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6、銀髪の少女

あれから、私とカルはクリフとアリルに救出され、実質の被害は私達がずぶ濡れになったことぐらいで一件落着した。その後、街に戻るまでの間、クリフに延々と説教を受けていた。私は「いいじゃないですか、カルも助かったことだし」と言うことぐらいしかできず、それを言っても不良生徒並みのガンを飛ばしてくるのでとっても怖い。


ふと、アリルが抱えているカルを見た。泣き疲れているようで静かな寝息を立てて眠っていた。まあ、これを守れたのだから、クリフに怒られることぐらい別にいいかな。カルを見て口元を緩ませていると、そんな幸せな時間に浸かる間もなく「話を聞いているのか!」と怒られる。


アリルは手をゆりかごのように動かしていて、時折優しい笑顔でカルを撫でている。


私はついついその光景を見て言ってしまった。


「女神様?」

「は?」「えっ?」


クリフとアリルが同時に声を出す。そして同時に私の方を向いた。


「女神様?どういうことだ?」

「あ、えーっと、アリルがカルを撫でる姿が女神様みたいに綺麗だから……」


私が遠慮気味にそう言う。アリルは私の言葉に顔を赤くするといつもなら手で隠すだろうが、今はカルを抱えているためそれができない。アリルは私達から顔をそらせて見えないようにしていた。


「そ、そんな………リアにそんなこと言われるなんて……私とっても嬉しいです…………」


あーあ、もう少しあの風景を見ていたかったです。少し、残念。というか、クリフはどうしてさっきからアリルの顔見て見とれてるんですか?やっぱり気があるとか?



そんなこともありながら私達は街へと戻った。











私は家の扉の前で昨日と同じように突っ立っていた。まあ、昨日と違うのは別に外に出るのを怯えてなんかないことです。


私はドアを押して外へ出る。夏も終わりに近づき、秋風が吹いていて心地よかった。道には子供達が走り回っていたり、私と同じように桶を持って洗濯や皿洗いをしに出ている。私はその人達が行く方について行く。残念ながら、私は井戸のある場所が分からない。だから、この人達について行くしかないのだ。


その人達について行くと人だかりができていた。私ぐらいの子供や女性が屈んで洗濯物を洗ったり皿を洗ったりしている。そこには見覚えのある姿が見えた。


昨日と同じボロボロのエプロンに黒髪をおろしている少女。


「アリルー!おはよう」

「あ、リア、おはよう。相変わらずリアはいつどこでも可愛いです」


アリルは似合わないような言葉をサラサラと清々しいように笑顔で言う。それって男性が言ったら絶対にたらしだって思われるよね。というか、アリルは私の言葉に可愛い可愛いって言うけどそんなに可愛いのかな。クリフもアリルの言葉に何も言ってなかったし、周りから見ればそこそこ可愛いのかな。


アリルも洗濯物を洗っている。私は井戸で水を汲んでアリルの横で皿を洗い始めた。


「リア、そいえば昨日は家に帰った後、大丈夫だった?」

「え?はい、別に特に何なかったよ。お母さんに皿洗いをしなかったことは怒られたけど」

「そう………クリフが問答無用で連れ出したって言ってたから、リアのお母さんが心配してないかなって。リアって病み上がりだから」

「大丈夫です。元々、森には言っていいよって許可はもらってたし、カルが行方不明になって子供達が探し回っていることも聞いていたみたいだから。帰ってきた時も予想通りだったみたい」

「そう、あ、そいえば、カルのお母さんがリアにありがとうって。カルは私の家の隣の家だから。今日、ここに来るときに聞いたの」

「はは、私は何もしてないよ。風が運よく吹いただけ………ただの偶然です」


あの後何があったのかやはりクリフとアリルに聞かれた。まさか私も馬鹿正直に魔術で風を起こして湖に落ちるように仕向けましたなんて言わない。足元が崩れたと思ったら、風が急に後ろから吹いて湖の方角に飛ばされて落ちたと言っておいた。


「ふふ、でも、リアには何かの守護がついていたのかもしれません。偶然とはとても思えませんから」

「何かの守護?」

「ええ、昔聞いたことがあるでしょう?森には怪物さんがいて、森を守ってるって話。だから、この街の近くにある森だけはここら一帯は痩せた土地なのにもかかわらず気が生い茂ってるんだって」

