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ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双  作者: 新木伸
Lv1編 Act2 冒険者……になんて、なれっこない
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step.10「剣ちゃん盾ちゃんの、そこはかとない大きな不満」

 夜半――。狭くて小さな、1人+3アイテムの部屋。


《盾ちゃん……、起きてる?》

《ええ。起きてるわよ》


 二人は小さな声で言葉を交わした。


《ねえ。ちょっと話があるんだけど……。ところで、あるじは……、寝てるかな?》

《あるじさまー、あるじさまー? 起きてたら、返事してくださーい?》


 しばらく、待って――。


《……寝てるみたい。返事ないし》

《盾ちゃん。それ本気でやってる?》

《え? だめ? 寝てたら返事してもらったほうがよかったかしらー?》

《あ――ちょっとちょっと! あるじっ! オバさんのコック開いてる。葡萄酒もれてる! たいへんよ、たいへん!》


 しばらく、待って――


《……寝てるわね。だいじょうぶね》

《あるじさま。起きてる間、ずっとわたしたちを使ってくれているから……。すごく疲れているのよ》

《うん。そうよね。……そうなんだよね》

《ねえ。話って、それ? その話?》

《うん。そうなんだけど……》


 剣は言い淀む。普段のハッキリしすぎるほどの物言いは、影を潜めている。


《あるじは、あたしたちのこと、いっぱい使ってくれているよ。だけど……、なんか……》

《ねえ? その話だったら、わたし、しないわよ?》

《盾ちゃんだって! ……盾ちゃんだって、おなじこと、思ってるんじゃないの?》

《それは……》

《どうなのよ? 盾ちゃん?》


《だって……、しかたないわよ。あるじさま。がんばってくれてるのよ? がまんするしか……、ないじゃない……。言えないわよ。毎日こんなに疲れるまでがんばってくれているあるじさまに。言えないわよ。お願いなんてできないわよ》

《あたしだって、そうよ》

《じゃなんで文句言ってるのよ。あなた》


《文句なんて言ってないよ。言ってないけど。……でも、毎日、こうやって振るわれていると、あたしはやっぱり〝剣〟なんだって思う。そう実感する》

《だめ。言わないで。わたしだって……、わかるわよ? わたしだって、あるじさまの腕に持たれて、構えられていると……、ああ、これで本当の攻撃が来たら、それを受け止められたら、あるじさまを守れたら、どんなに――》


《言ってるじゃん》

《剣ちゃんが言わせたんでしょう。わたし。言ってないのに。言うつもりなかったのに》


《本当の攻撃が来るってことは、あるじ、すでに危なくなってるよね? 守るっていうけど、はじめから危ないことしなければいいんだよね。本末転倒ってやつだよね》

《ううう……、剣ちゃんの、いじわる……。剣ちゃんだって、そういうことしたいって思っているくせに。最初に言い出したのは、剣ちゃんでしょう?》


《あたしは、あるじのこと、危ない目になんてあわせないもん。あるじの敵は、あたしがみんなやっつけてやるんだから》

《それどこが違うのよ》


《あたしは、やっつけるんだから、危なくないでしょ? 盾ちゃんのは、危なくならなきゃいけないんでしょ? じゃあ、危ないでしょ?》

《わたしだって、守るんだから、危なくはないわよ?》

《じゃ、危なくないなら、お願いしてみようよ》

《そ、それは……》


 盾が言い淀む。

 自分の言った言葉が、自分で信頼できていないという感じに。

 自分たちの望みは、つまり危険に身を置くことだった。

 それは武器と防具としての〝本能〟だった。

 練習は楽しい。あるじに使ってもらえると幸せ。そう思っていた時期もあった。しかしやはり練習は練習でしかなく、むしろ練習で振るわれることで、自分たちが本当はなにを求めているのか……。

 二人には、わかってしまったのだった。


《言えないよね。あるじに、冒険に出よう、なんて……》

《あるじさま。そういう人じゃないですものね……》


 二人は重いため息をついた。

 その話は、そのまま終わった。


    ◇


 ぼくは二人の会話をずっと聞いていた。

 盗み聞きするつもりなんてまったくなかった。二人がゆっくり話せるように、聞いてないふり、寝ているふりをしようとしていただけだった。


 ぼくは、自分がばかだったことを、痛切に思い知っていた。

 毎日、毎日、剣を振って、盾を構えて。それで二人が幸せでいると思いこんでいた。


 二人はおもちゃの武器防具なんかじゃない。

 〝本物〟の剣と盾なのだった。

 そして〝本物〟というのは、本当に使うためにあるのだ。


 その意味を、ぼくはその晩、ずっと考えていた。一睡もしないで――。

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●書籍情報!

「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」 2巻

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2019/03/25 2巻発売です! 完結できました!
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