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4、森の屋敷①

よく考えれば誰にでも分かることだった。


私が住む周りの家は殆どが貧乏で、大人達は朝早くに家を出て仕事場へと向かう。それぐらい働いてもやっと生きていける程度のお金しか貰えない。だから、日の昇る頃には当然のように子供達を含め全員が起きている。


そのカルって子が何か理由があって朝に家を出たとしても、『誰もカルを見かけていない』のは不自然すぎるのだ。ここら辺は家が密集している。外に出れば誰か必ず人がいるぐらいなのである。それに、カルっていう子が姿を消した時、母親はご飯の支度をしていたらしい。だとしたら、朝食を作るために水を汲みに出ていた人も多い。


一人ぐらい、カルが家から出てきた、あるいは道を歩いていたという目撃情報がなければあまりにも不自然だ。カルが外に出たのはまだ日の出ていない暗い時間帯ではなかったことから、暗くて見えなかった何てこともない。


私がそれを話すのを二人は真剣な面持ちで聞いていた。


本当にカルはたまたま外に手で迷子になったのか、それか、連れ去られたのか……本当に偶然だったのかということである。


「_______つまり、私が思うに、カルは自分から見つからないようにどこかへ出かけて行ったんじゃないかって思うの。まあ、クリフのいう通りただ迷子になっただけかもしれないけど」


二人はそんなこと考えつかなかったかもしれない。意表を突かれたように固まっていた。私達よりも小さな子供なら何か面白そうなことにでも目がいって、それについて行ってしまい、迷子になったのだろうとぐらいしか思わないはずだ。そんな小さな子がわざわざ、人目を避けてどこかに行ったのだなんて考えつかないだろう。


「クリフ、カルがそうまでして行きたい場所ってどこかな?人目を避けるってことは行ってはいけないような場所だと思うんだけど」

「………俺も分からないな」

「………もしかしたら、街のはずれにある屋敷とか?」

「あの屋敷か?でも、カルがどうしてそこに行ったんだ?確かにあそこは行くなって言われてるが」

「屋敷?」


この場所には似合わない単語だった。屋敷って貴族とかが住むような大きい建物ですよね。どうしてそんなものが近くに建ってるのだろう。


「ああ、なんでも物好きなわがままなお嬢様が、街外れにある湖を気に入って建てさせたらしいな」

「でも、このファストロードの近くだから治安が最悪で、今では殆どそのお嬢様も訪れなくなって。今はそういう奴らのたまり場的なものになって、ボロボロになったらしいです。それで、怪我をして危ないからとこの近くの子供達はそこへは行かないように言われているの」


その屋敷がどういう理由でそこに建てられたのかは分かったけれど、それだけじゃあどうしてカルがそこへ向かったのかが分からない。ただ、行ってみたかっただけなのだろうか?


「でも、カルはどうしてそこへ行ったかもしれないんですか?」

「カルは私の家の近くに住んでるんです。それで、前にカルのお父さんが帰ってきてくれた次の日に、カルが嬉しそうに話してくれたんです」

「何て?」

「お父さんと一緒にお母さんに内緒で街外れの屋敷を見に行ったって。中にも少しだけ入ってみて、ボロボロだったけどお父さんとお散歩できて嬉しかったって……とっても、嬉しそうに」


アリルの表情は暗い。そこまで言ってクリフが気づいてのか、ハッとして言った。


「もしかして、カルはお父さんに会えるかもしれないって、そこへ行ったのか?」

「多分、死んだお父さんと会えるかもしれないって思ったんじゃないですか?」

「……………」

「カルはまだ、お父さんが死んだことを認めたくないんだと思います。だから……」

「なるほどな。それなら、カルのお母さんも知らないわけか」


今の内容をまとめるとカルが屋敷に向かったのは死んでしまったお父さんに会うためってことでいいのかな。でも、二人と口ぶりだと最近カルのお父さんが死んだみたいに聞こえるんだけど。


「あ、あの、カルのお父さんってその……」

「ああ、リアは昨日風邪で寝込んでたから知るわけないか。でも、寝ていた時に大声が聞こえなかったか?」

「そいえば、聞こえた……嗚咽の混じった声が。まさか……」

「昨日な、カルのお父さんは餓死したんだ。これから生まれてくるだろう赤子のためにな……カルとその赤子と母親を置いてな」


クリフは下を向いて言葉を詰まらせて言った。やっぱそうだ、昨日私が見たあの女性と男性がカルのお母さんとお父さんだったんだ。そいえば、近くに小さな子供が立っていたっけ……それが多分カルっていう子なのだと思う。


