戯言 ー世の中、転生者が溢れてるー
めっちゃ思い付きです。
深く追求しないでください。
俺の右隣には授業中いつも寝ている男がいる。もうそれは見事なまでの熟睡。なにせ放課も寝ているつわものだ。ちなみに休み時間のことを放課というのはうちの地方独特だということを某有名県民性ひけらかし番組で初めて知った。放送翌日はこの話で持ち切りだったことは今は全く関係ない。
さてこの男。
学校ではかなりの有名人である。
寝ているばかりのくせに成績は常にトップ。不思議だ、不思議すぎる。ガリ勉タイプではなく天才というものなのだろう。神様は意地悪だ。
起きていなければ受けれない授業、つまり体育も、あれだけ寝てりゃ筋肉終わってんだろと考えるのが妥当だというのにその微かな期待はきれいさっぱり裏切られ、バスケをすれば絶妙なパス回しをし、水泳をすれば古式泳法を披露する。なにこのスペック、はんぱねえ。
大放課、つまり昼休みには手作りの弁当を嬉々として開け、その神々しいまでの作品群を惜しげもなく平らげていくが、なんとその高級料亭真っ青の弁当は当人の手作りというありえなさ。つか、そんなの朝から作ってるから学校で眠たくなるじゃね?と突っ込みたくなること毎日だ。
まあ、色々と羨ましいものをあほほど持っている奴であるが、それをものの見事に跳ね飛ばし、「真正の馬鹿」と朱色の判子ぺたんと額に押しつけてやりたくなるほど飛びぬけておかしなことが一つある。
「おかしくねえし。俺、今の人生で転生五回目だし」
……真正の馬鹿、である。
たとえその容姿が、某男性アイドルグループやたら排出の有名事務所から何度もお誘いを受けるほどだとしても、たとえその運動能力で某有名企業からスカウトされたことがあるとしても、だ。
てめえの高スペックをどんだけこっちは分けてほしいと思ってんだと思ってんだよ!!と何度喉から雄叫ぼうかと思ったことかと本心をさらけださずによかったと思えるほど、真正の馬鹿である。
「ちげーって。俺、本当に五回目。まあそれも俺が覚えているだけで五回だから、本当はもっとあるかもしんねーけど」
真顔でふざけやがる高スペック男がうざい案件をこれ以上どう説明していいのか、我がボキャブラリの少なさに情けなくなりごんっと額を机に力いっぱい打ち付けて怪我をおってしまったのをどうしたらいいのでしょうか誰か教えてください。
「自分で言うのもなんだけど、俺ってなんでもできんじゃん? これって俺が天才なんじゃなくて、俺が何度も同じことを経験しているせいだって思ったら納得してくれる?」
できるかあっっ!!と心の中で叫ぶ。
なにそのチュウニビョウ。
高校生にもなってまだ厨二病患っているとはありえねえ。
思わず目を細めて睨んでしまったのは当然の結果といえる。
「あれ、駄目? これなら信じてもらえるかどうかなんだけどさ、言葉遣いってその時代によって全く違うって知ってる? 一世紀近く前に南米に移住した日本人の子孫が使う言葉と俺らが使ってる言葉が全然違うくて、向こうからしたらこっちの言葉はかなり汚いし、こっちからしたら向こうの言葉は馬鹿丁寧なの。ま、どっちにしてもいい印象がないのが嗤えるけどね」
しらねーよ! つか、そんなこと知ってるお前がある意味すげーよ。
「あ、知らんかった? 他に簡単にわかってもらえるのってないんだよなあ……戦時中の話してやろうか? つっても俺も疎開してたからなあ。それとも動乱の明治維新の時とか? これって庶民にはあんまし馴染みがなくて、その後の鉄道とかの技術改革とか建物が洋風になっていたこととかのほうがよっぽど革命的だったんだよなあ。それとも飢饉の話とか? 人間腹減ると黴たもんとか、土くれとか食うようになるんだよ? もちろん木とかフツーに食うけどさ。ほら、竈の蓋って木で作ってんだろ? あれに味を感じるってスゲーと思わねえ?」
いやもう今の話でいっぱいいっぱいです。
だけどさ、そんな話、授業中の先生の雑談でいくらでも仕入れるし、ちょっと興味があって文献調べたら簡単にわかることじゃね?
