空が、青い。
演武会のあと湖渡りという競技を見に来たのだ。
湖のゴール側。
そこが見下ろせる場所。泳ぐ男女。ギリ間に合った? あれ、アレキシかなぁ。判別がついた気がして、少しだけ身を乗り出した。
ぽんっと背を押された。
振り返ってもそこには誰も見えず、体はバランスを崩し、足元がおぼつかない。
空が、青い。
名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。
空が、青い。
伸ばされる手が、見えた気がした。
笑顔。笑顔。笑顔。えがお。笑う女性の赤い口元。ああ、嬉しそうな笑顔。
振り返った鏡に映った赤いドレスの女。その後ろに映った女の影。口元が弧を描く。
沈む。
重い水底に沈む。
「シシリー」
呼ばれて目を開ける。
映るのは不安そうなミルキラ。
「おはよう。ミルキラ」
「……バカ。どうして泳げないって、教えてくれなかったの? 手遅れになったかもしれないじゃない」
私は、湖に落ちたらしかった。
まず、思ったのが地面に叩きつけられなくてよかった。だった。
「アラキ先輩と第四学年の留学生が助けに動いてくれなかったら、手遅れになったかも知れないんですからね! シシリー、不注意にもほどがあるでしょう?」
ほろほろと雫が散る。
「ごめんなさい」
ミルキラを動揺させた自分がイヤだった。
「ごめんなさいね。心配だったの。目を覚まさなければどうしようって。誰に大丈夫と告げられても心配で怖かったの」
ぎゅっと、ミルキラを抱きしめる。
胸の奥が熱い。
「ごめんなさい。ありがとう。大好きだわ。そして……、ただいま」
大好きが募る。
ああ。
「私は幸せね。愛してくれるこんなに素敵なお友達がいるんですもの」
すごく、すごく嬉しくて、息が詰まりそう。
目元が熱いの。
「もう、バカね。私が虐めたみたいじゃないの」
「ミルキラ、ミルキラ」
「頭が悪く聞こえるから呼ぶのは一回になさいよ。なぁに?」
「演舞会! キトとダンス!」
ミルキラの呆れたようなため息。
「あなたが意識も戻らないのに参加できるわけがないでしょう? さすがに中止になろうものならあなたが生半可でなく罪悪感にかられるでしょうからね。開催はされたわよ?」
「中止になってたら罪悪感で死にそう!」
泣ける。可能性あったの!?
祭典を共に過そうって言う恋人達の敵になっちゃう!
「あのね、目撃した人も心配した人も多いわ。不自然な落ち方だったんじゃないかとも言われてたわ。『大丈夫』と言われたから、演舞会は行われたわ。でも、わたくし、笑顔で踊る自信はありませんわ」
ミルキラの眼差しは呆れていた。
だって。思いつかなかったんだもの。
キトに悪いことしちゃったなぁ。




