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初恋は二度くりかえす

 部屋は白を基調にした露骨な病室。妙に無骨な計器が見える。そっと私を見守る人影。私は彼に問いかける。

「亡くなったんですか?」

 彼の結婚式。花嫁が血まみれで発見された。騒然とした最中、通報、応急処置のできる人に声をかけたり雑用に勤しんだ。思わぬ出来事と対処、それに疲労を感じ少し、休憩した。そのあとの記憶が抜けている。ただひたすらいい夢を見ていた気がする。

「ああ。君が目覚めて良かったよ。(アレ)から一週間が過ぎたんだよ?」

「社長、大丈夫ですか?」

 疲れ果てた表情の社長に声をかける。というか、一週間?! 目覚めてよかった?

「ああ。すべて放り出したいよ」

 彼はそうこぼすように呟く。枯れ果てたようなその様子に私はあえて明るく茶化すような笑顔を作って声をかける。

「私の職と収入はどうなるんですか?」

 妻になるはずの人を亡くしたばかりだとは知っているけれど、目覚めたばかりの私にはどうも現実感がなくてその扱いになる。

「結局、後始末で放り出せないものなのさ」

「お手伝いは必要ですか?」

「ああ。君の助けが必要だ」

 心身ともに疲れ果てて見える彼。かろうじて力になることはできるらしい。

「はい」

 なぜか一週間眠っていたという体は動きが気持ちぎこちない。早く動けるようにならなくては。


「……ところで」


 リハビリプランを考えているところに言い難そうに切り出される。いつだって用件をすっぱり告げてくる彼にしては珍しい。

「はい?」

「いいニュースと悪いニュースがあるのだけどね、どっちから聞きたい?」

 茶化すような口調。それは嫌な予感しかもたらさない。一週間の空白以上の悪いニュース?

「……悪い方から」

「警察がね、会社そばにある君名義のマンションを、家宅捜査したよ」

「!!」

 家宅、捜査? あそこを?

「大丈夫かい? 必要ないと思うとは言ったんだよ?」

「ありがとうございます。良い方は?」

「警察がね、家宅捜査の結果、君が無実と認めたよ」

 それって!

「殺人容疑かけられてたんですか!? なんでまたっ!?」

 社長の未来の奥様とは数回顔合わせをしただけだ。

「君が『私の結婚に恨みを抱いて』だそうだよ」

「ありえません!」

 わけがわからない!

「そうだね。もしそうなら三年前のプロポーズを受けてくれたよね?」

 提案された利害結婚。煩わしいと断った。

「社長が二次元キャラなら考えますと答えました! 三次元で許されるのはヌイグルミとスタチューだけです!」

「私はどちらでもないね」

 迷いなく言い切る私に社長は静かに言葉を添える。呆れるを通り越して彼は受け入れてくれている。好意的に。

「その通り! あああああ。私の愛の巣が荒らされたのね! 最悪だわ!」

「お母様と妹さんが立ち合ったそうだよ」

 更に悪いことが追加される。家族には内緒のマンションだった。残業時の着替えシャワー睡眠場所。便利なホテルのような場所でもある。家事の苦手な私が気合い入れて掃除してる。

「……。さ、最悪だわ! 殺される!」

 会社そばの私名義のマンション。それだけなら、ここまで恐怖しない。


 そう。理由があるのだ。


 それは恋愛ゲーム。その部屋は『フォーチュンネーム――恋する学び舎――』のコレクションルームだから。もちろん、ノーマル二次本もイケナイ二次本も大量にコレクションしている。

 第三者にそんなコレクションルームが開示されたのだ。



 しかも、事情を知らない母と妹立会い!



 私のキト様コレクション!

 抱き枕に等身大ポスター! キト様をはじめとするキャラをイメージして作ってもらった三分の一スケールドール達!

 ドール達とお揃いファッションで撮った写真はコルクボードに飾ってたぁああああああ!


 みーらーれーたー。


 死ねる。しかも、私、生きてるし。


 考えなく言葉がこぼれる。声にならない声が脳を支配していた。


「彼女は、幸せそうだったんだ。仮想現実。いわゆる夢の世界。見ていた世界は違うかもしれない。それでも、私は彼女が彼女だと思った。笑って悩んで、夢を抱えて。彼女は幸せを追うことを選んだんだ」


 仮想、現実?

 状況が地獄過ぎて、彼の言葉を聞き流すところだった。

 不思議そうな私に彼は無骨な機械を示す。

「君が愛しているゲーム会社にも出資しているのは記憶しているだろう?」

 愛してるのはゲームであってゲーム会社ではないけれど、私は頷く。

「登場キャラの思考、行動、かな? をトレースするように体験できる仮想現実ゲームの試運転だよ。私は彼女の最後の意識が死に向かう恐怖でなく楽しいものであってほしいというのはわがままだね」

 いい夢、だった……。まるで、ゲームの登場人物になったような……?

 仮想、現実? いや、むりだろ?

「……彼女は、幸せだと、生きることを、今を放棄できないと、あれが彼女の意志ならば、それが、想いならば、私は、彼女に恥じる生き方はできないだろう? だから、前を向かないとね」

 柔らかな笑顔。それは泣き顔でしかないけれど、強がりに私も付き合う。

「ああ、それで失敗して、むこうにいった時に慰めてもらおうってハラですね。ずるい男の常套手段ですね。きっと彼女も満喫しすぎて忘れてますよ」

 ははっと、どこか力のはいらない笑い声。

「とりあえず、もうしばらく休むといいよ。随分と予定が変わってしまった」

 そう言って彼は病室に私を残して出て行く。考える時間がもらえることがありがたかった。


 ゲーム世界の夢。あれが仮想現実だというのなら実際プレイできるんじゃないかとときめく。

 ああ。キト様が落とせるような錯覚があったのに。すごくいいところで目が覚めてしまった。


「失礼します」

 声をかけて入ってきたのは白衣を着たメガネの男性。

「こんにちは。お話、よろしいでしょうか?」

 お医者様だろうか?