「へぇ………でも、本当に怪物なんてものがいるのかな?」


私が元いた世界では魔術は存在していても、怪物とかはやっぱり空想上の生き物でしかなかった。というか、森を守ってくれているのに怪物だなんて変な呼び方ですね。もしいるのなら、会ってみたいですが。


「そうですね………ですけど、私の母が言っていました。この大陸とは違う『海』というものを越えた先に別の大陸があってそこには『エルフ』や『吸血鬼』っていう別の種族が暮らしてるのだと言っていました」


夢見る乙女のように両手を合わせて青い空を見上げている。えっ?この世界にはエルフとか吸血鬼までいるの?流石異世界、ファンタジーな世界です。でも、海を越えるか………こんな貧乏じゃまず海を見ることすら叶わないんだろう。


あ!でも、 エルフがいるってことはこの世界にも魔術っていうものが存在するのかな?聞いてみたいけど何て聞けばいいのかな。こっちの世界で言う魔術をどう言うのか知らないし。


「アリル、そのエルフっていう種族は何ができるの?」

「さぁ、私も詳しくは知らないんです。ごめんなさい。あ、ですが、母からエルフは特別な力が使えると言っていました」

「そうなんだ………ありがとう」


私は笑ってお礼を言う。そっか……その特別な力が魔術なのかもしれない。アリルの話が本当だとしたら、人で魔術を使えることは普通ありえないのかもしれない。だとしたら、やはり人前で魔術を使うことは避けたほうがいい。




「それじゃあ、リア」

「あ、はい、また今度」


アリルは私より一足先に家へと戻って行く。エプロンをしていることもあってか、もうお母さんをしていてもいいんじゃないかという雰囲気を出している。私も皿洗いを終えると家へと戻った。










「さて、これから何しよう?」


家についてお母さんに頼まれていた通り、掃除を一通り終えた私は部屋の真ん中に立ってそう言った。お母さんが病み上がりだという理由から今日は安静にしていなさいとのことだった。どうやら、ここら辺では病気に対する決し方が異常なほどに用心深い。まあ、病院もなければ医者もいない。薬さえ無いのだ。ただの風邪だって悪化して肺炎になって死ぬなんてよくあることなのかもしれない。だからこそ、一度病気にかかったら、できる限りの看病をするのだろう。


私なら治癒魔術で風邪なんかすぐに治せるけど……せっかくの自由な時間だから、この街を見て回ろうかな?


「あ、そうだ……怪物探しにでも行こうかな?いるかもしれないって話だから」


怪物探しなんて、すごく危険な感じしかしませんが、森にも行ってみたい。場所は分かっている。昨日行った屋敷の湖にあった森。あれが子供達のいう森だ。屋敷までの道は覚えているし、ちょっと行って帰ってくるなら構わないと思う。


思い立ったが吉日……私は勢いに任せて家のドアを開けた。










「うわぁ……ひどいなーこれ」


昨日崩れ落ちた部分を見て、私は背筋に冷たいものを感じた。昨日は湖から這い出て、壊れた屋敷なんか見る余裕がなかった。改めて見るとひどい有様だ。ベランダのようになっていた場所が崩れ落ち、そこには飾られていた枯れた花が突き刺さっていた鉢植えが粉々になっていた。こんなのに下敷きにされていたら、どうなっていたか………


ああ、良かった。私が魔術師で。異世界転生二日でゲームオーバーとか絶対に嫌ですから。まあ、でも崩れたお陰で屋敷の出口が塞がってもう中には入れないようになってるから、もう誰も屋敷の中に入ることはないだろう。




…………って、あれ?今、屋敷の中に人影が見えたような気がしたんですけど。気のせいですか?



________いや、見間違いなんかじゃない。いた、二階の昨日、カルがいたベランダの所に。銀色の髪をした青色の目が特徴な女の人。その人と、今、目があった。




「あなた……何してるのっ?そこは危険です。早く屋敷から出てきてくださいっ!」


どうやって入ったのだろうか?入り口は塞がっているはずなのに。


その女性はびっくりして肩をビクッとさせている。そして、声は出ていないが何か怪物を見たかのように青色の目を大きく見開いていた。


「そこは崩れてもおかしくない場所なんです……だから、早く下りてきてっ‼︎」

「えっと、その………なんと言うか」

「それなら、あなたが下りられないのだったら私が迎えに行きます。そこから動かないで!」

「えーっと、はい……でも、どうやって迎えにっ……?って、あなたこそ何をしているの!」

「いいから!」


私は崩れ落ちた瓦礫に足をかけてそれを思いっきり蹴り飛ばす。そして、飛び上がったときに崩れていない、その女性はがいるベランダの床を掴んだ。そして、あとは手と腕の力を使って登るだけ。瓦礫がそこそこ高く積まれていたので登るのは簡単だった。


