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あたしはついていなかった。

 

 この日、あたしはついていなかった。

 朝は予定より早くルームメイトのセルツェに起こされ、いい夢だったらしいけど、ひどくうなされていたし。横で聞いてて怖いし。

 時々、うなされるのは知ってるんだけど、実は自覚なかったのかな?

 入学して一ヶ月ちょっと。

 学校生活には戸惑いつつも慣れた。

 家で母さんが事細かく料理片付けを覚えろと仕込んで来た理由を理解できた。

 寮は二人部屋。

 部屋替えはできる。

 相手が合わないという理由も聞いてもらえる。他にも合わない相手との部屋替え希望待ちだったりするし、第五寮への移動になるけど。

 あとは虚弱。体質も理由になる。

 あと、部屋のランクアップというのがある。

 寮は男女ごとに第六寮まであって、一年生は第四寮に割り振られる。例外は成績上位者や特待生、留学生だろう。彼らは第三、第二寮に割り振られる。

 第四寮は、一階に大浴場と簡易食堂。各階に化粧室。部屋にはベッド二台と勉強机。物を入れる場所はベッド下の引出し。それが基本スタイルだ。

 第二寮になると、部屋がまず、寝室と居間に分かれている!

 化粧室と浴室は四戸にひとつ。

 時間がかぶると大変と言っても、各階にやっぱり化粧室はあるので、競争率は低く優雅に過ごせるらしい。……羨ましいっ!!

 ランクアップ部屋替えの条件は成績がモノを言うんだろうなとは思う。しかも、その場合、同室者は変わらないので一緒に努力できる相手でないと上手くいかなくなる。

 なんだかんだ言いつつセルツェとならいけそうだと思ってるんだよね。

 ああ、忙しない生活からおさらばしたいっと。

 そう、お互いに散らかっていても、自分の置いた物は自分では憶えているのだ!

 三週間目にぶつかった。

 一週間、言いあった結果。

 寮監の先生に「片付けないと第五寮に行ってもらう!」と怒鳴られて、片付けた。

 物はまだ少ないから、純粋に広がってただけなんだけどさ。本とか、メモとかがさ、やっぱ手近にあって欲しいじゃん? そしたらセルツェは「机でやりなよ」といい、あたしはセルツェがどのタイミングに洗濯にいけばいいかわからないと広げる衣服を見て「気になるんなら洗ってきたら」と言っては「生地が不必要に傷むじゃない」と返される。うん。仲いいよね。

 ま、後片付けがふたりともヘタなんだよね。

 で、寮内は生物の飼育は厳禁。鉢植え植物も人の背丈、横幅を超えるものは禁止されている。

 まぁ植物も動物も育てられないけどさ。

 ……現実逃避はここまでか。

 そうツイていなさが発揮された気がしているのは害獣駆除だ。

 体育科の先生が薦めてくれたという話をセルツェに振ればあっさり「農場や牧場のおじさん、おばさんに聞いてるわ」と返ってきた。じゃあ自由日に一緒にいかない? というのは自然な流れだったといえる。

 現地でグループを組んだ。

 留学生男子のキト。彼は同じ第一学年。小柄でふわふわした髪の男の子。同じ第一学年だけど、授業は男女別校舎なので専門学部が始まるまで机を並べて勉強するなんてことはないせいで接点はない。

 同じく留学生男子カイエン。彼は第二学年の先輩。

 そして、なぜ、この場にいるんだろうとしか思えない、ツインテール。薄い水色のローブは光沢感が凄い。

 後で聞いたら『防水防塵虫除け温度調整機能付きローブ』らしい。

「欲しい!」と叫んだらあっさり「買えば良いのでなくて?」止めませんわよとミルキラ先輩は仰られました。

 そして、もう一人。

 シシリー先輩。

 狩猟会の皆さんにこの範囲から出るなって場所指定されてるの先輩だけですよ!?

 上限数設定されてますよ!?

 周りにその指定範囲にあんまり近づくなとか言われてるんだけ、ど?

 第一学年にドン引きされてますよー!?

 楽しそうにブンブンと棒を振り回してないで聞きましょうよ!

「よく聞いて、自分の中でも反復なさいね」

 ミルキラ先輩のキツイコメントも自分向けだと思ってないでしょうシシリー先輩!?

 そのブンブンと回していた棒を回転の勢いのまま、投げつける。

 先輩は照れ臭そうにすっぽ抜けた棒を引き抜きに行く。

 振り返って、満足そうに棒を掲げた。

「まずは、一匹」

 この時点で先輩は狩猟会の皆さんに叱られていた。

 自分の決められた範囲でやれと。

 この時点で、今回は『普通』ではない害獣駆除体験になると知れた。

 ま。規格外の人ってどこにでもいるよねってこの時は思ってたんだ。


 悪魔を見たのは最低規定数の害獣(一人なんでもいいから一匹)を狩り終えてからだった。

 シシリー先輩は無造作に投げて狩っていく。と見えて餞別をしているらしかった。

「これ高値で売れるんだよ!」

 獲物を掲げて見せてくれる。なぜ? と不思議そうにしてるとシシリー先輩は笑った。

「基礎授業は無償だけど、専門授業は有料だし、四季祭の衣装や準備をしようと思ったらないよりはあった方がいいわよ? それに、おなか空いた時にカフェやベーカリー、屋台にいける資金は必要だわ!」

「がんばります!」

 なるほどと思っている横でセルツェが獲物をキラキラした目で見ていた。

 ……セルツェ。現金に見えてるでしょ? その獲物。

「それでね、コレも高値で捌けるし、害獣以外の採取物は一応の検査をしてチーム内で分配が基本ね」

 先輩のためになる解説は後半聞いてられなかった。

 わしゃわしゃと動く複数の細い足。それはシシリー先輩の手に掴まれている。

 ぴかりと光沢茶黒いイキモノ。

「かわいいよねー。一生懸命動いてるのー」

 聴こえなかった。

 聴こえない。聞こえない。

 視界に、見えた唇が長めの睫が彩る可憐な瞳が、にたりと悪魔のように嗤った。

「ほら、かわいーよねー」

 我慢の限界の超えたあたしは悲鳴をあげて逃げ惑う。

「あぶないよー」

 と言いつつ追いかけてくる先輩の手には相変わらずのブツ! って言うか増えてるぅうううううう!

 


 疲れ果てて、みんなと少し離れてしまったことを後悔する。

「大丈夫?」

 先輩は虫を捕獲袋に入れると腰を下ろすように促す。

 恐る恐る横に腰を下ろすとどっと何か疲れが溢れて息がこぼれた。

 空を仰げば枝葉の隙間から青空が広がっている。

「いい運動能力だねー」

「おてんばってずっと言われてましたー」

「あははー。私もー」

 ぽやっと空を仰いでいるとセルツェや、カイエン先輩が合流してきた。

 虫の特徴をセルツェはシシリー先輩に聞いてる。

「春の祭典、ぼくと一緒に回りませんか?」

 カイエン先輩がにこりと笑った。



 

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