春の学力試験
春の祭典が行われる。
その前に春の学力試験が行われる。
祭典用に衣装を準備していても参加できなくなる可能性のある行事である。
監督する以外参加する機会のほぼない我々教師にはこっちが本番だ。
生徒たちがはしゃいでいる間に第四学年以外の新規クラス分け作業だ。あと、試験の成績の悪い者の補習。
勉強面、生活面、運動面。協調性。適応力。
学校に入るまで座学にあまり縁のなかった者と教育を受けていた者ではスタートが違う。しかし、生活環境の激変で色々と変化する。
最初の筆記試験のみで分けられたクラス割は学力順。必然的に貴族富裕層・一般庶民層・下層という流れの傾向が強い。
事前学習は義務ではないから。
最も下のクラスではまず、文字の読み書きからはじまる。
授業内容は少しずつ上がっていく。
あとは、努力と才能だろう。
何人動かして対応できるか。教師の能力も重要になってくる。移動した生徒はうまく流れに乗れないこともあるからだ。
「フィブレ、お前のクラスはどうだ?」
「そうですね。皆さん頑張ってくださってますね。入学時はギリギリだったセルツェ君は夏の試験で上のクラスに上がれるかもしれません」
フィブレは女子一般庶民層クラスの担任だ。一般庶民層クラスが一番人数が多い。しかし、基本的に勉強をはじめる準備はできているクラスであり、高過ぎるプライドもあまり持たない扱いやすいクラスとなる。
「キャスティエは留学生を受け持っていましたね。どうですか?」
そう。私は男子クラスを受け持っている。
本年度上位生徒クラスだ。
中には担任が女であることに不満を持つ生徒もいる。しかし、それを表に出す生徒は少ない。不満が見えないのも教師としてどうかとは思う。まぁ、寮生活に不満を感じている者は多そうだが、事前準備で落ち着いているのか、困惑を見せるのをみっともないと思っているのかはわからない。
「問題はないな。張り合いがないくらいだが、これからだろう」
それに基礎クラスにいつまでも授業を受けに来るとも限らなくなっていくだろう。
少人数制の専門クラスは有料だ。(留学生には最初から門戸が開かれているがそれは事前に選抜されているのと留学期間が一年間だからだ)
だからこそ、精度も高い。そして、勉強面に不安を感じる者の中には技術者に流れる者もいる。それは構わないし、そのために専門作業者が街に常駐している。
「そう言えば、シシリー嬢に連日第一学年女子が可愛いがられているらしいな」
いじめならやめさせてやれという含みを持たせてみるがたぶん、聞かないだろう。
「そのようですね。狩猟会の方からそろそろ出禁を受けそうなので、声をかけておくつもりですよ」
「生徒に手を出すなよ?」
「キャスティエは手を出されないように。今、人数が減ると困りますからね」
婚期が気になっているとはいえ、さすがに第一学年にちょっかいはかけんわ!
お前の仕事量を増やすためだけに結婚引退したいわ!
抑えてはいるがフィブレのシシリー贔屓は教師間では認識されている。つまり二人きりにはなれないようさりげに配慮されている。仕事を増やすとか、面倒な生徒の監督をさせられるとかで。
「クラス落ちしそうな生徒はいるか?」
話題は仕事に戻す。
「そうですね。一人か二人、やる気が出ない方がいますね。寮監の方からも苦言が来てますから困ったものです」
どうしてもクラスに一人か二人はいるものだった。
「落ちきるまでに、軌道を戻してやれるといいのだが、な」
「キャスティエはいい先生ですね」
「ばっ! バカなことを! き、教師として当たり前だろうがっ!?」
「……ろ」
「抑えて抑えて」
小さく声が聞こえた。
同じく第一学年を担当する教師の二人が書類に目を落としながら俯いていた。
「ん? まずい生徒でもいるのか?」




