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ラーメンを食べたい

作者: 加村沖
掲載日:2016/05/17

 ラーメンを食べたい。あと30分で土曜日になるというときに、ふとそんな気持ちが湧いた。

 夕食はちゃんと食べている。一人暮らしの倹約生活、自炊生活もそれなりに長く、今日も満足な料理だった。しかし食材の都合からいつもより量が少なかったのは確かで、ラーメン一杯なら余裕で入る空腹感はある。

 いやしかし、この時間にラーメンなど食べるものではない。バランスの良い食事をいつも決まった時間に食べる、食生活というのは大切なものだ。ラーメン一杯程度で栄養の偏りだなんだと言う気は無いが、この時間に食べるとなると話は別だ。麺とスープで満たされた胃は寝付きを悪くするだろう、明日の朝は口臭がキツく、朝の動きも鈍くなるかもしれない。

 止めておこう、そう決めた。欲求を理性で抑えられる、我ながらよく出来た人間だ。


 寝る前にスマホでチャットアプリを見る。スマホの強い光を目に入れるのは、寝付きの悪さに繋がるが、まあこれは単純に自分への連絡をチェックするだけの行為だすぐ終わ……。

 ああ、なんということだ。私とは違い友人はよく出来ていない人間だったらしい、ご丁寧に現在の事だと表す『なう』という文字を付け、デカデカと高解像度で豚骨ラーメンの画像を載せている。美味しそう。

 白をベースとした豚骨スープを切り裂くように、黒油が綺麗な模様を描いている。そこにネギ、細く刻まれたキクラゲ、厚切りチャーシュー3枚、そして縦に切られた煮玉子が、鮮やかな黄身を見せている。黒い器は画面に写っていないところにいる、額に白タオルを巻き黒いエプロンを付けた、威勢の良さそうな店員を連想させる。更にいつもは薄く影が入り旨いものも不味く見せてくれるというのに、ここ一番で会心の作だ。

 私の心に気持ちが再燃した事も知らず、友人は続けて呑気に感想を書いている。語彙が少ないからマジとヤバいとウマいしかないが、そんな単純な表現が普段とは違い心に響く。

 

 私はラーメンを食べに行くことにした。私は信心深いわけではないが、自分の葛藤を後押しするように現れた友人の報告に、少なからず運命のようなものを感じた。そう、これは私の理性が弱いわけでもなんでもないのだ。ただラーメンの神に導かれているだけなのだ。

 行くぞと意気込み寝間着から外着に着替え、スマホで駅前のラーメン屋が深夜2時までやっている事を確認する。駅前まで自転車で7分、歩いて15分、せっかくだし歩いて行こう。

「仮に1時間掛かるとしても、その程度の困難じゃ今の私は止まらない」

 いや流石に止まるわ、と心の中でツッコミを入れて、行ってきます。



マジでヤバいぐらいウマかったよ。

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