望がなければ、このまま戦士の試験を受けていただくことになります。……といっても、レムルさんの場合、魔法使いや神官や盗賊の適性はありませんでしたので、戦士でなければ、冒険者を諦めていただくことになりますけど……? 戦士でよろしいですか?」
ぼくは、こくこく、とうなずいた。
女の子も慣れてきたのか、イエスかノーで答えられる質問にしてくれるようになっていた。
「それでは、こちらのゴリアテ試験官と戦っていただきます。時間は、試験官が、よし、というまで。レムルさんの力を見させていただきます。試験官はもちろん手加減をしますが、怪我したりすることもあります。打ちどころが悪ければ死ぬようなこともあるかもしれません。――なので、開始の前に、誓約をしていただきます。私のあとに、同じ文句を口に出して言ってもらえますか? ……だいじょうぶですか?」
女の子は、そこまで一気にしゃべってから、ぼくの返事を待った。
ぼくは、苦労して、言葉を喉から出した。
「……、です」
「です?」
「だ……、だいじょ……、です」
「はい。それでは、私のあとに続いてくださいね」
女の子は、にっこりと微笑むと、口を開いた。
「我、レムルは――」
「わ、わわっ……、わ、われ……、れ、れ、れ、レルムは――」
「本試験にあたり――」
「ほ、ほん……、ほん、ちけん……」
噛んだあぁぁぁぁ! 噛んじゃったあぁぁぁ! どうしよう! どうしよう!
「噛んでも平気ですよー。途中から続けてください」
「ほ、ほん、しけんに……、あたり……」
「どんな怪我、障害、あるいは死亡するようなことがあったとしても、不服申し立てを致しません」
うええええーっ! し、死亡っ!?
「ああ。いちおう念のためです。念のため。ギルド員でしたらなにも問題はないですし、宣誓なんかもいらないんですけど。試験中の方は、まだギルド員ではないですので。念のため、こうして宣誓をしてもらっているんです」
にこっ。
受付嬢の女の子は笑っている。その笑顔を信用していいのか……。
《信用して、いいんじゃない? 悪い人じゃなさそうだし。だって笑ってるもん》
盾ちゃんだめ。すぐに騙されちゃうほう。
《こちらの契約書? とか書いてあるものを読みますと――》
盾ちゃんは受付嬢の後ろに回っている。後ろ手に持っている契約書を、腰をかがめて下から覗きこんでいる。そこに持っているのは、たぶん、試験を合格して冒険者となったときの書類だろう。
まだ合格するかわからないから、見せてもらってないわけだ。
《――私が見る分には、まっとうな約束事のように思えます》
盾ちゃんナイス。
ぼくは冒険者ギルドを――というより、この女の子を、信用することにした。
「ど、どんな……、け、けが……しても、あるいは……、しぼう、しても、ふふく……は、ないです」
「はい。オッケーです。――まあ実際、いきなり死んじゃうようなことさえなければ、治療できますし。仮にいきなり死んじゃったとしても、いま上に、賢……げふんげふん。すごい魔法を使える人が来ていらっしゃいますから、蘇生させてもらえますよ」
受付嬢は、にっこり。
笑顔で怖いことを言う。だけど蘇生? そんな魔法もあるんだ。死んじゃっても生き返らせることもできるんだ。
……なんか冒険者って、すごい。
まあ、ぼくには関係ないだろうけど。死んじゃったら終わりだろうけど。
「エミリィ」
「……はい?」
受付嬢が、いきなりそんなことを言うので、ぼくは聞き返した。
「わたしの名前。エミリィっていいます。――レムルくん」
「……はい」
尖った胸の先に付いた名札を示しながら、彼女は言う。
だから、字、読めないんですってばー……。
「もし冒険者になったら、ご贔屓にー。エミリィです。エミリィ。エリザ……でなくて、エミリィですからね? エミリィ♡」
「……はい」
何度も何度も名前を繰り返して、念を押される。ぼくはよくわからないまま、うなずき返す。
