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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

漫画原作(未作画)

一刀流 唯授一人(ゆいじゅいちにん) 【シナリオ形式】

作者: 阿僧祇

<解説>

 剣豪物です。時代は天正期(安土桃山時代)。

 一応、史実とされてる展開に基づいてますが、これを「ウソくせえ~」とする説も

あるため、講談調に脚色しました。

 この出来事については不可解な部分や不明瞭な点も多々あり、歴史小説等でいろ

いろな新解釈が出されてますけれど、今回はあえて保守的な解釈をとりました。

(だから知ってる人には物語的に新味が無いかも……)

 しかし時代背景とか人間関係とか入れると話が複雑で長くなりそうですから、

極力省略してできるだけアクションを見せ場にするチャンバラ劇に徹してます。

 …というより、ほとんど最後の4ページを描きたかったがためのシナリオ。(笑汗)

 資料にした浮世絵から受けたイメージでは、江戸期の風俗で描いても大丈夫と思い

ます。


<粗筋>

 伊藤一刀斎には高弟が二人いた。小野善鬼と神子上典膳。唯授一人の秘伝をこの

どちらが受けるかに関して、二人の兄弟弟子は師匠の前で真剣での勝負をすること

になった。

 日本武術史に名高い「小金ヶ原の決闘」の物語。


<登場人物>

典膳:神子上典膳(みこがみ=てんぜん)。

  剛直で純粋な男。主人公。

善鬼:小野善鬼(おの=ぜんき)。剣の才はあ

  るがやや粗暴?

一刀斎:伊藤一刀斎(いとう=いっとうさい)。

  達人の風格を持つ老人で、髪は総髪。

女:一刀斎の妾。

武士たち:闇討ちをかけてくる武士たち。


(1)

T「一刀流唯授一人」

キャプション

「天正十六年(一五八八)夏

 上総国 小金ヶ原---

 (現在の千葉県東葛飾郡)」

  ところどころに松林の茂る草っ原(小金ヶ

  原)に立つ典膳。白鉢巻を締め(汗止め

  +耳を抑える)、白たすき。左手に、

  鞘に入った頑丈そうな刀。

  決闘前の緊張している様子。

□ 離れたところ、松の木に囲まれた小さな

  祠の横に座る一刀斎。

  達人の風格を漂わせる老人。

  祠には三宝に載せられた巻物が。

□ 巻物に「一刀流皆伝免許之巻」の文字。


(2)

□ 汗を拭こうとする典膳。

□ 典膳、拭いた直後に、遠方に気がつく。

□ 蓬髪に荒縄で襷をかけ裸足の善鬼、太刀

  を腰に、遠くからやってくる、逞しい男。

  後方に小さく百姓家。

□ 典膳、それをじっと見据える。

典膳(心の声)

「善鬼殿……」

  バブル・アウト……


□ 渡し舟が湾を渡っている。

キャプション

「数年前---

 伊勢桑名」

 舟の乗客は、前シーンより少し若い感じの

 一刀斎が一人。

  櫂を使うのは屈強そうな船頭(善鬼)。


(3)

□ 船を漕ぎながら一刀斎を観察している

  善鬼。

□ 一刀斎、座って居眠りしているかのよう

  だが、刀が手元にあり、いつで抜ける

  状態。

□ 善鬼、ニヤリとしつつ汗。

  背景に一刀斎の手と刀が浮かぶ。

□ポチャッ

  水面に出た櫂から落ちる雫。


(4)

□ギィ~……コ ギィ~……コ

  流れていく舟。

□ 一刀斎、片目を開く。

善鬼(舟を漕ぎながら)

「お客さん……

 相当に遣えますね?」

□ 両目を開く一刀斎。

善鬼ニヤリ

「ぶしつけだが

 岸に着いたら

 あっしに一手

 教えていただけ

 ませんかねえ。(*)」

欄外注:

(*「一手教えて下さい」=「私に勝ってみせろ」=「勝負しろ」)


(5)

