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幻想世界の一つの終わり

作者: 小豆龍

【即興小説トレーニング】で時間切れになったものを載せています。

お題:愛、それは魔王

必須要素:海苔

制限時間:一時間

残り三行で時間切れ。

 連れてこられたのは、魔王城の奥深く。

 そこには長い長い迷路のような廊下はなく、宝箱もなく、意味のない小部屋もトラップもなかった。代わりに見たことも無い不思議な装飾が施されていた。

 天井には、不思議な灯りがともされていた(※とてつもなく薄い水晶の膜の内側に、光精霊を封じたような)。床は木材の板張りになった(※みすぼらしい木の棚が置いてある妙な段差のある所で羊毛のサンダルみたいなものに履きかえるよう強制された)。さらに三歳の子どもがやっとこさ入れるような、浅く狭い浴場みたいなところに連れて行かれ、水で手を洗わされた(※ひん曲がった鉄の筒みたいな物の平たい部分を動かすと、水魔法か何かが発動している!?)。さらに水を口に含み、上を向いて声を出せと指示された。その後で吐き出させられた(※その後、その水を少し飲ませてもらったが、まるで高級料亭で出される山上の雪解け水のようにおいしかった)。

 今までの魔王城の内装と比べて妙にみすぼらしいと言うか、グレードが下がっていると言うか。それでいて妙なところに摩訶不思議な仕掛けがあったり儀式があったりと、動揺を隠すのがなかなか難しかった。だが敗軍の将とは言え、人の矜持を失うまいと私はあえて背筋を伸ばし、胸を張った(※しかし何につけてもあの水はおいしかった)。

 体を緊張させると意識もはっきりしてくる。おかげで色々な物に気がつくことができた。壁は未開拓地に住む原住民の家壁のように土でてきていた。しかし仕上げ方は月と亀ほども違う。原住民の土壁が何カ月も放浪した旅人のようにささくれだっているとしたら、魔王城の土壁はそれこそ月の女神の柔肌と称しても良いほどになめらかで、淡い色合いをかもしだしていた。その壁に埋め込まれるようにある木材の柱は、シミのような模様をあちことに色どっていて、普通であればただの節だらけの安っぽい木材であるはずなのに、ここでは目を楽しませる役割を果たしている。

 ここで私は、はたと気がついた。魔王は極めて野蛮で人類を皆殺しにする悪神の化身だと、敗戦に及んでまで教会はそう喧伝し人々を不安がらせているが、これほどまでに我々とは異なる感性で美を追求している魔王が果たして野蛮だろうか。私は見せしめに殺される使者として送りこまれたが、そのような発想しかしない人間の方が野蛮なのではないか。

 頭の片隅に、そう思わせるための魔王の策略だ、と警告する私もいるが、乗せられているなら乗せられているでとことん楽しもうと思っている私もいる。次はどんな驚きが待っているのだろうか。

「何をニヤニヤしている」

 青肌単眼の小悪魔デビルが私の肩に止まる。その声に私を先導していた毛深いコボルトが少し振り返り「構うな」とどちらに声をかけたのかよく分からない言い方をする。

 そのすぐ後に、コボルトは木の床に膝を付き、ある場所を指し示した。

「こちらに魔王様がおわす」

 示された場所は美しい木細工の壁だった。細い木材によって四角い縁が幾何学的にいくつも作られ、その全てに優しく曇った水晶がはめ込まれていた。その水晶の向こうに影がぼんやりと見え、ズルズルと音がする。どうやら異形らしい魔王と、面と向かって話すことはできないらしい。

 これが敗けた将の扱いか、といささか堪えていたところに耳にしたことのない言葉が聞こえてきた。

「はっとひはは! ははふいへほ! へんはほひへひはうほ!」

「はっ、申し訳ありませぬ!」

 どうやらコボルトには分かるらしい。彼は木細工の壁に手をかけ、横に動かした。

 壁が開いた。

 そこには私の孫くらいと思われる人間の娘が、草でてきたような床(汚れるような野蛮な仕上げではない。きちんと床の役割を果たしている草の床だ)に直接座って、足が極端に短い木材のテーブルの上で妙な茶色い物をズルズル音を立てて食べていた。とある地方に小麦粉を練って細長くしたものがあるが、それを茶色くして炒めた野菜や肉を混ぜ込んだような料理だ。かぐわしいにおいがこちらにただよってくる。

「こちらが魔王様にあらせられる」

 魔王と呼ばれた子どもは、口の中のものを飲みこんでニカッと笑った。美しい白い歯には黒い小さなものがたくさん付いていた。

「よく来た! とりあえず喰え!」

 私は確信した。魔王は……魔族は野蛮で人類を皆殺しにする悪神の化身ではない。我々には無い美学を持ったもう一種の人なのだ。


 こうしてとある世界は、魔王によって統一された。この王朝の初代魔王を、人々は慈愛魔王と称し語り継いだ。その傍らには、敗れた人との融和を積極的に行い、時に魔王を厳しく諫めた人間の宰相があったという。

「以上が、我らが王国が魔王を魔族から、宰相を人間から採用するきっかけの発端である。テストに出るぞ!」

「はーい」

「ノートに書き終わった者から飯の時間だ。勉強したら喰え!」

世界観はすごくいい加減です。自己満足でごめんなさい。

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