転生しました
転生しました。
いや、マジでないと思います!
挙式一時間前にドレス姿で刺殺ってどこの刑事ドラマですか?
順風満帆。学校も就職もほどほどにレールに乗れてやりがいのある毎日。初めての恋は、いつの間にか叶わず、それからも遊びも恋もして、ちょっと学生時代からの付き合いの子達が家族の話題。取り残され感を感じるころに彼と出会って、とんとん拍子。彼の両親ともうまくいきそうだし、うちの両親も満足の笑顔。いき遅れぽくて悪かったわね。
幸せの最中で終わるって幸せかしら?
未練、あるに決まってる。
私、幸せを満喫したかった。不幸だったかと聞かれれば人並み、普通って答えられる。
挫折も成功も味わってるからこそ悔しい。
両親への手紙を読み上げることもできなかった。
彼と寄り添っていくつもりだった。
でも、新しい家族、今の人生に与えられた家族を拒否することは違うの。
だからこそ!
私は今生で幸せになってみせる!
私が前世の記憶を思い出したのは十歳くらい。
咲いてる花をむしろうとして身を乗り出したら滝つぼに落ちた。
流れる走馬灯。
ついでに前世も流れた。
ちなみに犯人は彼にべた惚れな義理の妹だった。
……恋愛、怖い。
十歳の、新しい人生問題なく愛された十歳の少女が恋愛が怖くなるのには充分なトラウマ成分を含んだ、前世だった。
十六になった私は街の寄宿学校に来て二年になる。
ルームメイトのミルキラとの付き合いも二年になる。
ちなみにこの寄宿学校。はっきり言って変わってる。
全寮制共学。街の中にある。この街からして変わっている。の方かも知れない。前世の記憶が変わっていると思わせるんだけど、この国では普通のことなんだよね。
学生である四年間、実家とは一切断絶されるのだ。許可されるのは指定の便箋封筒を使った手紙のみ。身内に不幸や祝い事以外は帰省機会は年に一回。
街というか、学校で四年間使う名前はくじ引きで決まる。ここ注目。くじ引きで決まるのだ!
しかも前年度の卒業生が一人二枚思いついた名前を紙に書き、教師がそこから重複(在校生・教師分も含む)した名前を省き、少なかったら重複を組み合わせるという暴挙に出るので意外とトンでもな名前も混じってしまう。
その分、確かに実家臭は比較的薄くなる。
でも、育ちで身についた態度はあるから、実家身分は関係ないとはいえ、関係性は出てしまうものだ。
だいたい上位貴族・一般層・下層と気がつけば分かれている。できる学力や、技量・礼法が違う。
私は元々一般階層の生まれで、ルームメイトのミルキラが多分、上位貴族だというように。
実家の話題はご法度なのだ。詳しくは知らない。
「あと二年ね」
ふわりとミルキラが微笑む。
「そうね」
私は同意しながらミルキラに教わった作法でお茶を淹れる。
指の位置上げ下げのタイミング、蒸らし時間、かしげる頭の角度、むちゃくちゃ細かかった。教わり始めて及第点をもらえるようになるまで半年かかったものだ。
違う環境を習えるっていいよね。卒業したらどんな職につこうか悩んでしまう。
生まれ変わったこの世界。
男女の役割区別はあるし、身分差別もある世界だった。科学発達はしていないけれど、未文化。とは程遠い。ちなみに絶対君主制度だ。
でも、君主の血統にどうこうしなければ職業選択の自由はあるし、いろいろ逆転は可能だとされている。
つまりちょっとゆるい国で、ゆるい、平和な世界なのだ。
「気になる方はいらっしゃった?」
ミルキラは恋愛話が好きだ。この年頃ならそうかも知れない。ただ、恋愛トラウマのある私には無縁な話だ。
年四回の恋愛系イベント。一巡りすればその二人は幸せな一生をおくれると。ちなみにうちの両親はこのイベントクリア済みのカップルだ。
送り出しの言葉は『いい男捕まえてらっしゃい』(母)『早急な相手は気をつけるんだぞ』(父)である。
私は勉強にいくんじゃないのか!?
と心で盛大に突っ込んだが、両親は恋愛脳で聞いてくれなかった。そして、私は少数派だった。
同じ、少数派のミルキラとルームメイトになれてほっとしていたのだけど、最近、ミルキラはよくこの手の話をふってくる。
少しつつくと、留学生が気になるのだとぽぅっと言葉を紡ぐ。
半月前に隣国から交換留学に来た十人の男女だ。第一学年二人。第二学年五人。第三学年に二人。第四学年の一人だ。
ミルキラが気になっているのは第一学年に入った少年で、風で飛ばされた帽子を受け止めて渡してくれたのだという。
何てベタな出会いなんだと心で突っ込んだ。
ヒトゴトだと思ってた。
剣を振るうあなたを一目見て懐かしさが溢れた。
好きだった。憧れた。道場帰りに車にぶつかってかえらぬ人になった初恋のあなたをとても思い出した。
「なにぼーっと突っ立ってんだ? ジャマだ」
それなのに口を開くとこうだなんて!
でも、恋なんて叶わない方がいいから、この方がいいんだとも思う。
生まれ変わっても、私の初恋は蘇った記憶の貴方。
きっと何度も繰り返す私の初恋。