□ 舟を漕ぎ続ける善鬼

一刀斎

「このあたりは通る武家に

 死者や怪我人が多いと

 聞いたことがある。」

善鬼

「さあ、

 何のことだか…」

フフフ……

□ 薄目で見る一刀斎。

□ 不適な微笑で漕ぎ続ける善鬼。

□ 

一刀斎

「断れば舟を

 ひっくり返すか

 なるほど……。」

「よかろう

 岸に着いたら

 お相手しよう。」


(6)

□ 岸に舟が舫われている。

□スパン

  脇差しで竹竿を、刀の長さに切る一刀斎。

□ 舟底から、血の跡の残る三尺の大木太刀

  を取り出す善鬼。

□ジッ

  片目で善鬼を見る一刀斎。

□ギロリ

  横目で一刀斎を見る善鬼。


(7)

□ 向き合う両者。背景には松の木。

□ 正眼で竹竿を無造作に構ええる一刀斎。

□ 血の跡の残る木太刀を顔の前に持ってく

  る善鬼。

□カッ……

  太陽。


(8)

□ すでにすれ違った後の二人。

  一刀斎は竹竿を下段に持っている。

  その後ろで背を向けてる善鬼。

□ 驚いてる善鬼。手には何も持ってない。

  後ろで背を向けてる一刀斎。

□トンッ!

  地に落ちる善鬼の木太刀。(飛ばされた)

□ 振り向く善鬼。

善鬼

「も、もう一手!」

□ 振り向く一刀斎

一刀斎

「……よかろう。」


(9)

□ウォォォォォォォ!

  木太刀を振りかざし突進してくる善鬼。

□ォォォ!

  書き文字で繋ぐ。

  全身全霊で咆哮する善鬼

□ヒュッ!

一刀斎の声(静かに)

「……落ち着け」

  風を切る竹竿。


(10)

□バシィィィッ

  つんのめった善鬼の頭に激しく打ち下ろ

  され砕ける一刀斎の竹竿。

□ 白目をむいてる善鬼の顔でバブルアウト。


□ 小さな城下町。

キャプション

「上総国 大多喜---」

  通行人の中に混ざる若い侍(典膳)。


(11)

□ 一件の旅篭?の前。

典膳(お辞儀をしながら)

「高名なる

 一刀流・伊藤一刀斎殿に

 お取り次ぎを願いたい。」

□ 座敷。

  一刀斎が奥に座り、脇に、武家姿になっ

  た善鬼が控える。

一刀斎

「里見家の家臣

 神子上典膳殿と

 申されたな」

□ピクッ

典膳

「はい」

一刀斎

「闇討ちもせず堂々と

 勝負を申し込む

 その勇気は立派だ。

 立ち会おうではないか。」

□ピクピクッ

典膳(心の声)

「勇気? 立派だ?

 三神流の神子上典膳は

 里見家中で最強と

 いわれた剣士だぞ!?」

「このじいさん……

 許せん!」


(12)

□ 山道を歩く三人。

□ ちょっとした台地で向き合う一刀斎と

  典膳。善鬼は立ち合い。

一刀斎

「ここで宜しいか。」

典膳

おう

「得物は?」

一刀斎

「……御随意に。」

典膳

「では」

スラリ

  刀を抜く。


(13)

一刀斎

波平行安(なみひらゆきやす)……か

 なかなかよい太刀を

 お持ちのようだ。」

典膳(脇構え)

「そちらの得物は?」

□ よそ見して何かに気がつく一刀斎。

□ 一刀斎を見ている典膳。

□ 一気に怒りに顔を歪ませる典膳。

□ 一刀斎、片手に太目の枯枝を持つ。

一刀斎

「これで。」


(14)

典膳

「ナメるなあっ!!」

  脇構えで猛然と襲い掛かる典膳。

  正面を向いたまま、無造作に枯枝を

  突き出して迎え撃ってる一刀斎。

□ヒュ…ン!