その女性はまさか本当に登ってくるのだとは思っていなかったらしく、マジックでも見せられたような表情をしている。


「えっ………嘘……すごい………」

「どうかしたの?」

「あなた今、どうやって登ってきたの?」

「え、いや、ただ、足をかけて飛んだだけです。あんなの誰にだってできますよ?」

「へ、へぇ………そうなんだ………」


「人はそんなこともできるんだ」とその女性が小声で言っているのが聞こえる。「人は」ってあなたも人なのに変なこと言う人だと思う。


「それより、こんなところで何してたんですか?ここは昨日崩れたばかりで、今また崩れ始めてもおかしくない所なんです」

「へぇーそうだったんだ。最近ここら辺りは訪れていなかったから、全然知らなかった。ありがとう、教えてくれて、あなたはとても優しい人なんだね」

「えっ?まあ、私こそ、ありがとう」


優しい人なんて初めて言われた。私は言いようのない気持ちに急き立てられて思わず苦笑いでそれをごまかす。そんな大層な褒め言葉を貰えるほど何かした覚えはないですけど。


「あ、そいえば、まだ名前言ってませんでしたね。私の名前はリア。あなたの名前は?」

「私、私の名前は…………うーん」


その少女は空を見上げて、その場で手を大きく広げてくるくると回っていた。そして、唸り声を上げている。


「うーんっと」

「何してるの?どうして回ったりなんかしてるの」

「どうしてかな〜、今は気分がいいから?こうしていると何かいいのが思いつきそうで」

「思いつく?それってどういう………」

「あ!いいのが思いついた‼︎」


その場でピタッと両足を揃えて、回るのを止める。そして、私の方を向きなおって言う。


「私の名前はリリアーナ。よろしくね、リア」

「こちらこそ、よろしくお願いします。リリアーナさん」


さん付けは一応。見た目的に私より年上みたいですし。


「うんうん、いい感じ。そうだ、リアはどうしてここに来たの?山に何か食材を取りに来たの?」


自分がどうしてここに来たのか忘れる所だった。リリアーナは青色の目を大きく開けて私の答えを待っていた。


「怪物が……怪物さんがここに居るって聞いたから。見てみたいと思って」

「怪物?そんなの物騒なものにあって何がしたいの?」


リリアーナの目の青色が揺れた気がした。あれ、私何かまずいことを言いましたっけ?


「いや、別に特には」

「ふーん、だったら、止めておいた方がいいかもしれない」

「どうして?危ないから?」

「………まあ、それもあるけどさ。ほら、空を見てよ」


リリアーナは空を指差して相変わらず笑いながら言う。私はその指差す方向、空を見上げた。空はさっきまでと変わらず、青く澄み切っていて何も変わらない。


「空がどうしたんですか?天気は良好ですし雨が降るようには………って、リリアーナさん?」


横にいたはずのリリアーナさんがいない。まるで、最初からいなかったように。辺りを見回してもどこにもいない。おかしいな、どこに行ったんだろう。急ぎの用事で帰ってしまったのかな。


「不思議な人……」


ぽつりと、そう口に出る。少ししか会っていないのにそんなことを言うのは失礼かもしれない。でも、リリアーナさんからはまるで、おとぎ話の登場人物のような雰囲気だった。どこか危うくてふわふわしている。そんな人だった。


どうしよう。リリアーナさんも帰ったことだから、リリアーナさんの言う通り今日は怪物探しは止めておこうかな。早く街に戻らないと日が暮れてしまう。あの街には街灯なんてあるわけないし、みんな日が暮れたら寝るのが普通だ。お陰で、私は前世よりも健康的な生活を送れている。


私は崩れた屋敷と森から離れ、家へと向かった。




どうも、沙来です。

付け足しですが、ちなみにリアは気づいていいないようですしけど、アリルの言った『エルフ』がリアが元いた世界のエルフと変換できたのはリアの無意識によってです。


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