私には、重要
川のせせらぎが聞こえる森の岩場。岩の上で釣り糸をたれる。
サイドテールの少女は岩の陰にうごめく釣餌用の虫を捕まえてはこっちにまわしてくる。助かるんだけどね。年頃の女の子が虫をあっさり掴む姿は少しシュール。
「好きって言われるとドキドキするの」
「ふーん。断ったよな?」
手渡された釣餌を受け取って釣り針につけて川に投げる。秋に向かっているといってもまだ暑い。早熟れの果実がようやく出回りはじめた時期だ。
「うん。でも、ね。嫌われてなかったんだって思ったの」
「なんだ。そんなつまらないこと考えてたのか」
ナヴァンの行為はつい素直になれない子供のようだった。多分、ほとんどの奴が「あ~あ~」と思っていただろう。間も悪かったしな。
「つまんなくなんかないんだから! 私には、重要、かなぁ」
「じゃあ付き合えばいいだろ?」
好きなら付き合えばいい。付き合うことでお互いがあうあわないがわかってくるものだから。
「だってね、いきなり学校中退してついて来い。はないと思うんだ。私には、それは選べない」
そこは納得。飛躍しすぎだが、留学生としては時間がないのも事実か。
「両親が気になる?」
「うん。それに友達や大切な人たちはいるわ。卒業するって言うのはその人たちとの信頼関係の維持のひとつだと思うわ。私はそれを大切だと思うから、守りたいんだ」
「ナヴァンのことは好き?」
虫を探す動きが止まる。
「……ぁう」
かすかに見える耳の先が赤い。
「そっかぁ」
「こっちに来てもいいって、卒業したら会いに来るって。迎えに来るって、ナヴァンは言うの」
「先走りすぎだなぁ」
おそらくナヴァンが居場所に拘っていないことはシシリーも理解している。
それでも、ナヴァンの発言が付き合う以前の段階としては先走りすぎなのも事実で。同時にきつく嫌がらないシシリーがその状況を受け入れているとも言えるからナヴァンが止まらないとも思える。
「うん。だから、すこーし、困っちゃうの。それでもね、先走る彼を見ていてドキドキするんだ。一緒に、それは素敵、なんて言えないけれど、ただね。イヤじゃなくて。嬉しいんだ」
ふわんと笑うシシリーは間違いなく嬉しげで。
「断るのに?」
つい、意地悪なことも言ってしまう。相談にのってやるっていうのはこう言うことだ。
「酷いよね。だってね、私、ナヴァンのことよく知らないもの。育った国も違うの。簡単に今までを棄てろって言うの。父さんは言ったわ。早急な男には気をつけなさいって。どう思う?」
「間違いなく、早急だな」
つい笑う。
付き合う前に一緒に故郷に来いと言う男。
確かに早急すぎるだろう。
せめて、お付き合いをシシリーが良い返事をしてから進めるようにコールにでも忠告させとくか。
「でしょう? 笑い事じゃないのよ?」
「はいはい」
それでもな、思うことは両想いかよ。ご馳走様。なんだよな。
「私ね」
ん?
「来年は、頑張って泳げるように目指してみようと思うの」
「なんでまた? 泳げなくても普通は困らないぞ?」
シシリーはこっちは向かずに空を見上げる。
その先にあるのは枝葉のむこうに広がる空。それとも見ているのはその枝葉だろうか? それとも、未来?
「心配をかけちゃったから。私は、私の幸せを求めてる。だからね、私が原因で悲しい思いをできればさせたくない」
「ん?」
シシリーが振り向く。
「わがままなの。私は、今を幸せでいたいから。困らせられるのは、振り回されるのは一部でいいと思ってるの」
笑顔だ。笑ってそう言葉を紡いでいる。
「ナヴァンと、幸せになれるのかい?」
「そんなの!」
「そんなの?」
「わかるわけがないわ!」
迷いなく、言い切る。
そんなシシリーを応援しつつ、胸の底に溜まる澱みがざわついた。