  交差する二人。

□ 刀を振り終わり、汗だくの典膳。

  背を向けてる一刀斎。


(15)

□ 振り向く典膳

典膳

「くそっ!」

典膳

「だあっ!

 てえいっ!」

  さらに突きかかる典膳。

  すいすい躱してしまってる一刀斎。

□ 絶叫と共に刀を担ぎ上げる典膳。

典膳

「うおああああっ!」

□ 一刀斎、片目。

一刀斎

「!」


(16)

□パ シッ!

  見守る善鬼。

□ 典膳、左手で打たれた右手を抑えている。

  刀はない。

□ 呆然と立ち尽くす典膳。その後ろで腰を

 曲げてる一刀斎(刀を拾ってる)

□ 一刀斎、刀の柄の方を差し出し

一刀斎

「勝負は終った。

 神子上典膳殿

 貴殿の刀です。」


(17)

□バッ!!

  地に両手をつく典膳。(土下座)

□ 典膳、土下座したまま、口を一文字に

  結んで睨み付ける。

□ 一刀斎、微笑してかるく肯く。

□ 笑顔で典膳の肩を抱く善鬼と、喜ぶ典膳。

善鬼

「俺は一番弟子の

 小野善鬼だ

 よろしくな!」

典膳

「よろしくお願い

 いたします

 兄弟子殿!」


(18)

□ヒュン! ヒュッ!

  木太刀が風を切る。

キャプション

「相模国 鎌倉---」

  岩に座って休んでいる善鬼。

  もろ肌となり手ぬぐいで汗を拭ってる

  典膳と善鬼。

善鬼

「ここ数年で

 典膳もほんと

 腕が上がったなあ。」

典膳

「有難うございます

 善鬼殿にはまだまだ

 及びませんが。」

善鬼

「ハハハ

 典膳は力はあるが

 頭を使わないからだよ。」

 善鬼、自分の頭を指で指す。

善鬼

「剣には頭も必要だと

 お師匠様に打ちかかって

 思い知った。

 まずは落着くことだ。」

典膳

「そういえば

 お師匠様は今宵は

 帰られないという

 ことですね?」

善鬼(苦笑)

「また女のところか。」

「あの歳で

 お盛んなことだ

 まったく。」


(19)

□ 夜。布団に入っている一刀斎。

  1ページ目と同じ年齢。

□ 蚊帳に包まれてる寝所。

□ 暗い庭に数人の武士の影。

□ 縁側で、両刀を抱いて唇に人差し指を

  当ててる女。

□ 部屋の中。

  何かに気づき片目を開く一刀斎。


(20)

□バサッ!!

「!!?」

  斬って落とされる蚊帳。

ダダダダッ!

誰か

「伊藤一刀斎

 覚悟っ!!」

□ビュンッ! ヒュン!

  暗闇の中を振り回される刃。

  蚊帳に包まれて逃げ回る一刀斎。

□ 手が畳の上で空を掴む。(刀を置いた

  場所)

□ 頭から蚊帳を被ってる一刀斎。

一刀斎

「!!」

「刀が!?」


(21)

一刀斎

「くっ!」

  蚊帳が絡まったまま(立ち上って)一人の

  武士の右手(刀を持ってる手)を捕まえ

  脇腹を膝蹴り。

武士A

「ッ!」

□ 蚊帳が絡まったまま、奪った刀で、武士

  たちを撫で斬る一刀斎。

バッ! ドシュッ!

武士たち

「ぐっ」

「ぐわあっ!」

□ザンッ!