やっぱこいつは真正の馬鹿だわ。
「まあ、今の俺があるのは二十年前も学生してたせいだけどな。ライトノベルとかの設定でよくあるトラックと正面衝突して転生ってやつね。あれガチでやりました。それに俺の人生って結構若死にが多くてさー。前回は昭和の後半、前々回は昭和の前半、明治に江戸だもんな。後は知んねー」
話からしたら結構過酷な人生を何回も送ってきた割にはやたらに懐かしそうにしてるってどうよ。
呆けて口をぱかんと開けてる間抜けにしか見えない男を放置して、せっせと弁当のおかずを口にほおりこむ。うむ、今日の空揚げは空揚げにあらず、醤油とショウガとにんにくが効いて大変美味である。さすがは高スペック君だな。抜かりはない。そして次々に口にかき入れると、次の狙いはホウレンソウの胡麻よごしだ。同い年だというのになぜこんなにもいろんな料理を知っているのかとても不思議な野郎だが、きっと親が丁寧な料理を作っているのだろうと推測。そうじゃなければこんなに多くの料理を知る由もないもんな。
結局、弁当箱のなかが空になっても帰ってこなかった高スペック君は、意識を戻した途端、米粒一つ綺麗になくなった弁当箱の隅っこに少しだけくっついているのり状になった米の残骸を凝視していた。ざまあ、である。パック詰めされた弁当(全国展開二十四時間営業の青と緑がイメージカラーの店・作)をそっと横に差し出したのはもちろん優しい友人を自負しているからである。決して次回も奴のうますぎる弁当を狙っているわけではない。
「……こういう味の濃いやつ、キライ。つか、お前こんなのよく食べてんな? だから転生しないんじゃね?」
なんだその人の親切裏切り行為。
それにいくらなんでもそんなこと言ってしまっては某有名二十四時間営業店が泣くぞ。
「あのな、転生したけりゃ無添加の製品喰えよ。だけど今の時代、無添加もの少なくて困るわー。外に食べにいけねーもんな。大抵何かしら入ってるし」
別に転生する必要ないから思いっきり添加物ばんばんでも問題ないっつーの。
てか、転生するのに食べ物注意とか初めて聞いたわ!
「大切だべ? 食器を洗うときに使う洗剤だって、ちゃんと落とさないと食器に付着してて、それがつもりつもって体に溜まるって聞いたことないか? ああ? 知らねえ? それじゃあ、腐食剤使ってる食品喰い倒してるせいで死体が腐らないってのは? ……それも知らねえのかよ。つか、お前ほんとに何にも知らねーのな。よくそれでこのクラスにいれるな」
はあ? 物事知らんのとこのクラスにいれるのと何の関係があるんだよ!
「転生したけりゃ、食べ物に注意するのは転生している人間にとっては当たり前だっつの。なあ、横井」
そういうと厨二病男は後ろにいた横井に声をかけた。
いやまじでやめてくれ。
さらにお前と話してる俺までが厨二病と勘違いされるだろ!
「んあ? ああ、飯の話? そりゃそうだろ、飯は無添加、これに限る! そして次こそは前の世界に転生したい!!」
神様! ここにも厨二病罹患者がいます!!
速攻机に突っ伏して、二人とは無関係な人間を装うことを推奨。
無視だ無視。もしくは空気になりたい。
「お? 横井も転生者なのか? 実は俺もだ。前の人生はこの地球じゃなくて、同じ太陽系の同じ太陽の軌跡を巡っている、地球と真反対側にあった惑星だったんだが、地球と違って自転軸が傾いてなくてさー。四季ってのはこの世界に来て初めて知った」
教室の間反対から声を上げたのは、学年二位の春日部だ。まさかこいつも厨二病……?
なんてことだ。このクラス、厨二病罹患者ばっかかよ。そしてそんな奴に限って高スペックとはこれいかに?
「うわ、まじで?! 横井、俺もそこ出身! 俺はツヴァイ大陸の南にあったリュクセに住んでた!」
「へええ、お前ら結構近くていいじゃん。俺なんて太陽系じゃないからなー。つか、銀河系ですらないからお前らに行っても誰も知らねえだろうから黙ってた」
「なにそれ、やたら遠いな! 俺なんてチョー近。日本じゃないだけだかんなー。前世は中国、動乱期。一兵卒だから上役の名前しかわからん」
「アジアならまだいいよ。俺はアフリカだと思う。肌の色が黒かったからなあ。なにせ生まれてすぐくらいに飢餓で死んだから前世とかいえないかもだけど」
「お前ら人間だったならいいじゃんよ。俺、海の生物だよ。クジラなんですけどー」
「おお、クジラ! 雄大でいいじゃん。俺なんてペンギンだぜ。子供がさー、生まれすぐにアシカに喰われてよお。番がそれがもとで死んだんだよな……。愛情深いのも善し悪しだぜ」
「徳を積まないと高等生物にはなれないから、お前ら今世が人間なら前世で徳つんだってことだよな」
「徳ねえ……そんなの考えて生きてるわけじゃないからなあ。でも食べ物に困らない今世は楽だな」
「いやいや、今の時代、たしかに食べ物はたくさんがるが、無農薬で自給自足でもしないかぎり無添加ものは無理だろう? 俺、来世人間に転生できるかとっても不安……」
「いいじゃん今世が楽しけりゃ。俺の前世は農民やってたから、お上の税の取立てが半端なくてちょー貧乏」
「俺、プロイセンで貴族子息やってました!」
なにこれ、何自慢?
つか、何を当たり前のように転生なんていってんだか。これだから厨二病は……。
呆れて周りを見渡すと、不敵に笑う高スペック男。
「お前がしらなさすぎなだけ。このクラス、お前以外が全員転生者だっつーの!」
……まじでっ?!