「じゃ。あとよろしくお願いしますねー。ゴリアテ試験官」
「……む。」
全身重装備の大きな男性は、顎を1ミリだけ動かして言った。
かつかつと、受付嬢――エミリィは、ヒールを鳴らしてホールへの階段を上がってゆく。そして気が緩んだのか、こちらにまだ聞こえていると気づかずに、独り言をはじめる。地声はなんだか別人みたい。
『まったくもー、エリザ先輩だけずるいのよ。たまたまその日の当番だったからっていって、オリオンさんの専属になっちゃうんだから……。あとみんなもエリザちゃんエリザちゃんって、受付、先輩だけかっつーの! 私、いるでしょ! 窓口、空いてるでしょ! ったくもう……。あー! いらっしゃいませー♡ 今日はどんなご用ですかぁ♡」
階段で反響して、よく聞こえてきていた。最後のほうの、営業用の声に戻ったのは、ホールに出て誰かお得意冒険者さんを見つけたときの声。
《あの女の子! 愉快!》
剣ちゃんが指でさして、喜んでいる。
ぼくもお得意の冒険者さんになれるといいな。
まずは、この試験に合格しないと……。
試験官が、石舞台の上を、すっと指差す。
「……。」
試験官の人は、大きくてコワい顔をしていたが、無口だった。
そしてぼくも無口だった。
「……。」
無口言語同士、通じ合ったっぽい。
試験官は構えて、ぼくも構える。
《いくよー! やっちゃえー! やっちゃえー!》
《お守りします。あるじさま》
構える、といったって、ぼくは実際に戦ったことなんてない。
でも不思議と心は落ち着いていた。
剣ちゃんを持って、盾ちゃんを持って、いつもの形に立つと、いつもの練習中の心境に自動的になってしまうみたい。
いつもはなにも考えず、剣を振るっていた。
コンパクトに、狭いところでも振れるような振り方。
そして相手を想定して剣を振っていた。相手はちょうど、このくらいの巨漢だった。
はじめは自分より小さな魔物あたりを見ていた気もするんだけど。
それだと盾ちゃんが喜んでくれないので、仮想敵はどんどんと大きくなっていって……。
しまいには、ちょうどこの試験官くらいの大きさで……。
「……む?」
ぼくは本当になにも考えず、剣を振っていた。
一回、二回、三回、そうすると、相手から反撃がくる。――それを盾で受けとめる。
がっ、と、戦斧が打ち下ろされてくる。
――重い。
でも練習で想定していたのと同じ重さ。だから体勢は崩れない。
そしたら剣を突き出す。コンパクトに振って最速で。
――がしん。
鎧にあたった。弾かれてしまった。
練習とは違ってしまった。
なぜなら練習のときの敵は、鎧を着ていなかったからだ。
あっ、と思ったら、体が止まってしまった。
練習のときにやっていない動きになると、体はなにも動かなかった。
動かなきゃ。剣を振らなきゃ。……と思っても、いちど止まった体は動かない。
まずい。このままだと、試験に落ちちゃう。
動かなきゃ。とりあえず剣を振らなきゃ。
動かなきゃ!
……と、ぼくは焦っていたのだが。
でも試験官のほうも動きを止めていた。
「……む。よし」
試験官が、ぽつりと、そう言った。
そういえば……?
たしか……?
試験官が「よし」と言えば、おわりだったんだっけ。
こんなに早く終わってしまったということは……。
つまり……、不合格ってこと……?
「……え、あ、の……。ぼ、ぼく……、ふ、ごうかく……です?」
ぼくは、つっかえつっかえ、聞いてみた。
「……む。」
試験官はぼくの書類を持ってくると、そこにサラサラと文字を書きこんだ。そして、ばん、と、大きなハンコを押す。
「……む。エミ……、持て、いく。」
「……はい」
ハンコに「不合格」とあるのか、それとももしかして「合格」とあるのか、ぼくはわからないまま、一階ロビーへの階段に向かった。
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