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否定したいわけじゃない

 あいつと約束を取りつけられなかったおれは演武会に申込んだ。

 春と秋の演武会は基本当ててはいけない寸止め競技。

 夏と冬の演武会はガチ潰し合いだと言う。

 そっちも出てみたい。わくわくするな。どうせなら演武会年間出場でも目指すかとか、考えていた。

 前世を思い出したとはいえ、前のことは曖昧だ。あいつの事と死因ぐらい。

 引きずっているのはあいつへの想いくらいだろうか?

 謝りたい。好きだと伝えたいそんな想い。

 それなのに顔を合わせれば、出てくるのはキツい言葉。同室者(コール)が呆れるはずである。

 自分でも子供(ガキ)過ぎる反応だと感じている。多少、前のおれが死んだ年齢に引きずられている部分かとも思う。そう考えれば、おれは、本当にシシリーが好きなのか、あいつを思わせるシシリーが好きなのかがわからなくなってくる。

 結論を言えば好きは好きなんだから良いかとは思っている。でも、正直、迷っている自分がうざったい。

 気持ちを伝えて困らせるんじゃないか。既に嫌われてるんじゃないかと。こんな弱気がおれにあったのか、前世につられてるんだかどっちだろう。

 コールに相談しようにも、忙しげ。王子と弟も妙に忙しげ。害獣駆除はシシリーとも二人とも組めないまま、森の狩りに誘われた。

 弟が同じ第一学年の少女と学習室で向かい合わせに本をくっている姿におれは少し感動した。

 弟は、女の子に敵意を持っているんじゃないかと危惧していたから。



 演武会の開始までにおれはシシリーを見つけることができなかった。開始時間に遅れるわけにもいかず、参加番号を持って受付に行けば、控室に案内される。

 お祭りなだけあってみんな、随分と華やかな格好だった。ぱっと見では誰が誰かもよくわからなかった。


「ナヴァン!」


 声をかけてきたのはコールだった。

「コール、補習じゃなかったのか?」

「この時間だけは別だ! 鎧、不具合はないな? 材料代のみで造ってやったんだから、しっかり使えよ!」

 明るく笑って胸元を叩かれる。多分具合を確認したんだろうな。

「ああ」

 装備製作者としての激励だった。


「コール!」


 おれの他にもコール製作の装備を使っている者はいるらしく、問題なさそうならと呼ばれるまま行ってしまった。

 おれはマントやひらめく装飾装備は苦手で付けないでおいたけれど、若草色に染め仕立てられた鎧は充分派手に思えた。

 本当に誰が誰だかわからなかった。参加している知り合いは多いはずなのに。



 向かい合った、隣り合った相手の間合いを測ってお互いが気ままに型を披露。呼吸があった相手と組んで打ち合い演武。

 動きから予測して組めそうなら突っ込む。

 そんな最中、突っ込んできた女。

 長いらしい髪を頭の高いところでまとめ、ターバンを無造作に巻いている。鈴の金属音が他の演技中に耳障りだった。

 幾度か打ち合ううち、タイミングが微かにずれた。思わぬ勢いを持って肩を打ちかけた。ずれた先端が髪をまとめるターバンを飾られた鈴を打ち鳴らした。

 その部分への衝撃だけで破損するとは思わなかった。バランスを崩す彼女。避けようとした模造刀が布を引っ掛けていて、シシリーの顔がちゃんと見えた。

 ほんとうに、本当に心臓が止まるかと思った。

 本能的に焦って後退しようとしていた。かかとに絡む生地の感触。半端な動きが起き上がりかけていた彼女の動きにも影響した。そのままだと後頭部を打つ。支えるための手を伸ばし、衝撃で手が痛い。

 それ以上に、顔があたたかかった。


 そこからの記憶は曖昧だ。

 事態はちょっとしたハプニングで片付けられた。まぁ、実際そうなんだが。

 そこからしばらく、学内生徒の視線が今までより痛いものになったように感じる。

 ……そして、謝りたいのに遭遇できない日が続いていた。

 演武会から、再会する事ができたのは一ヶ月過ぎてからだった。


「シシリー」

 サイドテールを揺らしてあいつは振り返る。

「どうかした?」

 何気ない表情が好きだと思う。その問い返しに嫌悪は含まれていなくて安堵する。

「謝りたくて」言えば不思議そうにおれを見返してくる。もしかして覚えてない?

「演武会」そう言えば納得したようにシシリーは笑った。

「アレ、別に謝られるようなことじゃないから気にしないで。装備の不具合無視してたせいのトラブルだし、やり切れるって、自己評価ミスって言うか判断ミス! 謝られるとね、自分の無様さがイヤだから。ね? 弟さんや幼馴染のキト君、同じ留学生ってだけで先輩からとかも謝罪されちゃったし」


 なん、だと?


 覚えのない情報に頭が真っ白になりかける。


「待て」

「なに?」

 打てば響くように帰る声はこわばっている。おれの声が威圧的だったからかもしれない。

 しかたないだろう?

 少なからずショックだった。

「おれがやったことだ。おれの行動がもたらした事故だ。シシリー自身が自己責任という言葉だって考え方だから受け入れられる。でもな」

 シシリーはじっとおれを見据えている。

 脅す気もない。否定したいわけじゃない。いや、否定したいのか?

「おれにとっても、あれはおれの判断ミス、対応ミスだから。だけどな、いや、だからな、『おれ以外』からの謝罪で納得されても、おれは納得できねぇ。シシリーにとっては繰り返されて鬱陶しいだろうけど、」

「戦闘に男も女もないし、あのくらいのことで動揺して行動不能になるようじゃダメだと思ってるの」

 遮られた。

 わからなくもない。でも、でもな!

 おれも行動不能だったんだよ!

「気になる女の子を前にして行動不能になったってしかたねぇだろうが!」


 あれ?

 謝罪、の言葉、じゃ、なくね?



 そして、目の前に彼女はいなかった。


 なぜだ!?







 



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