略して桃心
あたしには前世の記憶がある。
『籤名――恋する学び舎ピンキーハート――』
略して桃心。
大好きな乙女ゲームにして、姉からの布教品だった。
他にもシリーズはあったが私は手をつけなかった。パッケージ説明チラ見で逃げた。
姉、恐るべし!
まぁ、『こっちは十八禁だからダメ』と取り上げられたんだけどさ。
これはきっと、サポートキャラ転生だと思う。
桃心Ⅲ。新入生として学び舎に入学してくるヒロインにいろいろと手助けをするサポートキャラ、アレキシ。
どー見てもバカキャラなのに、主人公が出会った攻略対象の友好度を教えてくれるキャラだ。
例えば、
「なになに先輩との友好度が一番高いけど、祭典に誘うにはもう一息かな?」
とか、
「どこそこの専攻科目の何々ちゃん、ヤキモチ妬いてるから、闇討ち注意だよね」
とか、聞きさえすれば教えてくれるのだ。
もちろん、聞かなきゃ教えてくれない。その裏側を、あたしは知ったのだ!
見える。
好意の、感情のラインが見える!
正直、むっちゃジャマ!
顔を見る。名前を知る。学生証を意識のどこかで確認。個人確定完了!
コレで新しく個人確定した人が前に特定した人を好きだった場合、ラインが見える!
好意の質によって色が違ったり材質が違いそうだったり。鎖って言うのもあると、先輩に伝えれば、『隷属者』だと教えてくれた。怖すぎ! 十八禁で出てくる設定じゃん!
そうか、十八禁も何も関係ないんだ。ひとつの世界の中で起こることだから。
見ないでおこうと思ったら先輩から、チェック報告義務を命じられた。
だから、ルームメイトのセルツェがフィブレ先生にやばい感じに夢中なのも、フィブレ先生がシシリー先輩に超粘着系で見つめているのも知ってる。
先輩たちはそこは割り切れと言うけれど、難しい。
サポートキャラが恋愛対象にならないのがわかる気がする。
コレを見てしまうと、怖くて恋愛できない。
「ばかじゃねーの?」
アラキ先輩が髪をぐしゃりとかき回す。
見えない。
心のラインが見えない。
わからなくって、怖いけど安心する。
「まぁ。女の子の髪を気安く乱すものではありませんわ。アレキシさんも、もう少し身だしなみを」
お母さんのような注意をしてきたのは通りすがりのミルキラ先輩。
ツンデレチョロインライバルキャラと忙しいキャラ。
ちっちゃいのに正々堂々としていて小ささを忘れさせるお姫様。
彼女は恋愛対象としてキトが好きで、シシリーをとても大切にフラグ乱立を叩き折っている。
みんな、ゲームとはどこか違う行動。
ゲームではフィブレ先生はシシリー先輩に執着描写はなかった。ヒロインセルツェはどこか無関心にゆっくり恋愛していく印象だった。
好意を向けられているのがわかるとちょっと嬉しい。
ミルキラ先輩は、あたしにも好意を向けてくれていたから。怖く、ない。
「アラキ先輩、まったねー」
「はしたないですわ。元気でよろしいのでしょうけれど」
困ったようなミルキラ先輩の言葉に照れ笑い。
「注意してますのよ?」
見上げてくる視線が嬉しい。
「心配されてるって幸せ!」
感情のまま、あたしより凹凸の少ない身体を抱きしめる。ミルキラ先輩は足掻いていたけれど、脱出不可能。と諦めると、背中を軽く叩いてきた。
「もう少し、落ち着きましょうね。ナヴァン様も、アレキシさんも落ち着きが足りませんわ」
え?
一緒くたにされた!?




