どーせ減るなら
装備は華やかなカラーに染め抜いた皮革装備。いつものサイドテールじゃなく高めのポニーテール。バラけるのがジャマだから紐でぐるぐる巻きにする。毛先でまとめて鈴を飾るの。音が可愛いでしょう?
目立つ外見が普通。だって、これは就活なのだ。
四季祭でどんな評価を得るかは大きいって聞いてる。王宮の騎士・兵士業とか、貴族層の家での護衛就職、令嬢の婚姻相手。子供の乳母護衛教育役。広がる高収入出会いの場って感じ?
どーでもいいんだけどね!
演武用の刃を潰してあったり、軽い素材で作られた武器。当たれば怪我をするし、死ぬのは当然で、当てた方は失格だ。つばぜり合いはいいんだけどね。
ああ。楽しみだ。思いっきり体を動かすんだ。
先輩や指導教員が笑ってる。「嬉しそうだな」って、もちろん私は頷く。楽しみにこの装備を揃えたのだ。他の子の中には「就活潰れた?」とぼやいている子もいる。そのぐらいで潰れたらそれはそれまでだと思う。
ミルキラはキト・カイエン・アレキシとダブルデート。演武会は見にくると言ってくれた。
同学年で行くほうがいいんじゃないかしらと渋るミルキラを留学生には一年しかないんだからと説得した。
素直になれ!
キトと四季祭をまわりたいくせにって思う。
「シシリー先輩!!」
聞こえたのは後輩の声。
彼の放った模擬刀が私の肩口を顔を隠すように纏っていた覆面と飾りつけた鈴を擦っていった。
打たれた鈴の高い音。
続けて弾けた衝撃はきたけど、許容範囲。耳側でぴきりと音が聞こえた。ひび割れるような、割れるような音だ。で、肩が軽くなった。
「え!?」
彼が間抜けな声をあげて下がろうとしたように見えた。私もちゃんと立とうと思って、手をついた。誰かが放り出したマントが引っ張れた。
何故か彼の頭が私の胸に埋まっていた。ちょっと胸元が痛い。
うーん。
落ち着いて考えてみよう。
たぶん、このマント彼の足元にもあって、下がろうとしたところで私が引いたから転んだ。ってとこかな?
「……すっ、すま」
「ん」
彼の身動ぎで何故か頭に回されていたらしい指が髪を揺らしていく。
正体を隠す覆面の布と髪が引かれる感触がくすぐったい。
正体を隠す理由?
私だと気がつけば向き合うことから逃げる奴らがいるからだ。せっかくの楽しい遊び時間なのにさ。
「シシリーから離れなさい。ケダモノ」
ふってきたミルキラの声。
「あー。ちょっと無様だったぁ?」
恥ずかしいよねー。
「シシリー」
ミルキラの声がなんか冷たい。
「引き上げますわよ」
怒ってるなぁ。
控室で怪我の有無と装備の破損具合の確認。
「言っておきます。不特定多数にはしたない姿を見せることは、品位が減りますわ」
キリッと静かにたしなめられる。ミルキラカッコイイ。
「ん! 心配してくれてありがと! どーせ減るなら胸のお肉だよね!」
動くのに邪魔だもんね。
ミルキラみたいに小柄でスレンダーって可愛いしいいよなぁ。羨ましい!
ぎゅっと抱きついたミルキラの体が一瞬、驚いたかのように硬直した。




