1、転生
俗に転生と言われるものがある。時には輪廻と言われることもあり、その言葉の意味はどうやら死んで生き返るということらしい。
私は今、その転生をしたようです。理由は簡単で、私が目を覚ました時に気付いたが、体が子供になっている。周りの景色を見渡せば分かるがいろいろなものがいつもより大きく感じる。
私はつぎはぎだらけの敷布団の中からはいでた
………別に四つん這いになって歩かなければならないほどの年齢に転生したわけじゃない。
体がひどくだるい。頭がぼーっとする。ただ、このだるさは風邪をひいてた時ようなだるさで安心していた。体が不調を訴えているのに安心したとはいかがなものかと思うかもしれないが、(体感的に)ついさっき感じたあの何とも形容しがたい味わったことのないような痛みを味わった後なのだ。あの痛みじゃなくてよかっという意味での安心である。転生していきなりまた死ねなんて御免だった。
それにしてもいろいろと不自然なことが多い気がする。まず、転生したとしてもどうして途中からの記憶しかないのだろう。小さい頃の記憶はどこに行ったのだろう。まさか、今の今まで意識がなかったということはないと思う。見た感じだと私は十歳ぐらいのはずだ。まあ、見た目だけで判断した結果だから本当かどうかは怪しいところだけど。
私が周りを見渡すとレンガでできた壁が見えた。レンガ造りの家ってなんかヨーロッパみたい。部屋の中はじめっとして蒸し暑かった。今はもしかしたら夏のかもしれない。
私がのそのそとはいでていると声をかけられた。
「リア、だめでしょ!まだ、元気じゃないのに動いては‼︎」
ああ、やっぱり私、風邪ひいてたんだ。だから、こんなに体もだるいし、喉が焼けるように痛いんだ。そのせいで声も出ない。
急に上から持ち上げられたと思ったら、また敷き布団の中に戻された。そこでやっと声の主を見ることができた。
そこにいたのはふわっとした茶髪をおろしている女性だった。おそらくこの人が私のお母さんなのだろう。その人は私に薄いつぎはぎだらけの掛け布団をかけていた。そして、私の頭を優しく撫でてくれた。その手が冷たくて気持ちいい。
私はやはり風邪のせいで疲れていたのか、その記憶を最後に眠ってしまった。
私は明るい光を鬱陶しくて感じて目が覚めた。どうやら、昨日は閉じていた窓が開けられて光が直接私に当たっていたらしかった。
昨日のだるさは消えていて、いつもの調子に戻っていた。起きている時間の中でいろいろなことが一度に起こって混乱していたものの、寝ている間に脳が勝手に処理したようで今は落ち着いている。
突然、目が覚めたら自分が死ぬ直前でそのまま天国か地獄にでも行くのかと思ったら、今度は別世界に転生していた 。
…………ざっと、起こったことを並べるとこんな感じ。
まったく、知らない間に理由も分からず死ぬなんて、元の世界で生きていた頃の私は想像もつかなかっただろう。まぁ、今となってはどうして自分が死んだのかというのを突き止める術はないのだから、ここで生きるしかない。
元の世界でもある程度幸せに暮らせていたし、こっちの世界もそれぐらいに普通に暮らせれば問題ない。私はある程度幸せに暮らしたいだけ。別に高望みはしない。生まれ変わるのならどこかのお姫様がお嬢様が良かったなんて言わない。私は一般市民でいい。なんなら村人Aとかでもいいしモブでもいい。主人公よりも何にも巻き込まれず平凡に穏やかに暮らせる方が幸せ。私はのモットーは幸せに暮らすこと。それが達成できるのならばどこだっていい。
元の世界で思い残すことはあるもののどうせ何もできないのだから、仕方がない。神様がせっかく転生という人生をやり直す機会を与えてくださったのだから、それに甘えよう。
さあ、転生した世界で楽しく生きる、記念すべき最初の一歩。
私はつぎはぎだらけの掛け布団から出て立ち上がる。立ってみて自分が子供になったことがよく分かる。心なしか元の世界での小さい頃の記憶とかぶる気がする。昔はこんな景色を見ていたのだろう。
部屋の端にあったドアを開けた。その先はテーブルと椅子が並んでいて奥に誰かがいるのが見えた。後ろでドアがバタンと閉じる。その音で気がついたのか、その奥にいた誰かが私の方を振り向いた。
「リア、おはよう。どう?体の調子は?」
最初は何を言っているのか理解できなかった。知らない外国語を聞いているような感覚だったが、なぜだか意味を把握することもできたし母国語のように聞こえる。理由は分からないが体がこっちの言葉を覚えているのかもしれない。
「うん、だいぶ体が軽くなったよ」
「そう、よかった……もうすぐご飯ができるから椅子に座って待っててね。今日はリアに体力がつくように豪華にしておいたから」
「うん、ありがとう、お母さん!」
「ふふ、リアが喜んでくれると嬉しいわ。一時期は風邪が治らないんじゃないかって心配したけど、その分だと本当に元気そうでよかった。あと、私にだけじゃなくて遠くで働くお父さんにも感謝してあげてね」
どうやら私のお父さんは遠出して働いているらしい。それにしても、こっちの言葉を話せてよかった。話せなかったらいろいろと大変っぽそうですから。言葉の壁って相当大きいからね。それは学校の英語の授業でしっかりと体験してるから……もう、あの時みたいに言語の授業は受けたくない。
私はお母さんに言われた通り木製の椅子に座った。背が小さいから足をぶらぶら振ることができる。なんかどうしても振りたくなっちゃうんです。楽しいのかと聞かれてもはいともいいえとも言い難いけど理由もなしに足をぶらぶらさせていた。
……もしかして、体も子供に戻ったから心も子供に戻ったのかな?
そんなことを考えていると奥の台所の役目を果たしているだろう部屋からお母さんが出てきた。その手には皿を二つ持っている。
……そいえばさっき、お母さんが今日のご飯は豪華にしておいたと言っていたけど、どんなのだろう。それによっては私のこれからの生活が左右される。ご飯はその家庭が裕福なのか普通なのかを見分けるのが分かりやすい。
私はお母さんがおいた皿の上にある今日の朝食を見て、これからの生活を予測できた。そこにあったのは一つの割と大きいパンだった。水分が少なそうでしっとりとしてはいなさそうだ。
そう、ただのパンだ。勿論、バターもジャムもついていない味っけのないようなパンだ。
_________それだけなら問題ない。ただ、お母さんの話によれば、これがいつもより『豪華』なことだ。しかも、これより量の少ないものが一日に二回らしい。
私はお母さんの方を見た。お母さんはニコニコとこちらを向いている。そして、その笑顔のまま衝撃的な私をどん底に突き落とすような発言をした。
「どう、美味しいでしょう?なんと言ったって、今日はいつもの草と違ってパンなんですよ」
どういうことですか、神様。手違いか私の聞き間違いなんですかね。私、言いましたよね。高望みはしないって。お嬢様でもお姫様でもなくていい。普通の一般市民でいいと言いましたよ?どうしてこんなことになったんですか?どうして、主食が野菜じゃなくて草で パンが高級食みたいになってるんですか?
心の中ではこんなことを思っていても目の前を見ればお母さんがニコニコと私を見つめている。きっと、私が喜ぶと思って苦労してパンを用意してくれたのだろう。その目が痛い。申し訳ない。でも………
_________どうしてですか、神様。どうして、転生先がこんなに貧乏なんですか?