「はい」

「久しぶり、だね」

 ?

「どちら、さまでしょう?」


 どこかでみたような?

 そんなことを考えつつ記憶を漁った。

 彼も情報を幾つかくれた。学生時代の先輩。そのうちに思い至った。

「高槻先輩」

 ん?

「マサトタカツキ?」

 『フォーチュンネーム――恋する学び舎――』のメイン製作者の名前だ。

 彼は静かに頷く。


「憶えてる? 夢中になれる恋愛ゲームがしたいって言ってたこと」

 そりゃあよく言っている。

「理想は二次元に求めるって、言い切ってたよね。ぼくは、君の理想を作れた?」

 じっと見つめらていれる。わけがわからない。

「さすがに仮想現実の共有なんて小説やアニメのようには無理だけど、君の見た世界はどうだった?」

 見た世界。

「すっごい! 学び舎リアル再生ですごかったです!」

 夢の中でキャラたちが少しズレタ行動を取る。それがより現実と錯覚させた。

「君には、リアルだったんだね」

 ん? 君には……?


「布津社長はぼんやりとした視界の中で選択肢が湧いて出てくるノベルゲームのような夢だったと言っていたし。人によっては憶えてすらいなかった。最中のデータは確かに記録されているし、彼らの選択記録もゲームに則ったものだったんだけどね」

 彼、ら?

「式に出て、意識を失った被害者はこの施設に回収されてね。治療と、仮想現実体験をしてもらったんだよ。『フォーチュンネーム――恋する学び舎――』を舞台にしたゲームのね」

 血の気が引くような記憶。

 刺し殺された花嫁。

 突き落とされたシシリー。

 シシリーを庇って刺された私。セルツェ。

「はんにん、加害者、わかってるんじゃあ……?」

「推測はできても立証はできないし、ね。重要参考人は君だったわけだけど」

 ん?

 そういえば社長もそんなことを?

 胡乱な視線に気がついた高槻さんが手をあげて、ベッド脇に腰掛ける。

「君が飲んだ飲み物に致死量の毒物が混入されていて、メッセージカードに犯行をほのめかす遺書が残されていたんだよ。君の足元に。君の使うカードで」

 絶句、した。

 言葉がなかった。

「式の参列者の半数以上がその毒物を口にしていた。もちろん、推定犯人もね。彼女は、彼女を確実に沈めたかったようだね」

「成功、したんだ」

 彼女シシリーはあそこで幸せを追える?

 ナヴァンと幸せ?

「疲れた、かな?」

「少し。情報量がちょっと多かったから」

 追いつけない。

「ねぇ憶えてる?」

 え?

「夢中になれるゲームを作った人のお嫁になりたいって言ってた」

 え?

「ミルキラはぼくの理想。ぼくは、美樹さん、君の好みのゲームを作れてる? 君が選んでしまうゲームを作れてる?」


 彼は学生の時の先輩で私が選んでしまうゲームの製作者。

 そっと、胸を見下ろす。鼓動が早まる。

 ちらりと彼に視線を向ければ、私をじっと見ていた。

 顔に熱が上るのを感じる。

「ミルキラが、理想って」

「少し、美樹さんをイメージしてたのは確か、かな」

 照れたようなはにかむような高槻さんの言葉。

 ああ、そうなのかと思う。

 そういうことなのかと。

「ぼくの初恋は美樹さんだから。ぼくの一部でもいいから美樹さんに恋してほしかったんだ」

「……」

 嬉しく、ない。とは言わない。それでも素直に喜べない。

 恋したわ。

 惚れこんだわ。

 いくら貢いだなんて計算してないわ。

 イメージモデルって光栄よ?

 嫌いになれなかったまな板ボディ。ちっさいのはいいなぁって思ってたけど。

「美樹、さん?」

「せめて、」

「せめて?」

「ゲームの中では胸をもれぇえええ」

 畜生。ロリコンかよっ!

 わかってるわよ!

 ゲームで需要の合法ロリ枠だわ。

 ああ、どうして彼は笑っているんだろう。

 彼は笑って「お休み」と病室を出て行く。きっと私のマンションの話題を知っている。ドアを閉める寸前、

「ああ、次回作はね」

 え?

「ミルキラがヒロインで、四年間の学校生活、四方の隣国の留学生と自国の有力者のロイヤルハートだよ。キトも攻略対象だよ」 


 キト様落とせる!?








 ねぇ、私がのめりこんだ初恋は恋愛ゲーム。

 一番は攻略不可のキト様。

 少し、ズレタ夢の世界。少し違うキト様にあらためて恋をした。

 アレはミルキラの初恋。


 私に、恋はできる?

 初恋なんて叶わない。

 ねぇ、キト様の中には誰がいたの?

 思うけれどイイ。

 私はきっと貴方に初めての恋をくりかえす。

 初々しい恋心。

 覚悟して。私は素直じゃないの。


 初恋は二度くりかえす。


 それ以上は、きっとめんどくさい、わ。



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