ねぇ、アレキシ
春の祭典前の試験。
成績は悪くなく、フィブレ先生に「がんばりましたね」と褒めてもらった。
食事も三食食べているおかげで動くことも楽に、胸にも膨らみが育ちはじめた。
夏にむけて気温が上がってくる。衣服が薄く露出度が高くなる。
アレキシは下着姿で寝台に転がっている。
もっと暑くなった時どうするつもりなんだろう。
夏の祭典の前にも試験がある。気温が上がっていくことと慣れで少なくない生徒がだれていく。同時に将来の話題が糖度多めに語られる。専門科目の授業を受ける人も増え始めて男子学生に会う機会が増えてきたことと、四季祭を一人の相手と巡れば幸せになれるという伝説があるからだ。
女子は就職というよりは結婚に偏り気味のようだった。
私もフィブレ先生が望むのなら家庭に入りたいけれど、お手伝いできる技能を身に付けたいなぁとも思うのだ。
「あついよ~」
「今からそのだれっぷりでどうするの?」
今日は湖で泳いできて涼んだんじゃないのかと思う。
「だって暑い~。ねぇ、セルツェ」
「なぁに?」
「セルツェの本命ってフィブレ先生?」
日記を書く私の手が止まる。
すっと顔に熱が上がるのがわかる。
「そうよ。ただの、憧れじゃないわ。きっと運命なの」
私には彼しか見えないの。だから彼に認めてもらいたい。がんばれる。
「アレキシはカイエン先輩が本命?」
意趣返し。私だけが戸惑うのはずるいじゃない?
「え? ないわー。それはないよー」
あっさりだった。
「ない、の?」
「うん。カイエン先輩は落とそうと思ったら怖い人過ぎだしぃ」
「コワいの?」
ぱたぱたと足が寝台を叩く。
「うん。コワい人はちょっとイヤかなぁ。……フィブレ先生もあたしからしたらコワい先生だしねー」
「それは課題提出を忘れるからでしょう?」
なんだ。
原因はアレキシ自身じゃない。
日記を閉じ、まだ湿気る髪を払う。
「明日は私も水練に参加するんだけど、大変だった?」
「ううん。簡単で、涼しかったよー。最初は少し冷たくてびっくりだったなぁ」
私は日記をしまいながらアレキシを見る。
「ねぇ、アレキシ、あなたシシリー先輩が随分乗りうつってない?」
寝台上で足を動かす音が途絶える。
「マジ!? どうしよう!? 手遅れ?」
森を抜ければ一気に広い空間がひろがる。
森の中の道。圧迫感のある木々。上を見ても枝越しの空だった。湖は大きかった。
「むこうには神殿もあるんですよ」
遠くを指すのはここまで引率してくれたフィブレ先生。水練の担当教員が湖畔に建つ建物から出てきた。
女性教員だった。
「こんにちは。皆さん水泳経験はありますかー?」
ノリのいい教師による泳ぐ以前の説明会が始まった。
三人一組。溺れないようにお互いを観察する。
「セルツェちゃん、水着おかしくない?」
「ビキニ!?」
「お、おかしいかなぁ?」
姦しい会話。私はシンプルなワンピース。肌の色よりは濃い目のベージュブラウン。それでも身体のラインが出ると思うと気恥ずかしい。
手足の荒れは随分と改善した。痣や傷が栄養状態の改善で緩和したから。
「はしゃぎすぎては良くないわ」
聞き覚えのある声に振り返ればそこにはミルキラ先輩。濃紺のワンピースタイプの水着に薄手のシャツを羽織っての登場。
女子にも憧れているという子は多くて、組まされた彼女達もそうだったよう。黄色い歓声が上がった。
「監督を勤めるミルキラよ。まずは、準備運動。そして水に入って頭まで沈む。ことから始めますわよ」
ミルキラ先輩は第一学年女子の群れに混じっても違和感はゼロでした。
「セルツェさんは、筋が良いと思うわ。でも、思ったより水中は体力を奪うものですから休憩にしましょう」
水中でのミルキラ先輩は自在な動きを展開していて、女子からの憧れを不動のものにした。
「先輩は四季祭をどう考えてらっしゃるんですか?」
「息抜きと短期目標、それと卒業後の進路への多大な影響力かしら?」
思ったよりまじめな答え。
「そんなに多大なんですか?」
「そうね」
少し考え込むように沈黙。
「人脈は大きいわ。名前は売れなくても顔は売れるもの。それにチェックされているのよ? 多くの教師や、お店の方々は二年から三年で入れ替わるの。つまり、そこで教えて技能を伝えた相手を覚えている人が外に出てそれを伝えたりするの。これはコネとして有益ね。軍部に勤めたいのなら、演武会は記録が国に報告されるから勧誘されることも増えるし、教師たちは関わりのある機関と連絡を取り合っているものだから聞いてみるのもいいと思うわ」
普通に役場なら基礎授業と経理を基礎に雑多にできれば優遇されると先輩は教えてくれた。
私の目標は、学年最優秀生徒になること。
そして、前の生活に戻らないこと。
でもきっとそれすら棄ててもかまわないと思えるのはフィブレ先生。
恋は、愚かなのだと思う。
それでも手放せない。壊れてもいい。褒められて、微笑まれる。それだけで幸せで。もっともっとと欲しがる私は、とても欲深い。
ねぇ、アレキシ、あなたは私もコワいと感じるのかしら?




