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20世紀特急  作者: 五日咲太郎
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プロローグ

時は昭和30年代初頭の東京。その下宿に住み、鉄道研究会に所属している大学生、宮脇勝(まさる)のもとに1通の手紙が届いた。

 誰から来たのか確認したところ、差出人は宮脇長行(ながみち)叔父だった。彼は国鉄の重役の立場にあり、大学を卒業したら彼のコネを使って国鉄に入社しようと勝は考えているのである。

 その叔父から来た手紙の内容は「日曜日は暇だろうか?話したいことがあるので私の家に来てほしい。君が興味を示すものだ」と言うものだった。

 幸い日曜日は何も用事はない。行ってみようと考えた。


「新しい列車ですか?」

 長行叔父の屋敷の応接間。西洋から取り寄せた調度品が並んでいる。部屋自体いつ見ても惚れ惚れするが、屋敷自体戦争の爆撃から免れたこと自体が奇跡と言えよう。自分の汚い下宿とは大違いだ。

「ああ。鉄道好きの君ならこういう事には大変関心があるだろうと思ってここに呼んだ」

 叔父の言う新しい列車とはこういうものであった。


 戦前、日本には「大日本」と言う特急列車が走っていた。それはとても豪華な列車ではあったが、戦争によって「大日本」を含めた特急や急行が廃止になった。戦後、特急や急行で使われていた車両はGHQに接収され、昭和21年には「大日本」で使われていた車両は東京と博多を結ぶ連合軍専用列車“Western Limited”(西部特急) に使用される。昭和27年には日米講和条約発効を機に廃止される。それより2年前の昭和24年には東京と大阪間に特急「かわせみ」を復活させるがこれが好評だったため、1年後には特急「きじ」も登場させる。その結果、「かわせみ」は大阪鉄道管理局、「きじ」は東京鉄道管理局が担当し、「かわせみ」には「かわせみガール」、「きじ」には「きじガール」を乗務させるなどのサービスの競争が起きている。東京〜大阪間の特急列車が好評なら、東京〜博多間の特急列車も走らせてみたらどうかと言う声が国鉄内部で起きる。ついでに「かわせみ」にも「きじ」を上回る豪華列車をと言う声も起きる。そして「大日本」を彷彿させる列車をと言う声も出てきてこれが賛成多数で通る。

列車名については豪華列車として恥ずかしくないものをと言うことになり、外国の鉄道に詳しい職員が「アメリカには『20世紀特急』が走っている。名称的にかっこいいから『20世紀特急』と言うのはどうだろうか」と言う提案が出てくる。「あまりにもアメリカ寄りだ」とか「アメリカから怒られるのではないか」などと批判的な意見があったが、「スピード感がある」「今は20世紀だからちょうどよくないか」などと肯定的な意見もあり列車名は「20世紀特急」となった。これが叔父の言う新しい列車である。

ダイヤについては東京と博多を結ぶ連合軍専用列車“Western Limited”(西部特急)を踏襲するというものである。


「その『20世紀特急』の1番列車に勝君も乗ってみないか?」

「えっ?『20世紀特急』って叔父さんのような国鉄関係者や政財界の関係者が乗るような列車でしょ?それに俺のような貧乏な学生が乗るなんて…」

「大丈夫だ。切符も用意してあるし、私に君を乗せる権限がある。君にとってもいい思い出になる。あと鉄道研究会に入っているそうだから話のネタにもなるだろう」

「あっ」

 そうだ。俺は鉄道研究会に所属している学生だ。この好機を逃してみろ。俺は鉄道研究会の部員として、鉄道趣味を持つ者として失態を犯すことになる。

「乗りましょう」と俺は答えた。

「よし、決まりだな。運転開始が1週間後だ。7時に東京駅で会おう。あとスーツを着ていく必要がある」と叔父は言った。

(とんとん拍子に進むな。新しい列車が登場すると言ったら乗ってみないかと言われる。まあ叔父はいつもこんな感じで物事を進めるきらいがあるからな。あと俺の人生で特急と言う贅沢なものに乗れるチャンスは何十年も待たなければならないから、好機と言えよう。もう「贅沢は敵」と言われていた戦争中とはわけが違うのだ。今は、贅沢は素敵と言っていい時代なんだ!たとえ今の世の中が貧しくても俺はその貧しさから一時的に脱却するのだ!どうだ貧乏暮らしをしている友人たちよ!)と勝は思った。


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