第九十七話
あれから四ヶ月…。
初めてここに連れて来られて、いや、そうK子に自分で仕向けてから、この部屋の違和感を感じていた。K子だけが生活するには広すぎて、誰かを取り込もうと待ち構える、淋しさがうまく隠れている。あの時は見えなかったけど…。
観葉植物やレースのカーテンでも無い。もっと別の何かだ。俺は当たりをこまめに調べてみた。刑事でも無いのに一体何をやってるんだ…。K助はずっとこちらを見ている。しかも普通とは違う感情を携えてるから厄介だ。参った。かなり気が散るな。
「K助くん。悪いが外で待っててくれないかな?」
「あ、はい。」
彼はゆっくり眺めながら、玄関の外へ出ていった。重たいドアがしまった後、俺は自己意識達に話しかけた。
「どうだい?」
すると『僕』が声を掛けてきた。
"以前は…。こんな雰囲気だったかな?確かに主人が他界したから仕方ないとしても、妙な違和感を感じる。"
今度は『俺』が話しかけてきた。
"やけに優等生すぎる部屋だよな?なぜ、これ程までに、白い壁や白い物に拘るんだろうか?"
「それは俺も感じた。大抵女性の部屋は白は多いが、ここは行き届きすぎだ。まるで生活感よりも何か違うものを感じる。パンフレットのような…。」
"現実世界だから、化け物や幽霊なんてものは出てきたりしないだろうが、正直、俺は気味が悪い…。"
『私』がゆっくりと話しかけてきた。
"もし良かったら…私にK子さんの感覚と『同感』してもいい?"
「『同感』?何だそれは…。」
"僕ら自己意識は、他人の持つ利己的な意識の影響から主人を守る為に、一定の距離感覚を保っている。それには、他人の持つ自己意識が非常に危険な場合があるからだ。それらを利他的に変える役目が、距離感覚には存在してある。"
"芝生も遠くから眺めれば綺麗に見えるっていう、あれと一緒だ。"
"だが、裏を返せばそれだけ相手の利己的な意識に同感出来るの機能を持っているとも言える。本来人間が他人を信用する為の過程に必要な事は、実はたった一つしか無いんだ。"
「何だそれは?」
"僕達が感じれば良い。"
「そんな…人は簡単に信用するか?」
"相手が人間で言葉を喋るってだけで、もうすでに俺達は信用しているし、見えない酸素を、いちいちお前は空気だと認識しなきゃ吸えないか?"
「それは対極から見ればそうだろうが、屁理屈だろう…。」
"だけれど僕らには事実でもある。信用するしないの判断は、全て一度何処かの感覚で受け止めてから出来る事。興味が無ければ、信用しない判断も必要ないはず。そこで『同感』とは、全ての判断を一定期間遮断し、相手と同様の感覚になる事を目的とした行為なんだ。"
"つまり、俺達はK子の自殺に至った原因を探す為に、感覚を鋭くさせて、一種のプロファイリングのようなものをやらかそうとしているわけだ。出来るだけ感覚を鋭くさせるって事は、余計な思念や私怨も入ってくる。距離感覚は皆無に等しい。ある意味相手に同化する位の距離だな。だが、これを行うにはお前が俺達を心底信じてもらわなければ絶対に無理だ。"
"なぜならさっきも言ったように、僕らが『同感』を行っている間、いかなる感覚でも判断や拒否反応を示すと、必ず自己喪失に陥ってしまう…。"
"今回は相手がいないから良かった。お前がK助を外に追い出した勘は当たっていた。あれ程お前に行為を抱いている性同一性障害の人間がいれば、必ず逆に『同感』をされてしまう。"
"おい!『俺』。その差別的な言い方は良くない。"
"事実だろうが…?!だいたいお前の様な何でも正論でコンプライアンスだって喚いて、差別的な言い方と捉える奴らが多過ぎるから、最近の日本人は人間関係を面倒くさがったりして…"
「分かった!討論はさっき心の中でもう十分にやっただろうが!それより…『同感』している間は、俺は完全なる奴隷な訳だな?」
"ああ、同時にそれは彼女の本音や本意を知る事にもなるが、平気か?"
「構わない。彼女の死の原因には、俺も加担しているのだから。」
"さぁ、始めましょう…。私も此処にはあまり良い雰囲気を感じていません。外部の何かを引き寄せるような…。"
自分は『私』と成り、この部屋の主人の感覚を『同感』させた。
続く




