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或るあるシリーズ

或る病院の一生

作者: 林 秀明

私は昼下がり市内の皮膚科の自動ドアをくぐった。室内からモワンとした空気が流れ込み、待合室の客は一斉に私を見る。私は健康保険証を片手に受付員の所へ向かった。

「初めてなんですが……」

「どうぞアンケートをお書きになってお待ちしてください」

少しバタつきはにかんだ感じでアンケート用紙がついた背板とともにボールペンも手渡された。私はまばらになっているソファーを見つけ、一番隅っこに座る事にした。ソファーは前に座っていた人がいたのか温かさが私のお尻を通じて体に伝わってくる。待合室は今年6月にオープンしたばかりで内装の壁は白く、絨毯もベージュをまとった色鮮やかなものだった。右隅には水槽があり下面に砂利と藻が植え付けられていた。魚は藻に隠れているのだろうか見えなく、待合室にはポコポコと水槽から出る音だけがよく響いていた。

 店内には人がいた。人といっても1人、2人ほどしかいず、むろん皆下を向いて待っていた。月や星を見るときは皆上を向いて楽しむが、病院の待合室ほど皆が下を向いて楽しくないことはこれほどにはない。一人は病院内の本を読んでいたが、もう一人はおもむろに取り出した携帯をパカパカとしだした。今はあまり見ぬ折り畳み式の携帯である。

そのパカパカと一定毎になる音に反応して、本を読んでいる人間は眉をぴくぴくさせている。そういった攻防をしている最中、一時間待ちようやく私は名前を呼ばれた。


「どうされましたか?」診察室で医師は尋ねた。

「ここが痒くて……」

私は医師に赤ただれた手を見せる。掻いた後の赤ただれ色が見る人にも痒さを感じさせた。

ここ連日痒くて寝ることもままならなかった。すがる思いで解決策に手を差し伸べる。

「ちょっとこれはひどいですねー。痒いでしょ?」

私の手からパソコン画面へ目を移し、何やら入力をし出す。画面にはカタカナの医薬品がいっぱい映し出されていた。

「原因って何なんですかね?」

「いやーこればかりはわからないですね。薬は出しときますので」

女性医師はにこっと笑い、歯を見せる。湿疹を抑える薬の説明をしだし、私は私の回答を得られないまま話を聞いていた。

「じゃあこれで一度薬をぬって様子をみてください」

そう言って私は診察室を出た。私の頭の中のモヤモヤはいまだに健在している。


「では今回問診費が1050円になります。お薬は隣の薬局になりますので、」

受付員がこれまたにこっと笑い対応をする。彼女自身に悪気はないだろうが、1時間近く待たされ3分の診察に少し私は憤りを感じた。


病院は冷酷非情主義者が経営する場所だ。

かの私の病院嫌いの友人は威張ってそう言う。患者に対して真摯に対応して頂けない。病院は一種の収容場所で我々は囚人だと私の友人は持論を説いたのを思い出した。


私はもうこの場所には来ないと決めた。来ても自分の回答が決して得ることはないと思いながら。だが人間は時に弱く、結局私は2週間後同じ敵地へと入って行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] こういうオチ好きです よく病院行くんでこの気持ちめっちゃわかりますw もう薬だけくれよっていく度思ってますね
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