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早朝の中庭で

 早朝の中庭で花に水をやるサイドテールの少女。すっと姿勢よく立っている。ヒールを履いているようでもないが、それとなく背が高い。制服で抑えられた胸はそっと主張している。

「おはようございます」

 私に気がついた少女はにこやかに挨拶してくる。

「おはよう。いい朝だね」

 何気ない挨拶を交わし、私は彼女のそばで雑草を抜いたり、手入れを手伝う。

「先輩も植物が好きなんですね」

 静かな雑談が最近の日課。


 好き?


 それほど意識した覚えはなかった。

「そうだね。好きなんだと思うよ。そこにあって和むから」

 華やかに自己主張する花も咲いているのかどうかもわからないような小さな花も、ただ伸びる葉も、その香りが、土の香りが心を安らげる。言葉を受けてそう思えた。

「お国でもご自分で手入れなさるんですか?」

「いや、国ではそんな機会はなかったな」

 抜こうとした動きを止められる。コレは雑草ではないらしい。

「シシリー」

「はい」

「君は、幸せかい?」

 彼女は瞬間、きょとんとしてからふわりと破顔。

 眩しい笑顔を見せてくれる。

 ぐっと胸を締め付けられる感覚を抑え込む。

「はい! 学校も楽しいですし、みんな大好きです」

 迷いのない笑顔と言葉。

「ナヴァンも?」

 そう尋ねれば、さっと陰る表情。

「たぶん、……嫌われてるんです。……全部の人に好かれる生き方は出来ないと思うのでしかたないとは思うんですけどね」

 嫌われている?

 ナヴァンにシシリーが?

 それは、ないだろう?

「あんまり迷惑をかけたくはないんですけどねー。春の祭典では、とても迷惑を掛けてしまって、余計、嫌われてしまっていそうです。どうしてか、つい……、あ! ごめんなさい。つまらない話題ですね」

 困ったような微苦笑。……心のうちで思うのはシシリーの心がナヴァンに傾いているような気がするということ。私はそっと指摘する。

「如雨露の水がスカートにかかるよ?」

 傾き過ぎた如雨露のコトを。

「きゃあ! ありがとうございます。みっともないって怒られちゃう」

 叱るのはおそらく、ミルキラ嬢だろう。

 春の祭典でのハプニング。シシリーに対する扱いすら冷たく見えたミルキラ嬢。それでもシシリーとの中は円満のようで。シシリーは彼女への好意を隠さない。

 いつか、ナヴァンとの仲はこじれた糸が解けるのだと思う。きっと、それを望むのが正しいような気がしている。

「そういえば、シシリーは夏の祭典の水泳競技には出るのかい?」

 湖を渡り切るという競技だと聞いた。

 話題変えにどこか困ったような表情。水着姿を想像してると嫌悪をもたれたかと心配になる。動くことが好きなシシリーなら水の中も好きじゃないかと思ったのに。


「私、泳げないんです」


 返ってきた答えは意外、だった。

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