場の空気が暗くなる。まあ、こんな話をしたのだから仕方のない話だけれど。




すると、誰かがパンっと手を叩いた。


「はいはい、暗い話はここまでですっ。行き先は決まりました。他の場所は子供たちに任せて私達はその屋敷に向かいましょう」

「そうだな、アリル」

「はい、クリフ、屋敷の場所は分かりますか?」

「ああ、こっちだ!」


クリフは北の方角に走っていく。私達はそれを追いかける。行き先は見えた。後はカルがそこにいることを願って探すだけ。










「本当にボロボロ……」


屋敷について第一声がこれである。まるでホラーゲームに出てきそうな木造の洋風な屋敷。窓ガラスは割れ、止め金具の外れた窓が風に時折揺れてギシギシと音を立てている。壁の塗装も剥がれ落ちいてる。


「これなら、大人達がここに来るなっていうのも分かります。こんなにボロボロでは床が抜けてもおかしくなさそうです」

「でも、この屋敷と違って、こっちの湖はその我儘お嬢様が気に入っただけあってとっても綺麗だね」


私は屋敷の前、つまり私達の後方にある湖を指差して言う。太陽の光が反射して角度によっては水面が輝いて見える。木に囲まれていて色合い的にも最高。このボロボロの屋敷とは似合わないような美しさだ。


「そうだな、森が近いし、その我儘お嬢様も気に入るわけだ」

「ですが、この辺りにカルはいないようです。そうなると………」


アリルは言葉を途切らせて屋敷の方へと振り向く。


「やっぱり、この屋敷の中ですか」

「でも、この屋敷、随分と広そうですよ。どうします?二階もあるみたいですし」

「探すしかないだろ。手分けして、まずは一階からな」


そういいながらクリフは屋敷の扉に手をかけていた。そのままそれを奥へと押すと想像通りの耳障りな音がなる。扉の先は廊下が先も見えないほどに続いていて昼のはずなのに薄暗い。


クリフも一瞬その暗さに躊躇うがそれをかき消すように言う。


「行こう、きっとカルはここに居るはずだ」






屋敷の中も予想通りに荒れていた。ものの全てに埃がかぶっており触っただけで手が真っ白だ。私達はそれぞれ手分けしてカルを探すことにした。その方が早く見つかるだろうし、長くこんな所にいればいつ大怪我をするか分からない。それはカルだけに言えたことではなく、私達自身にも言えることだった。


一つずつ部屋を回ってカルが居ないかを確かめる作業を何回もこなす。どうやら、家具もそのまま残っているようで、汚れてはいるがガラスなどで装飾された家具が目につく。しかし、所々家具の装飾で剥がれ落ちたような跡があった。おそらく、誰かが売れそうな宝石が何かを剥がしていった跡だろう。


そんな中でクリフの言った言葉が妙に頭に残っていた。


「カルも私と同じだったんだ………」


でも、カルにはまだ、お母さんがいる。何かあってもきっとカルの母がカルを支えてくれるだろう。そして、いつかはカルが家族の大黒柱となって家族を支えていくのだろう。カルももうすぐお兄ちゃんになるのだから。


そう思うと自分のことのように口元が上がった。大丈夫、カルは私みたいにはならない。なりかけたとしても周りが止めてくれる。


だったら、カルを早く見つけてあげよう。カルにあなたはまだ大丈夫だって伝えてあげないと。胸がすーっとする。突っかかっていたものが消えた。




ガタッ


物音がした。どこかから。私は咄嗟に物音のした方を振り向く。しかし、そこには誰もいない。家具が整然とあるだけだった。


私はもしかしてと目線を天井へと向ける。まさか、二階に居る?あり得ない事じゃない。カルだってお父さんの面影を求めてここに探しに来ているのだとしたら、一階から探し始めるはずだ。


_______そして、一階にいないと分かったら、二階に自然と足を運ぶだろう。


私は廊下に出て階段を探す。あった、廊下の突き当たりの右横に。私はその階段を駆け上がる。階段には絨毯が敷かれていて足音は出なかった。


私が物音を聞いた部屋は階段があった隣の部屋から数えて三番目。


一、二、、三……ここです!


私は躊躇わずにその扉を開ける。

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