プロローグ
暖かい布団の中で、私はもぞもぞと起き上がった。時計を見る。午前5時58分。やった!数年振りに目覚ましに勝ったぞ!思わずガッツポーズをする。まあ、たった2分だけなのだが、勝ったものは勝った。私は、密かに小さな喜びに浸っていた。これも、程よい緊張のお陰なのだろう。
そう、今日は特別な日。高校の入学式なのだ。
数日前、私は地元の進学校に、「ギリギリの点数」で合格した。いや、それ程偏差値が高い高校ではなかったのだが、何しろ私の「数学」の点数は壊滅的なものだった。例えば、試験では、50点満点中、10点もとれれば良い方だった。
しかし、数学という弱点を「英語」という得意科目で見事にカバーし、無事に合格ラインに滑り込むことが出来たという訳だ。
それにしても、合格発表を待つまでの間、生きた心地がしなかったっけ。まあ、結果的に全ての努力が報われたのだから、良しとしよう。
そんなことを考えながら、寝癖を直してヘアアイロンをかける。綺麗にストレートになった茶色の髪を、二つ結びに結って完了。お次はルームウェアを脱ぎ捨て、Tシャツを着た上で、真新しい制服に袖を通す。シャツって、ボタンが小さくて留めにくい。しかも、一度掛け違えてしまったので、もう一回全部外して留め直す羽目になった。あと、首が息苦しい。ネクタイも、慣れるまで苦戦しそう。はあ、文句ばっかだな、私。
でも、制服を気終えた頃には、何だかシャキッとした感じで、心もシャキッてなったような気がする。今日から高校生だ。頑張ろう!
そうしてお母さんが作った朝ごはんを食べ、歯磨きやらを済ませたのち、私は緊張しながら家を出た。