転生しました
転生しました。
道場の帰りにラブホから出てきた黒塗りライトつけず、ブレーキの気配のないやつが突っ込んできたのが最後の記憶だった。
その日はバレンタインデーの前日で、くれる気配のなかったあいつに『チョコをくれ!』と話をつけてあって、おれは楽しみにしてたんだ。
無理やりにチョコを貰っといて、ホワイトデーに告白するつもりだったんだ。
今生、留学した学校にあいつがいた。
記憶が戻ったのはあいつを見た瞬間だった。
もらえなかったチョコレート。できなかった告白。
制服に身を包み、カフェテラスで談笑するあいつに惹かれずにはいられなかった。
「おい、彼女を知ってるか?」
問いかけてきたのは国の第二王子。おれはその乳兄弟だ。ただ、王子に直接ついてるのはひとつ下の弟だが。
身分不問、本名は隠せのこの国の寄宿学校。就学義務があり、国内から十三~十九の男女をこの街に閉じ込めるのだ。ただ例外があり、宗教に身を捧げる者は義務でなかったり、認可される理由があれば期間短縮は可能だったりする。
この学習機会に基礎学力、それとなく王国への忠誠を育てる方針らしい。
貧しければ貧しいほど、この学校はいいだろうとは思う。
入学時、身につけた技能外見以外は同じスタートで始められるのだ。
制服は夏服と冬服二着ずつ支給。ついで、部屋着と運動着、寝巻きも二着ずつだ。
食事は朝昼はスープとパン。晩はそれにもう一品。最低限そこは保障されている。
「おい!」
そうだ。聞かれてる最中だった。だが、剣の稽古中にいい度胸だと思う。
かんっと、王子の剣を弾く。
「知りませんよ。お、あなたには少し年上のようですね」
王子と呼びかければにらまれて少し慌てる。本名、元の身分は使ってはいけないというこのルールがこんなに面倒くさいとは思わなかった。
「それでも、気になるのだからしかたないだろう?」
拗ねた口調が微笑ましい。視線を追うと、その先にいるのはあいつじゃなかったと安堵を感じる。
ツインテールとサイドテールの少女が語り合う姿が展開されている。制服の胸元に光る学生証は俺と同じ第三学年を示すカラーだった。
基本の授業は男女別。専門課程なら出会うこともあるだろう。
「二人とも! 休憩にしましょう!」
弟が声を上げる。小柄な弟は持っているバスケットを抱え上げる。休憩用の道具を揃えてあるのだろう。
「無駄遣いするなよ」
俺が弟を撫でるとぷっと膨れる。
「わかってます。でも、不自由はさせませんから!」
不自由はさせない。は第二王子を見ながらの発言だ。
自然な動きで当たり前にタオルと水を受け取りながら、王子は弟を見ていた。
「いや、せっかくの機会だしな、できるだけ自分で何とかするぞ。……もちろん、手助けは、期待してるがな!」
弟の助力をすっぱり断ろうとして泣きそうになった弟を見た瞬間、言葉を翻す第二王子。
まぁ、自力でできないだろうことは普通だろうな。
どちらにしろ、今度こそ、おれはあいつに告白するんだ!
生まれ変わっても出会える!
これを運命だと信じたい。
初恋は叶わない。
じゃあ、二度目の初恋なら?
きっと成就させてみせる!
「なにボーっと突っ立ってんだ? 邪魔だ」
あいつに思わぬ急接近した時のこの発言をおれは、覆すことができるんだろうか?
この国にいる期間は一年!
おれはあいつを落とす!
あの時の嫌悪のまなざしは、実に、痛かった……。