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バッドエンド

 凶刃に身を晒す。

 それは決して選択してはいけない道だ。

 わたくしは一人娘だ。

 他の候補者とは飛びぬけた差をおいた未来の女王だ。

 だからこそ、本当なら恋も儘ならない。毅然と在らなければならない。

 わたくしにもしものことがあれば国は荒れる。

 少なからず起こる後継者争い。

 本来ならわたくしが守るべき友人が、民が困るのだ。時に理不尽な目に合うのだ。

 それを容認したいとは思えない。

 それなのに、どうして、私は『彼女』の袖を握っているのだろう?

「愚かだわ」

 わたくしは道を誤った。なんて愚か!

 愚かなわたくし。

 期待を裏切ったであろう娘としては両親に心から謝ろう。

 そして、できるだけ後継者が早々に定められることを希望しよう。

 ほんとうに、わたくしは愚かだ。

 だって……、後悔していないんですもの。

「シシリーを、お願いいたしますわよ?」

 シシリーに寄り添い抱きしめているナヴァン。

 そして、逃がしたりしない。

 この世界のバッドエンド。それはとても過酷な罰になるはずだ。破滅するといい。簡単に処刑などされない。

 私はセルツェの袖を放さない。

 シシリーを傷つけようとした刃はわたくしを抉っている。

 遠く足音が聞こえる。

 頬に雨が降ってくる。

「ど、どうして」

 血は流れている。傷は多分、深い。

 熱さを過ぎてなんだかわからない。

 ただ、泣いていてほしくなかった。

「わたくしは、お友達を守りたかったんですの。シシリーはわたくしのお友達でしょう?」

 悲鳴が、騒音が聞こえる気がするけれど、それは意味のある音じゃない。

 私が今、聞きたいのは大切な人の声だけ。

「ミ、ミルキラ……」

「あなたに怪我がなくてよかったですわ。考えなしに動くんですもの。気が気じゃありませんの」

 この傷、わたくし、助かるのかしら?

 それともダメなのかしら?

「怪我を、怪我をしたのはミルキラだよ?」

 息を吐く。

「わたくし、次に目覚める時まであなたの泣き顔で心配しなくてはなりませんの?」

「っそ、そうよ。無茶を、無茶をした罰だわ。起きたら、絶対文句を言うわ。だから、だから!」

 本当に怪我はないのだろうかと心配になる。もし、このまま死のうものなら最後に見るのはシシリーの泣き顔になる。

 惜しまれて、友人に惜しまれて逝くのも悪くないかと思う。

 前の人生では友人らしい友人はいなかった。ただひたすらに仕事、そしてゲーム。それ以外に心を割く事はなかった。

 もう少し、周りを見れば、前の私もこうして惜しまれたのかしら?

「好きです」

 え?

「貴女が好きです。ミルキラ。治療が間に合って、復学したのなら、どうか留年してください。こんなドサクサでなくちゃんと貴女に選んでほしいのです」

 ひどい。酷い幻聴。

 留年、しろですって?

 貴方を待つために?

 ゲームでは貴方は攻略対象外。

 わたくしが攻略するからどの主人公達からも守られていたの?

 蒼華ではニアミス危機があったけれど、わたくしに貴方は落ちてくださるの?

「だから、……」


 わたくし、ミルキラの記憶はここから先を覚えてはいないのです。

 ただ冷えた身体。いつの間にか、セルツェではなく、キト様に握られていた手だけが妙に熱かった。


 ああ。嬉しい。キト様が、わたくしの、わたくしのためだけに嘆いてくださっている。


 これを喜ばずにいられない。


 そう、最後は間違いなく、わたくしは幸せだったのです。

 友人を、心のままに庇い、一番好きな人に告白されてその腕の中で意識を失う。


 わたくしは、ひどく幸せの中で意識を落としたのです。


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