僕は見つめている
僕は彼女を見つめている。
声をかけることもなく見つめている。
彼女がなんなのか僕は知っている。
初めて会ったのは彼女が五才の時。
その笑顔に恋に落ちた。もちろん、就学前の年齢だった僕は小さないとこがかわいいと感じただけだと自分に言い聞かせた。
上級学科卒業に向けての追い込み中、叔母からの手紙、『彼女』が滝つぼに落ちたという、内容だった。
慌てた。二枚目の内容が怖かった。一枚目の叔母の文字は震えていたから。
卒業検定なんかどうでもいい。正直そう思った。
二枚目には、『彼女』はぴんぴんしている。慌てた。と、笑い話で済みそうで良かったと書いてあった。
検定試験中のことは覚えていない。次席で卒業できたのだから普段の反復学習に感謝すべきだろう。
僕はそのとき自分に驚愕していた。
彼女が死んだかもしれない。
そう考えた瞬間、世界から色が失われたのだ。
彼女が居なければ、世界に色はない。
そう前回だってそうだった。
血で汚れた神聖な式。
僕は彼女を失った。
そんな想いで駆られた僕の想いは暴走している。
他の女を見ても、付き合ってみてもダメだった。僕には、彼女しかダメだと考えた。だから、僕は教職を選択した。
この街に残り、もうじき来るであろう彼女を見守るために僕は教師になる。
入学してきた彼女は十四歳。
教師にも生徒の情報は伏せられる。親兄弟で教師と生徒になっていた場合、事務方人事が配慮する。
この街から出ない限り、この街での名前は入学時に決められた『籤名』だ。
すぐにわかった。
僕は彼女をすぐに見分けた。
彼女は僕を憶えていない。それでいい。ただの教師と生徒。比較的距離の近い。
最後に会った彼女は五歳。やんちゃなおてんばで考えなしに僕に甘えてくれた。
長い髪を自然に下ろし、少し大きめサイズの制服に身を包んだ君は緊張していたね。
同僚が隣で吐息を漏らした。
「きたか」
小さな言葉に僕は同調する。彼女は君のそばを見ていた。きっと彼女の知り合いも入学したんだろうと思う。
多くの生徒達が学校長の歓迎の辞を聞く。
『よく来た。学べ』
それだけの言葉を数百倍に脚色し、最後に『よく来た。よく学び、友人を作れ』でしめるのがお約束だ。
立ち尽くして聞くことに耐えれない体力のないものに対応できるよう救護班は例年準備されている。まだまだ来賓、事務方、商工長達と挨拶は続くのだがすでに、数人救護エリアに搬送されているようだった。
彼女は倒れた周囲の者を心配しつつも話を聞いていた。
僕は担当教師にこそなれなかったが専門学部は受け持てた。彼女の心を引きそうな情報をぽろぽろと与え、叱るべきは叱り、守るべきは守り、公平を努めることで彼女からの信頼を高めた。
学校生活を優雅に過すためのバイト。代筆、採集、ウェイトレス。教会を通しての奉仕活動。
元来やんちゃな君が害獣駆除にまで手を出したらしいと聞いた時は少し、肝が冷えたけど。
君が無邪気に戦利品を掲げる姿が想像できて温かな気持ちが広がる。
僕に、僕の心に色をくれるのは彼女だけ。
僕は、君にだけ恋をする。
「せんせー。宿題の期日伸ばしてください」
「ダメだ。できるだろう?」
僕は彼女の望むことを叶えたい。
でも彼女が他の男と笑っている時間は削りたいんだ。