  一刀斎、武士Bの真っ向を切り落とす。

武士B

「ウッ……」

  派手に血飛沫が上がる。


(22)

□ 雲間から月が顔を出す。

□ 返り血を浴び、息が荒い一刀斎。

□ 死屍累々(7~8人)の座敷から縁側。

□ 斬られた死骸の中に、一刀斎の刀を抱い

  た女も。

□ 手の血刀を見て愕然とする一刀斎。


(23)

□ 死骸に囲まれた縁側で、血刀を床につい

  て膝をつき、うな垂れる。

一刀斎

「…………

 老いたかッ!!」

  足元に蚊帳。


□ ……バブル・イン。小金ヶ原に戻る。

ピィピィ……

  小鳥が飛んでいる草っ原。


(23)

□ 白鉢巻、白たすきで立ち尽くす典膳。

□ 蓬髪に荒縄たすきで身構える善鬼。

典膳

「善鬼殿……

 一刀流正統は

 唯授一人(ゆいじゅいちにん)のさだめ

 遺恨は残しますまい」

善鬼

「ウム。

 勝った方が

 お師匠様の後を継ぐ。」

「そして敗れた方は……」

□ 祠の横に座って見ている一刀斎(遠景)

典膳の声

「いざ……」

チャッ

善鬼の声

「おう……」

スチャッ

  画面の両端から、両者の刀の切っ先が見える。


(24)

□  正眼に構える善鬼。

□  まったく同じ正眼に構える典膳。

□  無表情な善鬼の顔。

□  無表情な典膳の顔。


(25)

()ッッッッ!!

  ぶつかり合う刀と刀。

  必死の形相の両者。

□ザザザザザッ!

  後ろへ飛び離れる典膳。

  追う善鬼。


(26)

()ュッ!!

  善鬼の刀が空を斬る。

  飛びさがる典膳。

典膳

「うおうっ!」

  突き込む典膳。

  体を躱す善鬼。

(ゴロ)

  地を一回転し片手で刀を構える善鬼。

  あくまで隙がない。


(27)

□ 正眼に構える典膳。

  汗をかき息が荒い。

□ 背を曲げて低く構える善鬼。こちらも

  息が荒い。

□ 何かに気がつく一刀斎。

一刀斎

「善鬼?」

(ダッ)ッ!

  突然背を向けて走り出す善鬼。

典膳

「善鬼殿!?」


(28)

□ダダッ

  逃げる善鬼。追う典膳。

□ダダダダダッ!

  百姓家が近づいてくる。

()ッ!

  善鬼、こちらに向きながら大きな瓶(カ

  メ)の後ろに飛び込む。

典膳の声

「ムッ!?」


(29)

□ 瓶の前に立ち止まる、息の荒い典膳。

  足元に土煙。

典膳(心の声)

「……まずは

 落ち着くことだ」

□ 瓶の左側。

典膳(心の声)

「右か?」

  善鬼に斬られる自分の想像が空中に。

□ 瓶の右側。

典膳(心の声)

「左か?」

  善鬼に斬られる自分の想像が空中に。

□ 典膳、愕然として目を見開く。

典膳

「右も死!

 左も死!!」

「……ならば!!」


(30)

(ザン)ッ!!

  瓶を真っ二つに斬った典膳。

  割れる瓶の向こうで驚愕している善鬼。


(31)

□ 真っ二つに割れた瓶。

  善鬼、その向こうで驚愕の表情のまま

  頭から血を吹く。

善鬼

「典……」

□ズズ……

  善鬼、血を吹き出して崩れ落ちてゆく。

善鬼

「膳……」

□ドォォォン

  刀を車に構え、足を四股立ちに開いて

  涙顔で見守っている典膳。

  足元に散る血煙。


(32)

□ 刀を肩にして泣きながら草っ原を走る

  典膳。

典膳

「お師匠様!」

□ 祠の前の三宝に置かれた巻物。

  「一刀流皆伝免許之巻」

  しかし一刀斎の座っていた場所にその

  姿はない。

□ 斜め上方から見下ろした祠の周辺。

  典膳が一人、刀を肩に絶叫している。

典膳

「お師匠ッ!!」

「お師匠様あぁぁーッ!」

ピピッ チュンチュン……

  小鳥が飛びたつ。


<終>

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[一言] 小野派一刀流の開祖・小野忠明の若かりし日の運命的決闘。 チョイスが渋いです。 名刀「甕割り」はもともと伊藤一刀斎が持っていて、 徳川への仕官の口と甕割りを賭けて兄弟子と仕合った、と自分が読ん…
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